第28話 勝ち誇りは刺客を呼ぶ
生まれて結ばれないと決まった異性。
誰にも渡したくないのに、兄妹だから付き合えないと真っ当な理由でライバルすらなれない。
お兄ちゃんのことを一番好きになったボクには、その事実が耐えられなかった。
『無理だ。俺はお前の兄失格だ』
でも今は、それ以上に最悪な状況。
「お兄ちゃんに嫌われたボクは一体どうすれば……」
◆
「修吾くーん! 早く早く〜!」
「ちょ、待って……待ってぇ……」
思いっきり遊ぶと宣言した片柳に俺は振り回されていた。
ボウリングにテニスにバッティングセンターに……スポーツからリラクゼーションまで複合しているラウンドワンに来ていたが、主に体を動かすエリアを回っていた。
「片柳体力バケモンすぎるだろ……」
「女の子にバケモンとかひどいよー!」
俺も運動には自信があったがこうも連続して動かされると疲労が溜まる。対して片柳は、多少は息切れしていたものの、回復が早くむしろ準備運動をした、という感じに見える
「ちょ、一回休憩しようぜ……」
「そうだね。喉も乾いたし」
俺たちは施設内にあるカフェに寄った。
「ふぅ……それにしても片柳は本当に運動神経いいよな。なんで部活とか入ってないんだ?
「んー、あまり惹かれなかったから?」
「ほーう」
「なんというかひとつの部活に打ち込むより色んな部活をしたいなーって」
「あー、だから部活の助っ人を」
片柳はその運動神経の良さから様々な部活から助っ人の依頼が絶えないとか。あと部活用勧誘も。
「他の人には内緒だよ。みんなひとつの部活に一所懸命に取り組んでいるんだから」
「了解。でも俺はそれでもいいも思うけどな〜」
「修吾くんの方こそ運動神経いいよね。部活の助っ人とかしないの?」
「無理無理。男は大抵なんでも器用にできるし、俺より他のやつの方が頼まれるよ」
実際そうだし。
片柳の場合は運動神経はもちろん、人柄が好かれているし人望もあるからだと思うけど。
「片柳はすげぇよな」
3番目の美少女どころのレベルじゃないだろ……。
「また片柳……む」
「ん?」
急に片柳が真剣な表情になった。というよりちょっと怒ってる?
「片柳?」
「………」
「え、無視!?」
顔を逸らされてしまった。いきなりご機嫌斜め。俺なんかしたのか……?
「せつ」
「え?」
「修吾くん私のことずっと名字だよね! 私は下呼びなのに!」
「言われてみればそうだな」
一年の頃から名字だったのでその名残でずっと片柳と呼んでいた。
「いつか呼んでくれるかなーと思ってたけど結局読んでくれないし……私は怒っています!」
「ええ……名前の呼び名でそんな?」
「そんなの! だって下呼びは親しいってことの何よりも証拠もん」
「証拠って……」
むすっと頬を膨らませてそっぽを向いた。なんかこだわりがあるらしいので、ここは呼ぶことにしよう。
「分かった分かった。これからは名字で呼ぶよ。ただ慣れないからたまに名字で呼んでしまうかもだけど。そこは許してくれよ、せつ」
「おお! 修吾くんがやっと私をせつ呼び! 嬉しいな〜〜」
「大袈裟な」
「大袈裟じゃないよ。だってこれで私と修吾くんは親密ことが分かるんだから」
「お、おう?」
よく分からんが片柳……じゃなくてせつが嬉しいそうなのなら良かった。
夕方になりお互いにぼちぼち帰ろうという会話になる。
せつがお手洗いに行ったので1人になった俺は外の空気を吸うことにした。
夕方ということもあり、帰宅ラッシュなのか人通りが多くなっている。
「ん?」
視線の先にやけに人だかりができている。何か販売しているわけでもなく、人混みの間から見えるのは、機材を持った人たち。その視線の先にはまた誰かがいるみたいで……。おそらくその人が人を集めているのだろう。
「どんな有名人が撮影しているのかしら?」
遠くてよく分からないなぁ……。
「修吾くんお待たせ!」
「なぁ、あそこの人だかりなんだと思う?」
「うーん、なんかの撮影……? あっ、そういえば友達がここら辺で読者モデルさんが写真撮影するって言ってた!」
「へぇー、読者モデル」
読者モデルといや、アイツもだったよな……。
「なに? 気になるの?」
「いや、そういうわけじゃないけど……ただこれだけ人を集めるってすごいよな」
「そりゃ芸能人ですからねぇ。……はいはい、行くよ修吾くん。今日は私とのお出かけなんだから」
「お、おいせつ! そんな引っ張らなくても……!」
せつにぐっと腕を引っ張られ俺は読者モデルを確認することができなかった。
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