第15話
素晴らしきタイ航空。微笑みの国とはよく言ったもので、アテンダントの方々の笑顔が素晴らしい。非常に快適なフライトを楽しませていただいた。タイ航空のサービスのよさに加え、インドの電車に乗らなくて済んだと言う安堵感が大きい。初めはそう思っていた。
しかしよく考えるとちょっと違う。乗客にインド人が少ない事が本当の理由だ。そんな事を言うと人種差別するなと言われそうだが、私は人種差別をします。エコノミーに乗っているインド人はほぼ例外なくマナーが悪い。マナーの概念が無いと言ったほうがいい。行きのバンコク→コルカタ便と、帰りのガヤー→バンコク便の違いがあまりに大きくて私は確信を持った。どちらもタイ航空だったから、実験としての精度も高いことになるだろう。
帰りの便に乗っていたインド人もやはり騒いでいた。しかし、タイ航空のアテンダントの方々の、有無を言わせない微笑に彼らは圧殺されていた。ビールビールと言っても、ご飯の後でね? とか言われてインド人達がべそをかいている。ざまあみろと私は思ったが、これはインド人勢力が小さいから出来ることだ。恐らく乗客の半数以上をインド人が占めれば、行きの便と同じように学級崩壊が起こる事だろう。
「インドは素晴らしかったね」
兄が騒いでいるインド人を横目に笑って言った。
「そんなに悪くは無かったと思うよ。インド料理とか、田舎の景色とかね。でもインド人は素晴らしくない。絶対に素晴らしくないよ」
私は言った。姉がビールを片手に笑う。
「私も始めはイヤだったけどだいぶ馴染んじゃったかな? 騒いでるのもきっと、出稼ぎ帰りの田舎の人達とかなのよ。はしゃぎたい気持ちも分かるでしょ?」
姉は擁護派か。私は納得行かない。
「なんかさ、真面目な人とそうじゃない人にバッチリ分かれてなかった? インド人って。真面目な人は極端に真面目だったのに。これはどういうことなんでしょうか、兄さん?」
「基本的に悪気は無いんだよ。無邪気というのか、それが度を越せばお祭り騒ぎになっちゃうけどね。インドの人の心の広さに圧倒される事が多かったな、僕は。感動とめまいと、半々だったような感じだけど」
兄が笑った。兄さんこそ心が広すぎる。めまいが起きそう。
機内食がタイ料理。タイ料理! と思ったものの米が不味い。パサパサしている。これはインドでも同じだった。もっとモチモチした米を食べようよ。その方が絶対においしいよ。インド人とタイ人に日本米を食べさせて感想を聞きたい。米の他にはチキンが出て、これはとてもおいしかった。しかし何か物足りない感じがする。
「姉さん……」
私はフォークを口にくわえて言った。
「うん。マサラ感が圧倒的に足りない。香辛料って大切よね……」
私たちはすっかりインドの味に馴染んでしまっているのだった。
バンコクの空港でトランジット。成田行きの飛行機が出るまでの五時間、空港内を自由に動き回る事が出来る。ここの空港はかなり大規模で、ショッピングモールやレストランが充実している。インドから開放された喜びも手伝って私たちのテンションは急上昇した。
「真理子、準備はいい?」
姉が燃える眼差しで言った。
「お姉様、どこまでも付いて行きます」
嬉しそうに真理子が答えた。
そして私も燃えざるを得ない。この一週間、かなり禁欲的な生活を送ってきたのだ。たまには贅沢しないと身が持たない。仏教の聖地に行ってきたばかりなのに何の修行にもなっていない。まあ座禅もまともに出来なかったわけだし、修行なんて実際してないんだけど。
「ちょっと早いけど夕食はみんなで食べない? いい店を知ってるんだ」
私たちの出鼻をくじく様に兄が言った。タイミング悪し。兄が言ういい店というのは私たち姉妹の趣味に合わない事が非常に多い。今はギトギトしたモノとか食べたいのだが、オーガニックの店とかに連れて行かれそうだ。当然姉が難色を示した。私も……と思ったが、私たちにはミッションがあるのだった。つい浮かれて忘れていた。
