第33話 靴職人妖精

靴職人妖精レプラコーンちゃん、紹介するって言ったんだわさー。

 おトモダチなのよ」

「そう言えば……言われたんだったぜ。

 遅いからスッカリ忘れてたんだぜ」


 俺の目の前で二人の小さい妖精が話している。


 やがて妖精少女パックが俺の方を向いて紹介してくれた。


「はい、おトモダチ。

 この子が前に話してたレプラコーンちゃんなのよー。

 靴を作るのが得意なんだわさ」


 靴職人妖精レプラコーンちゃん。

 妖精少女パックと同じ、身長は20センチ程度。ちみっちゃい女の子。

 長い髪を後ろで纏めている。ぎゅっと上げたポニーテール。スポーティーな雰囲気だろうか。髪の毛が緑色なのがキュート。

 オーバーオールらしき服を着ている。あれジーンズ地なのかな。妖精少女パックの透き通るようなワンピースとは違う。作業着のような恰好。



「お、おい、パック。

 トモダチって、こいつ人間のオトコじゃないかーっ!

 オトコ見るのハジメテなんだぜ!」


 靴職人妖精レプラコーンちゃんは慌てている。地面をバタバタと走り回る。

 この子には妖精少女パックの様な羽が無いと言う事が分かった。

 何故分かったかと言えば、背中は素肌が見えているのだ。服のズボンの部分から上は前かけ。そしてシャツも何も着ていないので、前面しか布が無い。布を紐で肩にかけていて、背中で紐がクロスしている。

 要するに背中は紐だけで、大胆に肌色が見えているのである。ちみっちゃいので良く分からないけれども。オーバーオールのエプロン部分の脇から、むにっとはみ出た膨らみだって見えちゃう。


「アレ、言って無かったっけなのよ。

 人間のおトモダチって言ったつもりだったわさー」

「人間のトモダチだけなんだぜー!

 オトコとは言って無かったんだぜ」


「そうだったかしらーなのよ」

「うううー」


 なんだか靴職人妖精レプラコーンちゃんってば、俺を見て怖がってるみたい。

 こう言う時には…………

 コミュニケーションの基本は笑顔だよな。俺は出来るだけ優しそうに笑ってみる。


「おいっ、パックーッ!

 あの人間、あたいの方を見てニタリとやらしそうに笑ったんだぜーーっ!?

 大丈夫か、ホントに大丈夫なんだろなーだぜ!」 

「落ち着いてなのよー」


 …………やらしそうになんて笑ってないやい。

 一瞬オーバーオールの横にはみでた胸部に気を取られてしまったのがいけなかったか。

 煩悩退散、煩悩退散。


 出来るだけ、紳士的にかつ優しそうに、そして爽やかに、そんでもって包み込むような優しさでもって笑ってみるのはどうだろう。

 ………………どんなだよっ!

 えーっ?

 良いカンジに笑うってどうすりゃいいんだ?!

 あれ俺最近あんま笑ってない?


「人間のおトモダチ、なに変な顔してるんだわさ。

 レプラコーンちゃんも怖がり過ぎ!なのよ。

 この男はダイジョーブなんだわさ」

「ホントウかなんだぜ」



「はい、二人ともご挨拶なのよ」


 妖精少女パックに促され、俺の方を向き直るちみっちゃい子2号。


靴職人妖精レプラコーンなんだぜ。

 よろしくなんだぜ」


 ちっちゃいオーバーオールの娘が俺に頭を下げてる。

 俺も返さなきゃ。


「あ、ああ。

 俺は……999番だ。

 よろしく頼む」

「キューヒャクキュージューキューバン?!

 なっがい名前なんだぜ」


 靴職人妖精レプラコーンは驚いている。

 キューヒャクキュージューキューバン……確かに長いな。むぅ、こんな時に名乗れる名前が無いのは不便だな。

 えーと、ナインナインナインとか。まだ長いな。スリーナインにしてみるか。ダメだ、劇場版の主題歌が有名な銀河鉄道とかぶってしまう。

 仕方ない。こんな時は……


「出雲……イズモと呼んでくれ」

「イズモ。

 ふーん、フシギな響きだけど、良い名前なんだぜ。

 よろしくなんだぜ、イズモ」


 靴職人妖精レプラコーンはまだ、少し怯えてるフンイキだけど、笑いかけてくれた。

 へへへ。俺も口元に軽い笑いが浮かぶ。

 なんだ、俺フツーに笑えるじゃん。


 妖精少女パックも話しかけて来る。


「へー、アンタってばギズモなんて名前だったなのよね」


 違う、イズモだ。それじゃ邪妖精になっちまうだろ。

 出雲働【いずも・はたらく】前世の俺の名前だ。前世の俺自身の事はあまり思い出したくない記憶なんだが、まぁ良いだろう。



「そいで、イズモ。

 俺にどんな靴を作って欲しいんだってなんだぜ」


 背中の肌色を大胆に見せてるちっちゃい女が俺に訊ねる。

 作ってくれるのか。確かに前から頑丈な靴が欲しいな、と思っていたんだ。

 

 俺は自分の足元を見る。現在俺が履いているのはサンダルである。木で出来た靴底に布を張り合わせ、テキトーにつっかける仕様になっている。

 こんないい加減なシロモノで鉱山への岩道を歩かされたり、坑道での過酷な作業をさせられているのだ。


「ああん、安っぽい靴なんだぜ。

 イズモ、靴は選ばなきゃいけないんだぜ」


 好きでこんなの履いてたワケじゃ無いんだが、まぁいいや。


「ああ、だから。

 良いのを作ってくれるか?」

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