第48話 セクハラ

 俺はルピナス・エインステインの事情を既に聞かされていた。

 大きなスプーンにしか見えないシャベルの試作品を作って貰いながら、イロイロ聞かされたのである。


 ルピナスには魔法技士になる才能が有ったモノの、実家は貧乏貴族である。大型高機能魔法炉なんて買える筈も無く。代々魔法技士をしている貴族の下で弟子として働いていたのだが、弟子と言うのは言葉だけ、実際には下働き。さんざん働かされて、貴重な経験を積ませてやってるのだからと給金は出ない。

 そんな生活に嫌気がさしたルピナス。

 彼女は実家に仕送りだってしなければならない。

 この鉱山で出た鉱石の中でもあまり質の良くない部分を与えられて、鉱山で使うツルハシやら生活道具を作る仕事に彼女は志願した。


「仕方ないのだ。

 私の様な才能あふれる人間がする仕事で無いのは分かっているが……

 金払いは結構良いのだ」


 鉱山を管理してる側からすれば便利な存在だが。

 ツマラナイ仕事であるし、犯罪者を捕まえてる強制収容所での仕事。ハッキリ言ってやりたがる人間は少ない。


「だから、新しいモノを作れるのは楽しかったぞ。

 毎日毎日、同じツルハシや鉱石を運ぶ台車だけ作っていてもな。

 魔法技士としての腕が鈍ってしまう」


 そんなものなのか。


「うむ。同じ物を作っていると効率化は図れても、創造力は無くなる。

 新しい道具を作るイマジネーション力が無くなる。

 魔法技士としてはやはり独創性のある魔法武具クラフトを作りたい。

 もしくは市民の生活をより向上させる便利な道具を作りたい。

 それが魔法技士クラフツの目指すトコロだな」


「魔法武具か。

 それって凄いのか?」

「ああ、鉄で出来た鎧なんて一般人なら見たコト無いだろ。

 凄いんだぞ。

 ピカピカに光って、その着ける人間の体格に合わせたオーダーメイドで作られているのだ。

 トーゼンそんなの着けるのは貴族、武家の人間だけどな。

 胸に自分の家の紋章を刻んだりするのだ。

 一般兵なら青銅の胸当て。

 鉄の盾くらいなら持ってる奴もいるかな。

 それだけで普通の兵士が魔物と闘える。

 木の盾なんか持ってるコナータ兵士とじゃ勝負にならないんだ

 と言ってもそんな魔法武具クラフトの製作なんて仕事は……

 ごく一部の代々魔法技士をしている貴族にしかお呼びが掛からないモノだがな」


 ん?

 んんんんんんんんんんーーー???

 魔法武具クラフト……

 魔法武具なんて言うからどんなスゴイのかと思ったが。ピカピカの鉄鎧、体格に合わせたオーダーメイド。家紋が入ってたりする。

 それって普通の鉄製品じゃ無いのか。

 

「鉄鎧か。

 それって作るのがやはり大変なのか?」


 俺は良く分からないまま探りを入れてみる。ルピナスは答える。


「ああ、鉄を加工するだけで大変なのだ。

 私の小型魔法炉だって出来はするのだが。

 小さい魔石粒だけじゃなかなか、思った形に成型出来ない。

 剣ならまだ良い。

 サイズの違いなんて大したコトは無い。

 でも鎧はな。

 サイズが違いましたじゃ話にならない」



「以前、代々魔法技士をやっている貴族の弟子をしていたと言っていたな。

 そこでは、そんな魔法武具クラフトを作ったりもしていたのか?」

「そうだ。

 と言っても私は掃除をさせられたり、準備で材料品を運んだりするくらいしかさせてもらえなかったが……」


「フーン。

 そこで頑張れば徐々に魔法武具クラフトの製作に参加出来たりもしたんじゃないのか」

「そう思って下働きをしていたのだが…………

 どうも師匠である男の言動が怪しくてな。

 私が色っぽい美人大人だからイケナイのかもしれないが。

 私にベッタリすり寄って来たりするし、着替えは覗こうとするし。

 弟子のウチはマントを着ないでこの衣装を着ろ、と言ってミニスカートを渡して来たりするし。

 身の危険を感じて辞めたのだ」


 それは……ルピナスが色っぽい美人大人だからでは無いな。そのオヤジ多分ロリコン趣味なんだ。

 それはそれとして。


 着替え。ルピナス・エインステインの着替え。

 丈夫そうなマントを着ているけれど背の低い少女。カラダはどんななんだ。やっぱりロリ体形。でもマントからチラリと見えるに胸は多少膨らんでる様なんだよな。それって……いわゆるロリ巨乳?!

 ロリ巨乳にオッサンがセクハラ指導をするのか。

「もっと魔法炉に意識を集中しないか!」

「ああ……でも先生。先生の手が私の身体をまさぐっていて……

 これでは意識を集中なんて出来ません…………」

「たわけもの! これが修行なんじゃ。ワシは弟子の修行のためにやっているんだ」

 オッサンがミニスカート、露出の高い服を着た女性に後ろからピッタリとくっつき、その手はやがて膨らんだ胸の方へと回されて行く。

「あっ、ほんとうに許して。あっあああああ」

「くっくっく。いやらしい胸をしおって。魔法技士になりたいなんてウソだろう。

 ワシに胸を揉まれたくて来ておるんだろう」

「そんな訳ありません」

「ウソをつくな。正直に言わないと……魔法技士の修行を続けてやらんぞ」

「ええっ? それは……私どうすればいいの」

「素直に胸を揉まれたくてここに来ていると言えば良いのだ。

 ほれ、どうした? 実家は貧乏でお前が魔法技士になるのを両親もアテにしてるんだろう。弟子を止めさせられたら困るのはお前の実家じゃないのか?」

「ああっ……ルピナスは……ルピナスは…………」


 だーーーっ!!!

 妄想するな! ダメッ! 犯罪! セクハラ!

 イカン、ホントーにイカンぞ俺。

 マジメに早く例の計画を実行に移さないと、俺に協力してくれているルピナスに申し訳無さ過ぎる。


 それにしてもルピナスの師匠だったと言う魔法技士貴族のオッサン。完全なセクハラじゃんか。許されるのか?

 

 ん-、思い出してみるに令和日本だってエライ人の間じゃまだ怪しい。市長が役所の女性に手を出すなんて話、イマだにゴロゴロしてた気もする。

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