「じゃあせっかくだしみんなで食べようよ。ねえ真理子?」
姉を牽制するように私は言った。
「ハイ。みんなで」
元気にお返事する真理子。それでようやく姉もミッションを思い出したようだ。仕方ないなという顔をする。
みんなで兄のお勧めのお店に行くことになった。兄はこの空港に四、五回も来た事があるらしく、時々思い出すようにしながらみんなを先導して歩く。私たちは兄の背中に付いて行く。
「どうせなら健ちゃんと真理子、二人きりにさせれば良かったんじゃない?」
姉がイラついた感じで私の耳元でささやいた。
「そんなのいきなりわざとらし過ぎるよ。まだ無理でしょ。じっくり攻めろってばあちゃんが言ってたでしょ!」
チッと姉が舌打ちする。これからもミッションは続いていくのに先行き不安だ。そんな私たちのやり取りを見て、片山さんがなんだか楽しそうにしている。
「片山さん……。片山さんにも今後、ご助力いただけるのでしょうか。何か作戦はありますか?」
私は少しふざけて訊いてみた。もちろん兄と真理子には聞こえないように、小さな声で。すると片山さんが、わたくしに出来ることは限られておりますが、と前置きをして言った。
「全力を尽くします。このような事は不得手ではありますが。今回に限ってはわたくしも積極的にお手伝いさせていただく所存です。佐奈さん一緒にがんばりましょう」
片山さんの渋い笑顔。想像以上に乗り気だ。私は百人力を得たような気持ちになる。百人力……。片山さんの堅苦しい言葉遣いがうつってしまったか。片山さんの堅苦しさはなかなかカッコいい。
エスカレーターで上ったと思ったら、今度はエレベーターで下がる。メインのショッピングモールからぐんぐん離れていく。兄が首を捻りながら歩いている。大空港の中を彷徨い歩く私たち。
「まさか迷ったんじゃないでしょうね」
姉が言った。
「たぶん大丈夫。元々分かりにくいところにある店なんだよ。いつも少し迷う」
振り返って兄が笑った。突っ込みどころ満載なセリフだったが、それを言った兄の表情が中々素敵だった。真理子は……案の定兄の顔を見てうっとりしている。この旅が始まった時からそうだったけれど、兄に変なスイッチが入っている。さわやかスイッチとでも呼びたくなるような、絶妙な変わり具合。
兄は忍耐強い。めったに自己主張しない。ウチの家族は基本的にいいかげんな人間が多いので、歴史的にいろんな事が兄に押し付けられてきた。それで、我慢する事が習慣になってしまったのだろう。いつも笑顔で黙々と仕事をこなしている。日本ではそれでいいかもしれない。我慢している人が一番偉いという事をみんな実はよく分かっている。最終ラインで兄に逆らうようなことは誰もしない。
しかし外国になると話は別だ。自己主張しないと単純に損をするだけだし、物事が前に進まない。どこまで意識的にやっているのか不明なのだが、兄は今、外国仕様になっている。普段絶対言わないような事をすらりと言ってみせたり、いつもなら手を出さない状況で積極的に前に出たり。そのさじ加減が絶妙で、非常にさわやかに感じる。
兄は何事もキチンとこなさないと気が済まないタイプだ。私もわりとそう。なので私はインドで毎日怒っていた。いい加減すぎるインド人を相手に、腹の立つことばかりだった。
一方兄はずっと笑っていた。日本でも笑ってるけれどそれとは全然違う。仕方なく、あきらめる方向の笑い。何か、ずーっと遠くを見詰めているような感じで、これまた非常にさわやかだった。インドではいろんな事が上手く行かなくて、兄も毎日頭を抱えていた。だけどそれが怒りに繋がることは決して無かった。真理子が惚れたのも分かるような気がする。元々偉い人だとは思っていたけれど、今回の旅で私は兄の真価を見たような気がする。
「着きました。長々と歩かせてみなさん申し訳ない」
