第41話 シャベル恐るべし

 シャベルは武器でもあるのだ。

 大戦の頃、塹壕を掘るために軍隊ではシャベルは標準装備だった。小型のシャベルはナイフとしても使えるし、キレイに拭き取ればフライパンとしても利用できる。現在のサバイバルナイフ並に便利な存在として重宝されたのである。

 大型の物になれば、先端の金属部分は広く頑丈で盾として利用できるし、モチロン刺突武器として敵への攻撃にも使える。


 シャベル万能! シャベル万々歳!


 若い頃、映画なんぞで見た知識でどこまで真実かは怪しい部分もあるのだが、後にネットで調べてみてもホントウであるらしい。

 大戦の頃は大マジメに米軍ではシャベル格闘術を教えていた。米軍だけではなく各国の軍隊でシャベルは標準装備、それを利用した戦闘法も採用されたのと言うのだ。さすがにその頃程では無いが、令和の時代でも一部の国ではシャベル格闘術が教えられていると言う。

 

 ビビるよな。

 お子さんや一般家庭の奥さんが土いじりに使うフツーの日用品でもあるが、その実体は軍用高機能兵器でもあったのだ。

 恐るべし、シャベル!


「フーム、キミがシャベルとやらに思い入れがあるのは分かった。

 それは良く分かったのだが、具体的にどう直せば良い?」


 マント姿の小柄な女性がそう語り掛けて、俺はハッと意識を取り戻す。

 あれっ?! 俺今声に出しちゃってた?

 なんかマズイ事言ってしまわなかっただろうか。令和の時代とかなんとか。


 ルピナスの顔を見てみてもスコープで表情は見えない。呆れた雰囲気ではあるが。金髪の子セタントを見ても、こっちも呆れたフンイキ。

 まさかっ? この人別世界から転生して来た男なのではっ?!

 みたいな表情では無いと思う。

 そうだよな。多少令和の日本やら、第二次大戦の頃の地球の話をしちゃったとしてもこの世界の人間にはチンプンカンプン。

 ナニ言ってんだコイツ? 

 にしかなんないよな。

 おっけー、セーフ、セーフ。


「えーとだな。この先端の丸い部分なんだが……

 先端に向かっては丸みを帯びていて良い。

 ただ先の方はもっと尖って薄くしてくれ。

 刃物のようなイメージだ。

 逆に持ち手側は丸みを無くして、平らにする。

 それで厚みを着けて欲しい」

「厚みを着けてどうするんだ。

 踏み込む?

 なるほど、こっち側は足をかけて体重で地面に押し込むワケか」


 ルピナスにはイロイロ説明した。今日はここまで、もう行かないと夕食が食えない。それに俺は深夜の作業も待っているのである。

 明日までに試行錯誤してくれるそうなので、明日を楽しみにしよう。


 俺とセタントは慌ててコインと夕食を交換し、食べている。


「昨日も同じ麦粥だったよね。

 もしかして夕食も毎日同じメニューなのかい?」

「そうだな。

 でも今日はチーズが乗ってるだろ。

 たまに麦の種類が違ったり、牛乳粥だったりするから完全に同じでは無い」


「一緒だよ。

 具のほとんど無い麦だけの粥に申し訳程度のチーズ。

 麦粥がこんなに侘しいとは思わなかった。

 お肉を乗せてチーズを大量に振りかけて上から炙れば、相当に美味しいのにな。

 いや。

 僕は武人だった。

 食事に文句を言うモノじゃない。

 ガマンガマン」 


 金髪の美少年は匙で粥を口に運んでいる。言われてみると、日本の食事に比べてドロっとした麦粥はあまり美味いモノでは無い。慣れてしまった俺はもうあまり気にならない。

 日本でもグルメじゃ無かったもんな。コンビニパンを齧り缶コーヒーを飲んで会議資料を読み込んだりする日々。味気ないのは一緒だが、麦粥よりはあっちの方が美味かったかも。何より缶コーヒーが美味しい。

 ここにはコーヒーどころかお茶すら無いのだ。水を飲むだけ。

 水は山で組んできている様だが、衛生的にどうなのかは怪しい。たまに濁っていたりするのである。

 

 俺もそうだが、ここの労働者全員こんな水に慣れてしまっている。多少の雑菌が入っていた所で少し腹具合を悪くする程度。

 ではあるのだが、過酷な労働とのダブルパンチで倒れる者も発生する。そして倒れたところで誰も助けてはくれない。監視官どもにサボってんじゃねぇと殴られるだけなのだ。


 俺は辺りの人間に気付かれ無い様にセタントの皿の中にヤキトリを放り込む。

 昨夜手に入れたモノだが、コンガリ焼いた上で妖精のマントに入れていた肉は全く傷んでいない。


「999番、これ?!」

「しーっ、静かに」


 俺は口に一本指を立ててみせる。

 セタントもマネて自分の唇に指を持って行って人差し指を立てる。ピンク色の唇に細い指。そんなんするとフツーに可愛いのがもっと可愛いじゃんかよー。

 イカンってば、相手は男、男の子。

 俺は金髪の子に見惚れそうになる自分にストップをかける。


「売店で手に入れた。

 調味料は無いからあまり旨くは無いかもしれないが、栄養や腹の足しにはなるだろ」

「……ありがと。

 トリ肉だね。

 充分美味しいよ」


 セタントは俺に微笑んでくれた。

 あう、やっぱり可愛いな。

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