第二章 奇妙な共同生活 <第五話>

 それから、ボク達は交番に駆け込むでもなく、ただただ疲れ果てた放心状態のままガックリと肩を落として、しばらく無言で同じ方角へと歩いていた。そんな気まずい空気を振り解くかのように、シュウが馴れ馴れしい口調で話し掛けてきた。


「ねぇ、アナタ、お名前は?歳はいくつ?お家はどこなの?」

「はぁ?何だよ?ほっといてくれよ!」

「いいじゃないの!教えてくれたって!」

「何で教えなきゃなんないんだよ?キミには関係ないだろ?」

「関係ないことないわよ!ねぇ、構わないでしょ!教えてくれたって!」

「だから、何でさっき会ったばかりの見ず知らずのキミに、いろいろ教えなきゃなんないんだ?」


 ボクは、そう言って無視を決め込み、少し足早に歩き出した。それでも、シュウは怯むことなく、ボクの後ろを付いてきては、同じ質問を繰り返すのであった。


「ね~え~い~い~で~しょ~?」


 ボクは、面倒くさくなって仕方なく答えることにした。


「名前は、トキタトキオ。歳は、28。この商店街を抜けて、右に曲がってちょっと行った所さ。ボロ家だけど、一軒家に独りで住んでる」

「なんだ!独り暮しなの?彼女はいるの?」

「いやぁ…。もっぱらお気軽な独身貴族を謳歌中さ」

「あらあら。寂しいわね」

「寂しくなんかないさ。もう、ずっとだから、慣れてる」

「ずっと?」

「ああ。何も好き好んで独りになった訳じゃないさ。ボクがまだ幼い頃、親父とお袋が運悪く交通事故で亡くなっちゃってさ。身寄りのないボクは、親代わりになってくれた叔母に引き取られて、育ててきて貰ったんだ。でも、その叔母もボクが高校を卒業する頃には、病気で亡くなってしまって、その時からもうずっと独りさ」

「ふ~ん…。そうだったんだぁ…」

「なぁ、ボクの話はこの辺でいいだろ?今度はキミの番。ところで、キミの名前は?歳は?家はどこなのさ?」

「え?アタシ?あ、名前はソラノシュウ。アナタと同じ28歳よ。」

「何だよ。同い歳かよ。で、家は?」

「家は…。どこだっていいじゃない…」

「は?ボクの家、どこだとか聞いといてさ、全く失礼だぞ!さぁ、キミもどこなのか教えろよ!」

「アタシは…そのぉ…」


 シュウは、少し困った様子で、戸惑いながらも、渋々話しにくそうに答えるのであった。

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