通路の奥まったところで兄がようやく足を止めて言った。片手で指し示した看板に大きな文字で「FOOD」と単純に書かれている。
「社員食堂みたいな感じだね」
私は言った。
「さすが佐奈。目の付け所がいいよ。ここは空港で働く人達の為の食堂なんだ。もちろん一般人も使える」
兄が言った。
「位置的には空港の隅っこでしょ? こういう大きなフードコートは本来中心部に作るべきじゃない」
姉が言った。
「そうだね。だけど世の中正しいことだけじゃ回っていかない。僕らもインドで散々経験させられたけど」
兄が笑った。
「利用されてるのはタイ人の方ばかりですね。……そうだわ。お値段が違うのかしら。空港の利益のために」
真理子が言った。
「真理子さん大正解。空港内のお店は外国人向けで、おしゃれ価格が付いちゃってるんだよ。お金持ちの外人は、中央のぼったくりの店で食べる。現地のタイ人と貧乏旅行者はここで食べる。そういうこと」
おしゃれ価格……。兄の口からそんな言葉が出るとは。真理子は褒められて嬉しそうにしている。お嬢様らしからぬ分析力だ。いや、お金持ちだからこそこういう事には敏感なのか。
「日本じゃ空港の内と外でも大して差が無いよね。元々物価が高いもんね」
姉が言った。
「そうそう。タイだとね、例えばマクドナルドでも、空港の内と外では値段に二倍弱の差があるかな。日本でそれをやったら誰も買わないよ」
兄が言った。
「みなさん……。すみませんが早く中に入りませんか。わたくし、美味しそうな匂いに誘われて急激に腹が空いてまいりました」
片山さんが珍しくおどけて言った。みんな爆笑する。
「味もちょっと違いますよ。タイ人による、タイ人の為の食堂ですから。主に辛さが違う」
兄が言った。
「のぞむ所よ」
姉がいきまいて言った。なにしろ私たちはインド帰りだ。辛さには慣れている。青い唐辛子を、料理のつけあわせでそのまま出された事もあった。初めは辛いだけだったけれど、食べ続けるうちにそれがヤミ付きになった。最近では辛くないと物足りなさを感じるくらいだ。
入り口の所でクーポン券を買って、兄がみんなに配ってくれた。それぞれ二百バーツ(約六百円)づつ貰ったが、メニューを見る限り使い切ることは出来そうも無い。それほど安い。SFチックで「ダサかっこいい」この空港の中で、この食堂だけが別世界のようだ。外の屋台と値段も同じなら、雰囲気も近いのかもしれない。いい感じにザワザワしている。
「汁物には気をつけて。辛いよ」
兄が念を押して言った。
「だからのぞむ所だって言ってるでしょ。ね、真理子」
姉の言葉になんと真理子が頷かない。困った顔でマゴマゴしている。どうやら真理子は姉よりも、兄の意見を優先したいようだ。これは珍しい。
「姉さん、私がお供しますから」
私はなぐさめの声をかけた。いくわよ! と姉が怒ったような口調で言った。真理子が少しションボリしている。姉さん、完全にミッションを忘れている……。
「すみませんでした!」
姉が泣きながら言った。マジ泣きだ。その顔を見て笑いながら、私も涙が止まらない。辛い。尋常じゃなく辛い。むしろ痛い。
兄の忠告を丁寧に無視して、姉と私は汁物をあえて選んだ。トムヤンクンや白い香草の入ったスープ。見た目は凄く美味しそうだった。
「これは食べ物じゃない!」
泣きながら姉が言い、横から真理子がハンカチでその涙を拭いている。
「僕もタイには何度か来てるけど、この辛さには結局慣れなかったよ。特にその白いスープ、タイ人でも滅多に頼まないモノだよ」
兄が眉間にしわを寄せて言った。兄が正しいことは分かっていたが、これほどまでとは……。
片山さんが「ちょっと味見を」と言って白いスープに手を出そうとした。止めようとした私の手をさえぎって、姉がスープのお椀を片山さんに手渡してしまった。片山さん、スープを一口。「オホッ」と大きな声をあげて、激しくむせた。慌てて水を飲んでいるがあまり効果は無い。私もさっき同じ事をしたから分かる。苦しむ片山さんを見てなぜか姉が嬉しそうにしている。ヒドイなあ……。
