第25話 イケナイ妄想

 フェルガが金髪のセタントの顎を持ち上げる仕草に俺は変な気持ちになる。見てはイケナイ物を見ているような。大人しい金髪美少年をサディスティックな美女が惑わせる、背徳的な図。でも見惚れてる場合じゃない。セタントを助けなければ。

 

 いや……しかし副所長の小姓になるのなら……その方がセタントにとっては良いハナシなのかも。

 セタントだって男の子だし、少し怖いとは言え相手は美女だし。その愛人としてえっちえちな暮らしをするのなら……鉱山労働させられるよりその方が良くないか。

 うん、普通に考えたら俺だってその方が圧倒的に良いな。

 

 マズイマズイ!

 フェルガとセタントのエロい映像まで脳裏に浮かんでしまった。

 白い素肌を晒した金髪の美少年が何故か首輪や手枷なんか着けられて拘束されていて。

「止めてくれ、何をするんだ。

 あっダメだ」

 責めてるのはもちのろんで、フェルガ副所長。

 軍人の様な衣装に身を包む美女は手元でムチなんか持ってたりして、地面にビシリとムチを叩きつけ凄む。

 ビクリと怯える金髪の美少年を眺めて、凄艶な笑みが口元に浮かぶ。

「何がダメだって?

 こんなに興奮しているくせに」

 金髪の美少年へとその手を伸ばす。

「ホラホラ、どこがイヤがってるのさ。

 私を見ただけでこんなになっているじゃないか」

「違う、止めろ!

 止めるんだ。

 あっ……ああああああ」

 サディスティックな表情の美女の手が、金髪の美少年の繊細な部分をイジクリまわす。

 美少年は喜びの声を上げる。寸前まで抗っていた面影は無い。

「クックック。

 すっかり私のモノになったねぇ」

「は、はひぃ。

 僕はフェルガ様のモノですぅ」

 イカン!

 いかんいかんいかん-ーー!!!

 ダメ過ぎる、怪しからん妄想だ。

 落ち着け俺、そんな事考えてる場合じゃない。

 冷静になるんだ。


 俺のバカな妄想じゃあるまいし、セタントはそんな子では無い。真面目過ぎる程キマジメな雰囲気。愛人になるのを了承しそうな人間では無いと思う。だけど、セタントと俺は昨日知り合ったばかり。その人の本当の性格なんて1日程度で分かりはしない。



「何を言い出すんです!

 僕が受けるとでも思うんですか。

 バカにしないでください。

 僕はこれでも対魔騎士ナイトなんです」


 俺がそんな葛藤をしている間にセタント・クラインは叫んでいた。自分のアゴに伸びた手を振り払う様にして、後ろに下がる。

 良かったー。

 そうだよな、セタント、キミはそんな子だよな。ヘンな事を考えてしまった俺が悪かった。ゴメン。ゴメンよー。



対魔騎士ナイトねぇ。

 お前はまだ未成年だ。

 見習いだろう」

「確かに……僕はまだ16歳です。

 しかし2年後には成人する。

 その時には晴れて対魔騎士ナイトになってみせる」


 キッと副所長を睨む金髪の美少年。その視線には気迫が籠っている。

 なんだかカッコイイ。

 ナイトと言うのがこの世界でどんな意味を持つのか、俺は分かっていないが。それでもセタント・クラインがナイトを目指していて、その事に誇りを持っているのが伝わって来る。


対魔騎士ナイトか。

 選ばれた血筋の者だけがなれる、魔物に対抗する戦士。

 クライン家の一員として産まれた事がそんなにご自慢かい」

「……クライン家に産まれたから、対魔騎士ナイトになれる訳じゃ無い。

 相応しく技と力を磨いた者だけが対魔騎士ナイトの称号を手に入れる事が出来るんだ」


「同じ事さ。

 庶民じゃね、技を磨こうにも魔力の使い方なんて分かりゃしない。

 そのため必要な紋章だって、魔法石だって手に入りりゃしないんだ。

 アンタはクライン家のお坊ちゃんに産まれて来たから、魔法石を手に入れてその使い方も教えて貰えるんだ」

「………………」


 フェルガ副所長とセタントは睨み合っている。

 お互いの視線がバチバチと火花を散らしそうなシーン。俺は傍観者状態。何をどう口を挟んで良いモノか、分からない。


 だけど分かる事もある。この勝負、フェルガ副所長の勝ちだ。

 彼女は余裕の表情。さぁまだ何か言える物なら言ってごらん、とセタントに顔を向ける。その口元には笑みさえ浮かんでいる。

 対してセタントは余裕が無い。唇を噛みしめ、その顔は俯き加減。

 まーまー二人とも落ち着いて、冷静に話し合おう。そんな風に前世なら言っている場面だが、現在俺が割って入るには。状況が分かって無さ過ぎる。


 俯いた金髪の子。

 セタント・クラインはそのまま黙っていたりはしなかった。

 

「僕は……ガッカリしました。

 アナタは、フェルガ・マクライヒ様はもっと尊敬に値する方だと思ってました。

 クー姉さんはフェルガさんを凄いと言っていて。

 女性が軍人となるのはこの国では困難な事です。

 マクライヒ家は武人の家柄、それでも男性しか武人となった事は無かった筈です。

 貴方の親族だって反対する筈。

 なのに実力で軍人として認められている。

 同じ女性として憧れるとまで言っていたのに。

 それが……労働者に自分の愛人になるよう迫るなんて職権乱用じゃ無いですか!」

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