第2話 三番隊隊長
純矢が帰った後、入れ替わりで一台のバイクが現れた。
三番隊隊長・石田祐だった。
「なんだ、ジュンヤは帰ったんか」
「帰った」
祐も釣り竿を持っていたが、大輝に純矢がいないことを聞くと、さっさと片付けてしまった。それから大吾の方を見た。
「お前も、ジュンヤに振り回されて大変だな」
祐はそう言ってタバコに火をつけた。もちろん違法行為であるが、まだ自販機でタバコが買えた時代である。上島たちも吸っていたし、大吾はあまり驚かなかった。
純矢や大輝と違って、祐には話しやすい雰囲気があった。いきなり大吾の前に現れて、振り回すようなタイプの人間とは少し違っていた。
「ねえ、四番隊隊長って何すればいいのかな?」
大吾は、この機会に祐から、東岸連合のことを教えてもらおうと考えた。
「別に。何も決まってねえよ。東岸連合で四番目に強いってだけだ。あ、いや、リーダー入れたら五番目か」
「えっ? じゃあ、部下とかいないの?」
「舎弟作りたかったら、自力で信用を得るしかないわ」
「そ、そうなんだ」
隊長、などと言うから大吾はチームの皆をまとめなければならない、と思っていた。しかし実際には、明確な決まりはなかった。所詮は中学生の集まりである。体系的なルールは存在しないのだ。
「石田君の三番隊には、舎弟はいるの?」
「ああ。いるぞ。今日これから三番隊で活動する予定だ。お前も来るか」
「う、うん」
不良達の活動といえば、バイクで走り回るくらいだ。大吾は嫌な予感がしたものの、他のメンバーの活動を知りたいこともあり、ついて行くことにした。
祐のバイクの後ろに乗り、到着したのは斎川市の外れにある公園だった。ここに十人程度の不良が集まっていた。
手には、ゴミ袋と長いトングを持っている。
「お前ら! 吸い殻一つ残すんじゃねえぞ!」
祐が一声かけると、不良たちは「押忍!」と答え、ゴミ拾いを開始した。
大吾と祐も集団に加わり、人海戦術でさっさと進め、三十分くらいでゴミ拾いは終わった。最後に町内会の人と思われるおじいさんおばあさんが現れ、「いつもありがとねえ」と祐に封筒をを渡していた。どうやら謝礼らしかった。
祐はその金を、皆でジュースを飲むのに使った。
こうして一汗かいた不良たちは、満足そうな顔で帰っていった。
「なんで、こんな事してるの?」
その場に残った大吾が、祐に聞いた。
「不良って、元気があり余ってるから、余計なことするんだよ。夜の校舎で窓ガラス割ったりな。何かしらこうやって仕事を与えとけば、しばらく大人しくなる。そういうもんだ。地域に良くしてれば、タバコやバイクは見逃してくれるしな」
「な、なるほど……」
本能的に生きている純矢や、上島などと違って、祐はちゃんとロジックを立てて不良たちをまとめている。東岸連合ではいちばん話しやすい相手かもしれない、と大吾は思った。
「お前、上島倒したって、やっぱ本当なのか」
「そ、そうだけど」
「あいつは俺と同じボクシングジムに昔通ってて、喧嘩強い。俺でも勝てるかわからんかった。隊長やリーダーになりたがらんかったから、今まで影響なかっただけで、危険人物だった。正直、倒してくれたことには感謝してる」
「僕も、上島には黙ってられなかったから」
「聞いてるよ。女に手出してたんだろ。あいつ、中一の時にボクシングジムの全国大会出て、一回戦で負けてからボクシングやめたんや。瓜谷中みたいなところでお山の大将やっとるから、あんなひどい事始めたんや。強いやつは、東岸連合みたいなところで自分より強いやつと交流してないと、調子乗ってまうからな。お前はスポーツとかしてたの?」
「一応、相撲やってた」
厳密に言うと、この頃の大吾に相撲の経験はないのだが、なぜかタイムリープ時にそのままスキルが継承されているので、そう説明する他なかった。実は未来から来た、とは言えなかった。
「なるほどな。相撲って、極めたらめちゃくちゃ強いらしいな。特に身体がでかいヤツは」
「リーダーの純矢さんや、壱番隊隊長の大輝さんは、やっぱり強いの?」
「一番強いのはルーカスやで」
「えっ? リーダーが一番強いんじゃないの?」
「普通はそうなんやけど。前のリーダーのガイアさんがバイク事故で死んで、当時二番隊の隊長だった純矢が、リーダーに名乗り出た。ルーカスはガイアさんが死ぬ前も壱番隊隊長やった。ガイアさんが死んだことで逆転したが、喧嘩の強さは変わってない」
「なんでそんなことに」
「ルーカスはあの通り、ほとんど喋らん気難しい男やからな。ガイアさんが死んだ後の集会でも、何も言わんままジュンヤがリーダーになるんを認めた。ただそれには理由があってな、ルーカスはガイアさんとあんまり仲良くなかったんや」
「ガイアさんと仲良くないルーカスさんがいきなりリーダーになったら、体制が大きく変わってしまう、ってこと?」
「そういうことや。だから純矢も辛いと思うで。あいつがリーダーならんかったら、東岸連合はバラバラになるところだった。ガイアさんの信用は大きかったからなあ。俺も、ガイアさんについていくために東岸連合入ったようなもんや」
「そのガイアさんって、相当すごい人だったんだろうね。僕は知らないけど」
「ああ……そうか、お前はほんまに最近、東岸連合に入ったもんな」
祐は町内会のおじいさんが帰ったかどうか、周囲を確認してから、タバコに火をつけた。
深くタバコを吸ってから、おもむろに何かを呟く。
「――ガイアさんはな。斎川中の古川に殺されたんや」
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