第40話 シャベル
「つまり、この小型魔法炉とやらはポンコツなんだな」
ルピナス・エインステインの説明によると、目の前で動いてる魔法炉は中古品。それも結構使い込んで、もう役に立たないレベルの品を安く手に入れたらしい。
「ポンコツ言うなー!
高かったんだぞ。
一般庶民じゃ買えない値段だったんだぞ。
貴族とは言えウチの領地なんてなんも無い田舎。
税金納めたら、何も残らないんだ。
下手すりゃ赤字なんだぞ。
その中で私が魔法技士になって稼いで来ると言うのは両親と領民達の希望なんだい。
魔法炉が買えませんでした、なんて報告できるか。
方々に頭を下げて探し回って、やぁっと手に入れた中古の魔法炉なんだい」
ルピナスはもう涙目。スコープを着けた顔は目なんて見えないのだが、多分デッカイ涙の雫が零れてるんだろうな、と想像は着く。
「分かりまちたよ。
タイヘンだったんでちゅねー。
頑張りまちたねー、ルピナスちゃん」
「そうなのー、ルピナスがんばったのー。
………………
ホントに、本当に頑張ったんだ」
いつものノリツッコミになるかと思ったら、ルピナスは涙声になってしまっている。
悪い事言っちゃったかな。ルピナスの頑張りを茶化すつもりは無かったのだが……
「ああ、ゴメン。
馬鹿にする様な言い方に聞こえたなら、謝る。
頑張ったんだな。
うん、俺は詳しく無くて良く分からないが……凄いと思う」
「うん、そうだよ。
魔法技士の試験と言ったら相当な難関だと聞くよ」
俺が謝ると、セタントも雰囲気を読んで、応援してくれる。
「合格出来ずに何度も試験にトライしてる人もいるって。
その試験に合格してるだけでもすごい事だ。
まだそんなに小さいのに」
「ちっがーう!
私は背は少しばかり低いが、子供では無い。
成人してると言っておるだろうが」
俺とセタントがフォローして、何とか立ち直ったのか。ルピナスからはやっとツッコミが入った。
セタントは後ろで小さくガッツポーズをしている。
「やった。
僕にも出来た!」
もしかして、俺とルピナスのボケツッコミに混ざりたかったのか。
そうこうしているウチにポンコツ魔法炉は動きを止めた。少し前までボンバン、ギィー、ドカンと騒がしかったのだ。到底マトモな駆動音とは思えない騒がしい音を発していた機械だが、静かになった。
「どうやら出来上がったようだな。
シロウトは危険だから、近付くな」
ルピナスにそう言われてしまったので、俺は遠巻きに見ている。白いマントを引きずる姿が魔法炉の前面にある扉を開いて何か取り出した。
「ふむ、こんなものでどうだ?
キミのイメージと合っているか」
と手渡された物体は、金属で出来た平らな物体、丸みを帯びて少し突き出した部分がある。横幅20センチ、縦に50センチ。巨大ではあるが…………スプーンだな。
「柄の部分が短いんじゃない。
これじゃ持ちづらいよ」
「柄の部分は木の棒をくっつける。
ツルハシ用の部品はたっくさんあるからな。
セタントが言って、ルピナスが答える。取り出して来た木の棒に先程の大きなスプーンの先端を嵌めこんでいる。
「出来上がりだ」
「へー、器用なんだね」
「当たり前だ。
毎日毎日、まいにち毎日来る日も来る日も、朝も夜もツルハシ作っているんだ。
このくらい巧くなる」
それはまぁ、飽きるしシンドくもなるだろうな。
「タイヘンでちたねー、ルピナスちゃん。
さすがでちゅよー」
「うん、ルピナスガマン強いのー。
……ちっがーう!
子供あつかいすんな!」
「……それでどうなんだ?
シャベルとやらはこれで良いのか。
感想は遠慮なく言え。
初めて作る物はすぐにはイメージ通りには行かないモノなんだ」
俺はルピナスから貰ったモノを眺める。
うん。でっかいスプーンだな。
握りの部分がついてますますスプーンらしくなってしまった。俺の欲しいシャベルとはなんか違う。
「うーむ、近い事は近いんだが……
少し違うな」
「それで、どう違うんだ?」
どう違うんだ、と言われてもな。どう違うんだっけ。
シャベルってどんなだったかな。丸みを帯びた先端と握りのための棒。スプーンモドキで合ってると言えば合ってるな。
子供の頃砂遊びに使ったシャベルはもっと先端がとがっていた気がするな。もっともアレは握りの短いモノだったけど。……アレはスコップと呼ぶんだっけ。
スコップとシャベルって違うのかな。
そう言えば先端が丸みを帯びて尖ったタイプだけじゃなくて、先端に向かって広がるのも在ったな。チリトリみたいな形状の奴。
なんだか自分でも分からなくなってきた。
えーとなんでシャベルが欲しかったかと言うと…………
そうだ。俺は
それともう一つ。
武器にしたかったのだ。現在俺は
シャベルだって同じ穴を掘るための道具じゃん、と思うかもしれないが……そうでも無い。
実はシャベルは武器でもあるのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます