第25話 王子様の魔法が解ける

『えーー!? 伊織ちゃんと喧嘩したのーーっ!!』

「しっ、声が大きい!」

 

 イヤホンで聞いていたため、隣の部屋にいる伊織には聞こえていないと思うが、俺の耳は多大なるダメージを受けた。……み、耳がキーンとした。


『寝る前にちょっと修吾くんの声が聞きたくなって』


 と片柳からタイミングを見計らったように電話が掛かってきたので、ついでに先ほどの出来事を話した。


 思っていたことをこれでもかとぶつけたので、内容はあまり覚えてないが……


『………っ、……っ』


 伊織が歯を噛み締め暗い顔をして出ていった様子からして多少は響いたようだ。


「まあ喧嘩っていうよりは、俺が一方的に言ったんだけどな」

『いつもと逆って感じかぁ。なるほど。ついに王子様の魔法が解けましたかぁ』

「魔法?」

『ううん。なんでもないよ。それにしても優柔不断だった修吾くんがそんなに言うなんて……やっぱり無理してたんだね』

「そうみたいだな。片柳の言う通りだ」

『ふふ、でしょでしょ。修吾くんのことは、友達の中じゃ一番に分かっているつもりだから。よいしょっ……でも、これからが本番だよ。よっと、王子様をちゃんと分からせないとっ』

「お、おう……。つか、さっきからゴソゴソ物音がしてるんだけど、なんか作業してる?」

『ああ、今着替えてるの』

「へぇ着替えてる――え?」


 これは聞かなかった方が良かったな。


 電話越しに微にだが、ぱさり、と何かが床に落ちる音がした。


『ちなみに今はブラジャーとパンツしか着けてないよ』

「わざわざ報告しなくてもいいわ! なんで今着替えるんだよ!!」

『いやー、急に暑くなってさ。え、見たいって?』

「言ってない! 一言も言ってない!って、おい! ビデオ通話に切り替えるなよっ!」


 俺の抵抗も虚しく、片柳の方はビデオ通話に切り替わった。


 瞬間、透き通るような白い素肌が視界に飛び込んできた。


「っ……」


 咄嗟に視線を逸らすが、下着姿が脳裏から離れない。心拍数が急上昇する。


 片柳の顔を見るとなんてことない顔をしていた。


 ……変に意識してしまっているのは俺だけか。


 いつもの片柳のことだ。スキンシップも激しいし、これはその延長戦なのかもしれない。

 片柳は別になんとも思ってない。

 そう考えると途端に自分の振る舞いが恥ずかしくなってくる。


「んんっ、あまり揶揄うと怒るぞ……」

『わぁこれはガチのやつだね。はいはい。お望み通り通話に戻しましたよ、修吾くん〜?』


 声色からしてニヤニヤした表情が見える。揶揄っていただけか。


「うるせい!」

『ねぇ修吾くん』

「ん?」

『明日からもよろしくね』

「お、おう。よろしく」


 今日の片柳はやけに機嫌が良く感じた。




 テスト前はほぼ片柳の家で勉強していた。たまに、図書室で拓人と女友達とも一緒に勉強した。


 前回の中間よりもみんな期待できる点数だ。片柳もこのままいけば点数アップ間違いなし。というか、赤点を余裕で回避してもらわないと困る。


 そして4日間の試験が終わり、土日を挟んで答案返却も済んだ終業式の今日。チャイムが鳴った。


「はい、これで終わりだからお前ら落ち着け」


 そわそわしているクラスに担任はやれやれと言った様子で声をかける。


 そして日直が号令をすれば、クラス内がわぁと盛り上がった。


 今日から夏休みなのだ。


「修吾くんありがとう〜〜」

「うぉっ!?」


 片柳が俺の席にきるなり、抱きつく。背中に柔らかい感触……スキンシップが多いのはいつものこと。


「おかげで赤点回避だよ〜〜」

「赤点どころか平均73点……凄すぎる! 拓人お前は?」

「ふふっ。これを見ろ!」


 拓人が得意げに40点台が目立つテスト用紙を見せる。


「ギリギリじゃねーか」

「赤点回避すりゃどれも点数一緒なんでよっ、なははは!」

「通知表は変わるけどな」


 騒がしい友達に囲まれながら、


(伊織のやつ、最近会わないけど……他の人に迷惑とかはかけたりしてないよな……)


 いつもと違った夏が始まろうとしていた。

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