第14話 白い肌
「すまない。
ほとんどの作業を999番に頼ってしまった気がする」
「気にしなくてええんじゃて」
今日の鉱山労働は終わった。モチロン俺にはこの後楽しい深夜勤務も残っているのだが。
金髪美少年と老人と青年の俺、三人は坑道を出て粗末な小屋へと向かっている。
「何処へ行くんだ。
食堂はあっちでは無いのか?」
「そうか、711番は今日が初めてだったな」
「うわっ、何故アナタは服を脱ぐんだ?!」
「お前も脱げ」
「ええええっ?!
いや、それは……
今日アナタに助けられたことは本当に感謝してるし。
僕を助けてくれた999番を見て、何だか胸が……
トゥンク・トゥンクッ
と、鳴ってしまった事も事実ではあるのだけど。
いくら何でも出会った今日に、それは早すぎると言うか。
その言い方だと日にちが経ったなら良いかの様だけど、そう言う事でも無くて。
つまり、もっとお互いの信頼を深めてからなら……」
「次の連中も来るからな。
急いだ方がええぞ」
「ええええっ、324番、アナタまで服をっ?!
そんな良い方達と思っていたのにっ!
老人と若い青年と2人掛かりで僕を、わたしの身体を狙っていたの。
あんまりだ。
初めてだと言うのに、老練な手管と若々しい逞しさに挟まれて、わたしはどうなってしまうのっ?!」
「何をゴチャゴチャ言っている。
身体を洗うだけだ」
俺が裸になって進むと上から水が降って来る。作業後のシャワーみたいなものだ。
この小屋は上から温めた水が降って来る。労働者はこれで体を洗い流してから、食堂に向かう。
衛生環境の整っていない職場だが、それでも最低限は工夫しているらしい。まぁな、これくらいはしないと、あっという間に病気の人間だらけになってしまう。ここを管理してる人間どもだって、そんな状況は望んじゃいないハズだ。
「なんだ、711番脱がないのか」
「あっ、ああ。
この作業着だって汚れているだろう。
ついでに服も洗ってしまいたいと思ってね」
711番ことセタント・クラインは俯いている。上から降って来るお湯がその金髪を濡らす。
濡れた顔がまた美しい。服も濡れて身体に張りつく。ほっそりとした身体のラインが見える。
「711番は本当に華奢だな。
まるで女の子みたいだぞ」
「そ、そんな事は無いっ!
服の上からでは分からないだろうが、これでも武芸で鍛えているんだ。
槍で戦えば、同年代の男になど負けないぞ」
本当かな。濡れた身体はとてもそんな風には見えないが、でも確かに贅肉はついて無さそう。貴族の子供だけど、良い物食ってダラダラしてたわけでは無いようだ。
「……999番は凄いな。
驚くほど筋肉の着いた身体じゃないか。
服の上から見た時はむしろ細身に見えたけど、こうしてみると無駄肉が一切無い、鍛えられた全身をしている」
「……ホントウじゃ。
999番はあまりにも細い身体じゃと思っとったが、何時の間にそんなに逞しくなったのじゃ」
「そんなに変わったか?」
ここのメシではな。固いパンと少ない具材のスープだけ。とても育ち盛りで、重労働をこなしている肉体を維持できない。
しかし
自分ではあまり気が付いていなかったが、俺は栄養失調寸前の細すぎる肉体から鍛えられた青年の身体へと変貌を遂げていたらしい。
道理で、このところ身体の動きが調子良いと感じていた。魔法のおかげかと考えていたのだが、俺自身の肉体も成長していたのか。
「日々適度に運動しているからな。
そのお陰で成長したのだろう」
俺はヒンデル老と金髪少年にそう返す。
言えない部分も在るモノの、きわめて真っ当な回答をしたつもりなのだが、何故だか二人は呆れた表情を浮かべる。
「適度な運動って…………
まさかと思うけど、この地獄のような鉱山労働の事を言ってるの。
大の男ですら疲労して、歩く事だってまともに出来なくなっている人が多数いるんだよ。
僕らはキミのおかげで普通の人の半分と働いてない。それでも疲れ切っているんだ。
それをキミは僕らの分まで働いて、適度な運動だって言うのかい?」
「……気にするな、711番。
999番は特殊なんじゃ。
考え過ぎん方がええぞ」
次の集団が入って来たので、俺達は雑談を切り上げて小屋を出た。
711番の作業着はトーゼン濡れてビショビショだ。
「一度脱いだらどうだ。
替わりの服は貸してやる」
「こんな場所で脱げないよ。
服を絞るから良い」
金髪の少年は自分の服を引っ張って、絞っている。服から水が零れて行く。
俺は目を逸らす。服を引っ張るので、合間から白いウエストが見えてしまっていた。
今日鉱山の中でも見た白い肌。暗闇に光っていた。それは美しく、少しエロティックですらあった。
だから!
こいつ男だってば。
顔はキレイで、睫毛も長くて、髪は金色に煌めいて、肌は白くて、唇はピンク色で、声も澄んでいて、身体は華奢で。
なんだけど…………
男ですから!
男の子ですからー!!!
その白い肌を意識の中から追い出す俺なのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます