第60話 武勇
「
それってスゴイのか?」
「……999番は……知らないのか?
キミってばホントーに常識が無いね。
驚かされるよ」
セタントは作業着の裾を直しながら、俺の方をジトっと呆れた視線を向ける。
俺は作業着のズボンと上着の間に見える白い部分に意識のホトンドを持って行かれていたのだが。
ああ、ついに隠れてしまった。
見て無いフリをしながら、白い肌を鑑賞する時間のオシマイである。
…………ってゆーか俺!
男ですから!
いくら肌が白かろうと、透き通るような肌が蝋燭の火に照らされて薄暗い坑道の中で美しく見えようと。
男の子にカラダに目が引き寄せられてどーする?!
……しかし良く考えたら、女なら良いのか、とゆー問題もある。
監視の男に脅されて、無理やり服を脱がされた女性の肌を隠れて鑑賞する。泣きそうになってる女の子の魅惑の素肌をここぞとばかりに目に焼き付けちゃう。
…………サイテー!?
最低、サイテイ、さいっていーーー!!!
サイアクじゃ無いか。俺ってそんなダメなヤツだったのか。
なんて事だ。客観的に考えたら俺の行動ってばヒド過ぎる。
どうしたらいい?
…………ここはひとつ。
素直に謝るべきでは…………
「711番、悪かった。
ホントに自分では……そんなつもりは無かったんだ。
すまない」
俺は頭を下げる。頭の中の葛藤のまま、誠心誠意謝ったつもり。
しかし……頭を下げてしまったが、金髪の子にはそんな俺の頭の中の事まで伝わって無かったかもしれない。
「な、なんで謝るの?
頭を上げてよ」
「こんな俺を許してくれるのか?」
「もちろん。
999番、キミは僕を助けてくれたんじゃないか。
僕こそ、キミにいつも迷惑をかけてすまない、と思っているんだ」
「そうか…………
セタントは優しいな……」
「そんな…………
優しいのはイズモだよ……」
俺達は精神が通じ合ったかの様に微笑み合う。
……もしも俺達の精神の中を覗ける存在がいたなら、通じ合って無い、と言っていたかもしれないが。それはそれとして。
「お二人さん、ジャマして悪いんじゃが……
作業を再開せんか?
また監視が回って来たら、今度こそサボってると言われても反論出来んぞ」
ヒンデル老人に言われるまで、何故か見つめ合っていた俺とセタントなのであった。
俺は坑道での作業をしながら、ヒンデル老人の話を聞いている。
「アレは
ワシも実際に見るのはハジメテじゃが、この国の人間なら一度は聞いた事が在る話なんじゃ。
クライン家、ナイト・オブ・ナイツに代々伝わる
伝わるのは直系の子供だけで、それが発動すると人間に魔物と戦うだけの力を与えると言われておる。
じゃから、男の子なら一度はアコガレるもんじゃな。
ワシも幼い頃は憧れた覚えが在る」
「…………ヒンデルに幼い頃が在ったのか?」
「アタリマエじゃ!
999番、ワシを何だと思うておる。
産まれて来た時から老人なワケが無かろう」
「……ならセタントはやがてクライン家を継ぐのか?」
俺の質問は……こんな鉱山に犯罪者として囚われているセタントにナイト・オブ・ナイツになれるのか、と言う意味が混じっている。
「さて、そこまでは…………
ワシも知ってはいるが、半分お伽話と思っとった。
現実に
詳しい事など解るハズも無い」
「……なるほど」
「それに国一番の
鉱山にいるワシらでは王国の状況など分からんが…………
おそらくトンでも無いコトになっておるんじゃないか」
セタント・クラインは少し離れた場所で作業をしながら、複雑な表情を浮かべている。
「……324番さんはこの鉱山に長い間閉じ込められてるんですよね。
だから、失礼ですけど少し情報が古いです。
今ではクラインを国一番の騎士なんて誰も呼びはしません。
騎士団も存在しないも同然。
全て軍隊の一部として、兵隊達と一緒に組み込まれて……」
金髪の子は少し俯いていて、その表情は淋しそうにも見える。自嘲の言葉をその口は紡ぎ出していて。ヒンデルはその内容に驚いている。
「……クライン家が?
確かにワシは鉱山に閉じ込められて長いから……現在のウルダ国の状況は分かっとらん。
しかし領主であり武人の代表格じゃったんだぞ。
完全に没落したとは思いにくいんじゃが……」
「今でも領主ですし、武人なのは間違いありません。
でも……父は自分一人で闘う武勇ならその辺の人間には引けを取らないでしょう。
しかし現在敵としているのは魔物じゃない。
コナータ国との戦に出撃するのに、個人の武は必要とされていない。
指揮を任されている人間が……兵隊達に命令を下さず、前線に突撃する勇気を持っていても誰も褒めはしません」
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