「鶏肉の、ごはんモノをお勧めしたんだけどね……」
惨状を目の当たりにして兄がため息をついている。もちろん兄に責任はない。
「私は健一さんの言うとおりにしました。だからおいしくいただいています」
フォークを片手に真理子が満面の笑みで言った。
「いただきます」の十数分後。結局スープ類はほとんど残した。姉は意地でも平らげようと試みていたが、途中で挫折した。涙だけじゃなくて鼻水までも止まらない。口の中の辛さを消すのには炭酸飲料が向いている。一口スープを飲んではコーラをがぶ飲み。それを繰り返して腹がダブダブになった。みんなに余ったクーポンを貰って、姉と私はコーラのビッグサイズを何度もおかわりしに行く。コーラはすぐに無くなるが、スープは一向に減らない。最後に姉は、スープに水を入れて薄めるという暴挙に出た。
「ダメだ。コーラと混ぜてみようか」
姉が半笑いで言った。ヤケクソになっている。
「姉さん、あきらめて鶏肉を食べようよ。おいしそうだよ」
「そうしよう」
姉が即答して、ようやく降参を認めた。
「美味しかった……」
フードコートを出た所で姉がつぶやいた。結局私たちは兄のおすすめの料理を食べることになった。鶏乗せゴハンとあんかけカタ焼きそば。今度は美味しさに涙が出た。後悔の涙も混じっている。インドならまだしも、タイでこんな目に会うなんて。油断した。
「空港内だからちょっと高いけど、タイマッサージも受けられるよ。荷物は僕が見てるからみんなで行って来たら? 疲れたでしょう、加奈?」
兄が笑って姉を見た。こんな皮肉、普段なら絶対言わないのに……。さわやかな意地悪。
「勝ったと思ってるんじゃないでしょうね……」
姉が意味不明なことを言って兄を睨みつけた。姉さん、完敗だったじゃないですか。
「痛いマッサージと気持ちいいマッサージ、両方あるけど。どっちにする?」
ニヤッと笑う兄。まさかの挑発だ。兄と姉のケンカなんて、私はここ十年、いや十五年は見てないぞ。珍しいなあ。
フゥーと長いため息を姉がついた。皆に緊張が走る。
「気持ちいい方でお願いしまーす」
姉が仏頂面で明るい声を出した。それでいい。姉さん、それでいいのです。真理子と私はホッとした顔を見合わせた。
タイマッサージは最高だ。気持ち良すぎて眠りそうになった。実際姉は途中で寝てしまったようだ。もったいない。眠ったらこの気持ちよさをじっくり味わう事ができないと思い、私は必死で眠気をこらえていた。相変わらずの貧乏性。姉がよだれをたらして眠っているのを確認して、隣のベッドの真理子が私に声をかけて来た。
「お姉様、お気を悪くされましたよね……」
「え? 何が?」
「あの……さっき食堂で、私がスープを選ばなかったから……」
真理子がしょげた顔で言った。
「気にする事ないよ。結果を見れば誰が正しいか明らかだったじゃない。それより真理子、兄さんにアプローチするならがんばらないとダメだよ? 普通の方法じゃ通用しない人だから」
私は笑って言った。
「アプローチなんて、そんな」
顔を真っ赤にして真理子が枕に顔を埋めた。か、かわいらしい。が、これじゃあ先が思いやられるな……。
「あーメチャクチャ効いたわ!」
姉が両腕を振り回して骨をバキバキ言わせる。また周りの人の注目を集めている。豪快で恥かしい。マッサージが終わって、兄と片山さんが待っている場所へと向かう。搭乗まであと一時間と言う所。ほんとに短い時間だったけれどタイを満喫できたと思う。天国から地獄まで。
「ただいま帰りました」
真理子が兄に声をかける。
「おかえりなさい」
兄が真理子に微笑みかける。それだけで、真理子がとても幸せそうな表情になる。いまどきこんなさわやかなカップルがあっていいのだろうか。さわやか過ぎて本当のカップルになれるのか心配になる。
