第32話 金属塊

 俺は巨人狩人ゴーレムハンターになったらしかった。自分では良く分からないが妖精少女パックが言うのだ。信じるしかあるまい。


 実際に俺は強くなっていた。

 石の巨人コバエなんかもう楽勝である。たまに現れる金属の巨人ゴキブリだって。今までの様に苦労したりしない。

 妖精少女パックの力を借りた戦法。

 ちみっちゃい少女は瞬間移動能力が使えるのだ。だけど、さすがに見えない魔法石を金属の巨人メタルゴーレムの中から抜き取れる程便利では無い。

 俺が地獄の炎ヘルファイヤを使ったツルハシ攻撃で金属の巨人ゴキブリの胴体を溶かす。見えて来た魔法石を妖精少女パックがかっぱらう。すると金属の巨人ゴキブリは動かない金属の塊と化すのである。


 そんなワケで既にザコとなった石の巨人コバエ金属の巨人ゴキブリを倒しまくった。その度に魔法石が増える。害虫を叩き潰すウチに分かった事は。

 タダの石の巨人ゴーレムの中には魔法石が入っている。

 緑魔石エメラルド赤魔石ルビー黄魔石トパーズ青魔石サファイヤのどれかが石の巨人ゴーレムの中心となっているのだ。

 一方、金属の巨人メタルゴーレムの中にはその4種の魔法石プラス金剛魔石ダイヤモンドが入っている。

 透明な色をした光り輝く魔石。コレの使い方はまだ分からない。

 さらには金属の巨人メタルゴーレムが残した金属。


「魔法石、メッチャ増えたってのに重くならないのが便利だな」

「むっふふふー!

 そーれが妖精のマントの凄いトコロなんだわさ」


 妖精少女パックは飛び上がって、俺の顔を上から見下ろす仕草。見事なドヤ顔ってヤツを決める。

 いや、俺は妖精のマントの力に驚嘆したんであって、ちみっちゃい少女を褒めたんじゃ無いんだが。


 なんせ妖精のマントに包んだ魔法石はもう数えきれない。全部積み上げたなら、俺の背丈を越えるだろう。そんな量の石を放り込んだってのに、妖精のマントは持ち上げると普通の布の重さしか感じさせない。

 便利スギル。

 子供の頃みんな読んだ事の有る国民的マンガの猫耳の無いネコ型ロボットのポケット並じゃ無いのかしら。


 魔法石だけでは無い。

 俺は調子に乗って、動かなくなった金属の巨人メタルゴーレムの材料、金属の塊もポイポイと全てを放り込んだ。

 金属の塊はクッソ重いのである。移動させるだけでシンドイ。筋力強化ストレングス使って無きゃ持ち上げるのも不可能なシロモノ。

 だと言うのに、そいつを格納した妖精のマントは軽々と持てる。


「ふっしぎー?!

 妖精少女パック、これどう言う仕組みなんだ?」

「だから。

 妖精界の秘宝だって言ってるだわさ。

 人間に簡単に妖精のコトが理解出来るワケ無いなのよ」


 つまり妖精少女パックにも分かって無いんだな。まー、仕方ないな。ちみっちゃい子だもんな。


 俺は金属の巨人ゴキブリを潰すウチに気が付いていた。

 金属の巨人メタルゴーレムにも種類がある。鈍い黄金の色合い、10円玉を思い出す色。青銅の色。

 金属の巨人(青銅)メタルゴーレム・ブロンズ

 鈍いメタリックな色合いの巨人。薄汚れた使い古しの100円玉を思い出させる。銀では無い。鉄の色。

 金属の巨人(鉄)メタルゴーレム・アイアン

 

 正確に言うと純粋な鉄では無く、鉄化合物、鋼であるのかもしれない。そうすると金属の巨人(鋼)メタルゴーレム・スティールだな。

 だけど、ここで鉄の成分分析なんて出来はしない。とりあえず、鉄、ってコトでいいだろう。



「その金属、イヤなカンジなんだわさー」


 鉄をニガテだと言う妖精少女パックが逃げるので、俺は急いで金属の巨人メタルゴーレム・アイアンが残した金属塊を妖精のマントにしまう。


「そんな重たいだけのモノどうするんだわさー?」

「うーん。

 使い道は考えてないけど……

 でも価値は有るんじゃ無いかな」


 上の労働者達が働いてる坑道では金属の含まれた鉱石を掘り返している。

 稀に出て来る魔法石も目当ての一つらしいが。一応言っておくけど上で出て来る魔法石なんて、俺の持ってるモノの欠片レベルだ。

 主目的は金属、そこから金属加工品を作っているハズ。俺の持ってるツルハシだってその一つ。

 だったらこの金属塊はそれなりに値打ちモノ。なんせ原石じゃ無い。原石から熱加工やらなんやらの行程を経て、やっと取り出せる金属の塊である。


「それなら、その塊渡しちゃえばー。

 それでもう昼間のシゴトしなくて良いなのよ。

 その分、妖精女王ティターニア様を助けるのを進められるんだわさ」


 妖精少女パックが言うのも一理ある。多分昼間せっせと労働者達が働いて手に入る金属が完成形でこの地下ならアッサリ手に入る。


 だけどなー。

 地下で飛び回るちみっちゃい子に応援されながら一人働くのもいいけどさ。

 昼間セタントやヒンデル老人と働くのも良いんだよな。チームワークみたいなのも芽生えて来てる気がするし。

 それにいきなり金属塊渡したなら、トーゼン監視官達には疑われる。副所長のフェルガさんなんか「何処から盗んで来た?」とか言って犬をけしかけて来そう。


「まー、イロイロ都合ってモノがあって無理なの。

 人間に妖精のコトが分からない様に。

 妖精にだって人間界のお約束は分かんないだろ。

 毎日夜はここでシゴトするからさ」

「ふーん、まぁ仕方ないんだわさー」



 妖精少女パックは飛び回りながら、イキナリ何か思い出した表情。


「忘れてたーなのよ。

 今日はアンタにお友達紹介しようと思ってたんだわさ」


 お友達?


「前に言ったと思うのよ。

 靴職人妖精レプラコーンちゃんだわさ。

 ちょっと待ってねなのよ。

 今呼び出すんだわさ」


 妖精少女パックは高い岩の上に立って「靴職人妖精レプラコーンちゃん」などと呼びかけている。

 すると。


「なんなんだぜ。

 アタイ新作の靴を作ってる途中なんだぜ」


 何処からか靴職人妖精レプラコーンが現れたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る