第5章 魔法炉

第37話 魔法技士

 さて俺は売店に来ている。セタントも一緒だ。


「お店って言うけど……ツルハシと作業着しか無いじゃない」

「奥にも商品はあるらしい。

 タバコや酒。

 こちらに出しておくと手癖の悪いヤツに盗まれるんだろ」


 店の中は殺風景だ。色とりどりで賑やかに工夫されてるコンビニとはエライ違い。並んでいるのは飾り気の無い作業着やサンダル。木で出来たヘルメットなんかもある。


「ああ、あんた来たんだね」


 カウンターの奥からオバちゃんが出て来る。俺からだとカウンターの裏がどうなってるのか分からない。

 おそらく商品の在庫も置いてあるだろうし、休憩スペースにもなってるのかな。



「あら、可愛い子連れて来ちゃって。

 なーにガールフレンド?」


 いかにもオバちゃんぽい会話だが、ガールフレンドじゃないぞ。


「違います。

 僕は男です」


「ええー、ホントウ?

 てっきり体つきが女の子に見えたんだけどねぇ」

「違いますよ。

 ホラ髪だって短いし、男です、男」

「あら、そーう、ゴメンなさいねぇ」


 セタントはムキになって否定している。そりゃそうだ。年頃の男の子が女の子と間違われたら、オ前オカマみたいだぞ、って言われたようなもんだ。男の子としてイヤだよな。



「俺に会いたがってる人間が居ると言って無かったか?」

「ああ、そうだった。

 忘れるところだったよ」


 オバちゃんは奥に向かって呼びかける。


「ルピナスちゃん、ルピナスちゃん、来たわよ」


 ルピナスは人の名前だろう。その呼び声で出てきた人物は顔に眼鏡らしき物を着けていた。


「やっと来たのだな」


 白いマントを羽織る小柄な体格、声は女性の物を思わせる。

 顔はデカイ眼鏡に隠され良く分からない。

 メガネと呼んでいいのか。目の位置にあるガラスを覆う物体はゴツイ。潜水用のスコープを大げさにしたカンジ。顔の上半分はスコープで隠され全く顔立ちは見えない。


「お嬢ちゃん、一人か。

 お父さんとはぐれちゃったのか。

 子供がこんな鉱山に来たらダメだぞ」

「うん、コワかったの……

 って、違うわー!

 私は子供では無いっ!!!」


 大きなマントで身を包んでいるがサイズが合ってない。背丈が小学生サイズなのでマントの裾が地面に着いて引きずっちゃってるのだ。

 顔は隠されちゃって良く分からないけど、フツーに子供だろ。

 

「お嬢ちゃん、アメをあげようか?」


 アメと言っても、軽食用の氷砂糖なのだが。


「わーい、甘いの好きー。

 …………ぱくっ……

 って、だから子供じゃ無いと言ってるだろー!」


 と言いつつ氷砂糖はしっかり口に入れていたな。

 少女は白いマントを翻えして宣言する。


「ええい、止めないか。

 私の名はルピナス・エインステイン。

 背は低いかもしれないが、こう見えても一人前の魔法技士なのだ」


「そっかー、ルピナスちゃんか。

 まほうぎしなんだねー、偉いぞー」

「うん、あたちスゴイのー。

 ……だ・か・ら!

 違うと言っているだろうがー!!」


 うん、態度は偉そうだが、なかなか付き合いの良い子じゃないか。


 

「魔法技士だって?」


 驚きの声を上げたのは金髪の子。セタント・クラインは背の低い少女を観察している。


「確かに、正式の白いマント。

 魔法スコープ、ニセモノとは思えない」

「711番、魔法技士ってなんだ?」


「知らないの?

 と言っても999番はクライン家についても知らなかったんだっけ。

 魔法技士って言うのは一応エリート職だよ。

 貴族の中でも魔法石を器用に操る事が出来る人だけがなれる。

 技術だけじゃ無くて知識についても試験を受けて合格しなきゃいけない。

 簡単には認められない職業の筈だよ」

「へー。

 それって何が出来るんだ」


 魔法が使えるのか。ゲームみたいな攻撃魔法とか。


「金属加工だよ。

 鉄の剣や鎧、あんなもの普通の人間には加工できないだろう。

 鉱石から金属片を取り出す、それをさらに武具や生活品へと加工するんだ。

 魔法技士の特殊技術あっての事だよ」


 ほへー。

 俺は一瞬、目が点になってしまったが。

 ここは異世界だった。魔法石もあればゴーレムもいる世界なのである。

 日本と金属加工の仕方が違ってもおかしくは無い。いわゆる昔の鍛冶屋、鍛冶職人に当たる存在が魔法技士って事なのか。

 

 俺の知識では金属加工は最初、天然の金属をハンマーで叩いて加工していた筈だ。その後、熱加工がされるようになる。何処かで誰かが鉱石に熱を加えることでより簡単に金属品を造り出せると発見したのだ。

 古代エジプトでは金の塊を叩いて加工し装身具とした跡が残っている。その後、中東に広がると、金属を熱で溶かし型に流し込み固める、成型加工へ発展していく。


 この世界ではどうなってんのかな。金属を石のハンマーで叩いてた時代はトーゼンあっただろ。その後、熱加工するのに火を用いるより魔法使った方が便利って事になったのかな。確かめようが無いな。


 ルピナスちゃんがセタントと俺の会話聞いて笑いだす。


「フッフッフ。

 その通り。

 私がその難しい魔法技士試験に合格したエリートなのだー。

 わははっははは。

 褒めてくれていいんだぞ」


「そっかー、ルピナスちゃん、えらいでちゅねー。

 アメもっといる?」

「わーい、アメー。

 ……ぱくっ……

 だ・か・ら、子供扱いするなと言ってるだろうがーー!!!」

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