第62話 心強い
「なるほど。
それで王様の怒りをかって、キミはこの鉱山に送られるコトになったのか」
俺たちは薄暗い坑道の中で作業をしながら話をしている。
たまに監視官も巡回してくるので、その時は口を閉じる。なのでナカナカ話が進まない。
だがセタント・クラインの父親はそれなりの人物だったらしい。
このウルダ国は近隣のライヒーンに攻め込んでいる。そのせいかコナータと言う国とも戦になっている。
その戦いをやめた方が良いと公に発言している。国王は戦って領土を広げようとしているのだ。トーゼン王としてはクラインの発言はオモシロくない。
そのせいで息子を鉱山送りにするとは、いくら何でもヤリスギでないかい。
「いや、いくらなんでもそんな事は…………
でも残念ながら関係はしてるだろうね。
僕は出席予定だった行事に参加しなかったんだ。
急に体調を崩してね。
連絡はしたんだけど、間に合わなかった。
国王は、王の主催する行事に不参加とはけしからん、と言って。
それで僕は鉱山送りになったんだ」
セタントは足元の岩をどかしながら、自嘲するような雰囲気。
無断欠席。それは……もちろん悪いと言えば、悪いコトなんだが……
会社を無断欠席したら怒られるのはアタリマエ。しかし学生だったら欠席の1回や2回は必ずあるモンだろ。
王の行事に不参加なのがどの位の罪に当たるのか、分からんが。
それで犯罪者と混じって鉱山に送られて、強制労働とゆーのは、どう考えてもおかしな話としか思えない。
ましてやセタントは体調を崩していたんであり、更に遅れたとは言え連絡もしている。
逢ったコトも無い国王だが、ウルダ国の王という人間が俺にはろくでもない輩としか思えない。
俺だって……令和日本では社長だったから規模こそ違えど、王様と似たような立場だったのかもしれない。
だけど。
俺なんか、年上の部下の間を駆けずり回って、頭を下げて会社の事を教えてもらったりしてたのだ。そんな好き勝手出来やしなかったんだよ。
思い出しただけでイロイロムカツク。
貴族がどんな立場かも良く分からんけど。おそらく会社で言えば管理職、課長とか部長みたいなモンだろ。
俺の部下のあいつら、そんな良い提案なんかしてくれなかったぞ。
俺だって社長になったのだ。イロイロ社内の改革も行った。社員の待遇改善を一番に考えたのだ。
働き方改革と国もうるさいし、ちょうど良い。
小さい鉄工所から発展したウチの会社は考え方も古い人間が多くて、残業なんていくらしてもアタリマエと思うヤツがたくさんいた。
残業した分の給料もどんぶり勘定。長く働いても、働いてなくても給料は変わらなかったりする。
スマホ式や社員証も兼ねたタイムカードを用意して就業時間をキチンと調べ、正規の労働時間以上に働いてる分は必ず残業として割り増し料金を払う事にした。
役員や管理職にはブツブツ言うものもいたが、法律に従ってるのだ。ここは押し通した。
俺としては一般社員に感謝されるつもりでいた。残業分給料が増えるのだ。嬉しいじゃん。
ところが文句ばかり増えていくのだ。
年配の人間にはこんなの渡されても俺らには使い方分かんねーよ、と言われ。若い社員たちは、いえその、と苦笑い。
なんかおかしーなと思っていたら。やっぱり、月末に振り込んでる給料の総額が変わっていないのだ。
何故なんだと密かに工場の様子を確認してみると、みんな時間でタイムカードは押しているのだ。そしてその後も仕事している。「くだんねーコトさせるよな」「意味ねーじゃん、なんでタイムカードなんか導入すんだよ」「営業なんてよ。スマホで出先でも退勤打刻させられるんだぜ。通信料出してくれよな」みんなブツブツと言っている。一体どうなってるんだ。
あの日は悔しくて眠れなかった。タダでさえ少ない睡眠時間なのに。それすらも奪われたのである。
結局、部長の仕業であった。社員にタイムカードは定時で押せと命じていたのだ。
ふっざけんな!
問い詰めると、私は会社のためを思ってしたんです、などと言い出す。
なんでやねん!
なんで会社のためを思って法を犯すんだよ。バカなのか。訴えられたらどうすんだよ。
正直クビにしたかったくらいだが、そうもいかない。その他にも管理職に協力者が数名。役員の中にも知っていて黙認してたヤツがいる。その全員を処分する訳にいかない。
結局専務の勧めに従って、部長本人は訓告処分、他の協力者は無罪である。一般社員達には再度伝えた。実際の仕事に合わせてタイムカードを押してくれ。仕事した分の金を必ず払うと。
ここまでなら単純で良いんだが、現実はそれで終わらない。
残業は月に何時間まで、何時間以上の残業は年に何回まで、と法で決まってるのである。
その残業時間に近付いた人間がいたら注意しない訳にいかない。注意された人間は結局、隠れて時間外労働をするのだ。後は、年配の人達は結局マトモにタイムカードを押さない。後から丼勘定で何時間働いたと言ってくる。まー仕方ない。お年寄りにはそれが習性で染み付いている。それを無理やり変えさせるのは、それはそれで可哀そうだ。
最終的に以前と似たり寄ったりではあるが、多少は若手を中心に残業申告してる人間も増えた。
何とか自分を納得させるしか無い。
少しはマシになったんだ。年配の方が定年で退職したら更に雰囲気も変わりより良くなるだろう。
そう自分で自分に言い聞かせるしか無いのである。
俺はセタント・クラインに語る。
「それは……セタントのお父さんはカッコイイと思う。
正しいコトは正しい。
間違っているトコはおかしい。
そうキチンと言える勇気を持つ人間は俺はステキだと思う」
「そ、そうかな。
うん、まぁ僕も父はキライなワケじゃないんだ。
不器用だとは思うんだけどさ」
そう応える金髪の美少年は少し照れくさそうだ。
あんな時にさー。あの役立たずの部長じゃ無くて、セタントのオヤジさんみたく、正しい事は正しい。ウソは間違ってる。そうビシっと言ってくれる人が居たらなー。心強かったのになー。
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