「気持ちよかったですよ。片山さんもマッサージ受ければよかったのに」
私は言った。
「私は……肩の骨に金属が入っていましてね。マッサージなどは受けたくても受けられない体なのです」
片山さんが言った。何それ……ロボ? 私たちの驚いた顔を見て片山さんが言った。
「若い頃、バイクで山を走る事を趣味にしておりまして。それで大怪我をして、まあそういう事になってしまったわけです」
「何かそれで特殊な性能とかはないんですか? 腕が三百六十度回るとか」
姉が馬鹿で失礼な質問をする。私も似たような事を考えていたが。
「特には無いですね。でも、天候によってはカミナリが落ちそうな気配で、体がビリビリとしてくる事があります。体内の金属が反応しているようです」
片山さんが笑った。一同大いに驚く。片山さん、やはりタダ者じゃない。
バンコクから成田へ向かう飛行機は、またもタイ航空。成田行きは、航空会社の選択肢がたくさんあったのだが、我々はすっかりタイ航空のファンになってしまっていた。
インド人を笑顔で叱りつけるアテンダントの方の勇ましい姿。エコノミーでも美味しい料理。あと、女性のアテンダントの方の美しさがハンパない。骨の太さが私たちと全然違う。しなやかな骨格とでも言ったらいいのだろうか。「壊れるくらい抱きしめてみたい」と姉が馬鹿な事を言っていたが、その気持ちは私にも分かる。姉と私は性格は違うが、変な所で趣味が一致することが多い。
飛行機の窓から懐かしい景色が見える。ついに日本へ帰って来た。私は、海外旅行は何回か経験しているけれど、こんなにせつない気持ちになったのは初めてだ。今回、十日間というのは旅行の最長記録ではあるが、それだけが理由ではないと思う。なにかやり遂げた感じがある。私は特に努力をしたわけではないけれど、よくぞみんな無事で帰ってこれたと思う。
さすがにみんなお疲れのようで、空港内の店はほとんどスルーして外に出た。空港の駐車場に桐原家の車が止めてある。駐車代、いくらかかってるんだろう……。出発の時と同じように片山さんが、軽々とみんなの荷物を車に積んでくれる。
私はなんともなしに兄の表情が見た。これは! 日本仕様の顔だ! 間違いない。飛行機が日本に近づくにつれ、なんだか口数が少なくなってると思っていたのだ。兄の中にいた「さわやかさん」がいなくなっている。このバランス感覚はどうやって培われたのだろう。ちょっとさびしいけど、日本でも兄がさわやかだと、我が家は回っていかないと思う。しかし、兄と真理子の関係はどうなるのか。関係って言うほどのモノはまだ何もないと思うけど。
車が地元に近づくにつれ、真理子の顔が青ざめていく。こちらもどうやら日本仕様を取り戻してしまったようだ。真理子の場合、神々しささえ漂わせた海外仕様のままでいて欲しかったのだが。
「今日は真理子、ウチに泊まっていきなよ」
絶妙のタイミングで姉が言った。
「え? いいんですか?」
真理子が泣きそうな表情で言う。
「もちろん。でもご両親と類子に悪いかな。真理子の帰りを待ち望んでるだろうし」
少し意地悪な感じで姉が言う。
「それは大丈夫です。泊めてください泊めてください!」
真理子が必死だ。みんなが笑う。
「その代わり真理子、気持ちをしっかり落ち着かせてね。インドでのあなた輝いていたわよ。その気持ちを忘れないで。これからも私たちに素敵な真理子を見せてね?」
姉がお姉様振りを発揮して言った。
「お姉様……」
涙をこらえて真理子が言った。私も感動した。
「健ちゃんもインドで輝いてたのに。急に大人しくなっちゃって」
姉がつまらなそうに言った。その言葉に兄は微笑を返すだけだった。
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