第一章 目覚め不能症候群 <第四話>

 歯ブラシにチューブから歯磨き粉を搾り出し、コンポデッキのボリュームダイヤルを目盛り二つ程上げる。その頃には、もうすっかり体半分が死に掛けていた感覚にも、体中の血管という血管の中の血液が大洪水を巻き起こし、今や大きなうねりとなって、体全身を駆け巡るのであった。


 その一曲目が終わるか否か、シュウが酷い寝癖のついた髪を鬱陶しそうにかき揚げ、ボクと同じく意識朦朧となった姿で、隣りの部屋からドアを開けて、顔だけを覗かしている。しかし、朝の挨拶の言葉は無く、ただボクの顔を見て、「お互い死ななくて良かったわね…」とでも言いたげのようだ。

 やっとの思いでシュウも、窓際に置いたテーブルの椅子の所まで何とか辿り着いたかと思うと、ぐったりと深く腰掛け、メンソールの煙草にまず火を点す。彼女も、ボクと同じく、その特製モーニングセットやらがお気に入りらしく、プカプカと煙を吐いては、一口二口と無言のまま息を吹き返すように、マグカップのコーヒーを啜るだけでいる。

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