第二章 奇妙な共同生活 <第四話>

 そんなふうに押し付け合って怒鳴り合いつつも、店の主人の顔を覗き込んで見ると、相変わらずニヤニヤした顔つきで、物腰も低く愛想のいい口調で、丁寧にこう続けるのであった。

「あのぉ、オタクさんでも、アナタさんでも、どちらさんでも構わないからさ、ちゃんと弁償はして戴きますよ」

 そう言いながら、店の主人が首に巻いていたタオルを取った時である。肌着の襟首辺りに、チラッと色鮮やかな桜模様や龍の頭らしき彫り物が見えたのであった。

「こ、これって、いくらするんですか…?」

 ボク達は、全身の血が凍るのを覚え、ほとんど同時に口を開いた。店の主人は考えるでもなく、相変わらず満面の笑みで嬉しそうに、今度は先程とは打って変わって、威圧するかのようなドスの効いた低い声で、こう言うのであった。

「これですか?これは二百万円ですなぁ」

 その瞬間、ボクはその場で泣き崩れて倒れそうになり、シュウは舌打ちをしては不貞腐れた表情で、共に顔を皺くちゃにしていた。


 結局、ボク達は恋愛中のカップルであると半ば勝手に決めつけられて、たっぷりと脅された挙句に、泣き寝入りさせられる羽目になってしまったのである。そんなふうに、一方的に吹っかけられた弁償金を、何とか負けて欲しいと必死になって懇願した挙句、ようやくなんとか半額の<百万円>という額面で、仕方なく落とし前を付けさせられる事となったのである。


 ボク達は、店のヤクザ主人に即されるがまま、必ずいつまでに弁償しますからという、それ相応の手続きというか、誓約書みたいなものに無理矢理サインをさせられ、おまけに何故だかボクだけ色々ねおりはおりと調べられて、やっとの思いで店から解放されたのであった。

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