第21話 放課後、シンデレラ
私は正直、九空伊織のことがあまり好きではないのだろう。
だろう、と曖昧な感じなのは、彼女が修吾くんの妹という部分でどこか引っ掛かっているから。
修吾くんの妹だから……。
その反面、修吾くんの妹だから許せないという気持ちがある。
「好感度マイナス15のお兄ちゃん、早くしてよ」
「今急いで教材片付けてるだろ! つか、もう少し広い心持てよっ!」
「はぁ? なんでボクがわざわざ好感度マイナス15のお兄ちゃんに優しくしないといけないのさ。逆にお兄ちゃんがボクの好感度上げるためのチャンスをあげていると思わないの?」
「ぐぬぬ……! そんな生意気なことばっかり言ってるとなんか悪いことが起こるぞ!」
何故、実の兄にあそこまで冷たい態度を取るのか、不思議だった。噂の件もそうだ。
けど——恋して分かった。
『お兄ちゃんはボクの言う通りにしてくれないと困るの。……じゃないと、じゃないと……』
伊織ちゃんがわざわざうちの教室に来た時、修吾くんが一緒に帰ってくれないだけで焦ったようだったけど……。
彼女は私を一瞬見た。
(すごい焦った顔……)
「くすっ」
私は無意識に笑いを漏らしたかもしれない。
(そうだよね……その場に修吾くんを好きな女の子がいたら焦るよね)
『好感度マイナス15の兄』などという噂が広まっている以上、他の子は好んで修吾くんに寄り付かないだろう。
……これが狙い。
妹じゃ付き合いない。でも誰にも渡したくない。だからせめて、噂を広げて寄り付かないようにという作戦なのかも。
この推測は合っているか分からない。けど、反応を見る限りは……ふふ。
血の繋がった兄に恋するのは、私は別にいいと思う。
けど、好感度マイナス15の兄……。私からすれば、好きな人を貶されていい気はしないんだよなぁ。
だから少しでもいい妹になるように分からせないと。
◆◇
「うまっ。うまっ!!!」
「んふふー、そんなにがっついて、せつちゃん特製牛すじカレーはどのくらい美味しんですかぁ〜?」
「今まで食べたカレーの中で一番うまい!!」
目を輝かせ、口の端にソースをつけながら笑う修吾くん。
私は今、修吾くんと2人っきりでいる。
両親が不在の絶好の日に、うまく家に連れ込めて良かった。
「おかわりいる?」
「いる!」
空になった皿を受け取り、台所に向かう。
「さっきと同じ量でいい?」
「ああ」
白米とルーをたくさん入れる。
男の子は食べ盛りで凄いや……。
最後に隠し味も入れた。
「……ん、……んー」
ご飯を食べ終わった後、修吾くんはうとうとしていて、眠そうであった。
「修吾くん大丈夫?」
「帰らないと……いけないのに……眠気が……」
「ご飯食べて満腹になったからじゃない?」
「あー、かも……うーん……」
「もう目が瞑っちゃっているよ。20分だけ寝ればいいんじゃない? 私起こしてあげるよ」
「ん〜、20分……」
「ほらほら、テーブルから寝返りをうってもいい、床に移動して……。あっ、床にはふかふかのカーペットを敷いてるから横になっても痛くないよ〜」
「ん、んー……」
修吾くんを移動させる。横になった彼は、すぐさま寝てしまった。
洗い物をしているうちに熟睡するだろう。
終わって電気を消けす。
「始めようかな……ふふ」
はむっ……はむっ、はむっ……。
暗い部屋。2人っきり。私は今、眠っている修吾の隣にいる。横になっている。
何をしているかというと……
「男の子の鎖骨ってカッコいいよね……はむっ……」
修吾くんの鎖骨を甘噛みしていた。
睡眠薬の効果は30分。こんな使い勝手が良さそうな睡眠薬が売っているなんて……何回もリピートしちゃいそうだよ。
はむ、はむ……ん……。
「はぁ、唇で歯を出さないように触れているだけでも、ん……やばぃ……」
唇で挟み、ちゅーと軽く吸ってみる。だんだんと呼吸が苦しくなって、
「ぷぁ……はぁはぁ……」
は〜〜〜〜たまらない。
「っ……、ふぁ……ん……?」
すると、修吾くんが寝苦しそうに動いた。
起きた? 起きちゃった?
ゾクゾクっと背筋に電流が走るような感覚。
(このままバレてしまいたい、むしろバレて乱れている私を見て欲しい……♡)
刺激しているのは私なのに……私の方が興奮している。奥がビクビクして、太ももが擦りあっちゃう。
「はぁ……ふぅー……本当はキスしたいけど……今日はキスマークに変更かなぁ」
『じゃあ友達の範囲外ってなんだよ』
友達の範囲外。友達じゃできないこと……分からないなら、私でやってみようよ。
「レロ……ん、ッ!」
舌で濡らしてから歯を立てる。
つぅーと唾液の糸を引きながら離れると、そこには赤い跡がしっかりついていた。
(ついた……ついたついたぁ。修吾くんの身体の一部に、私でつけた跡が……。〜〜〜〜〜っ!!)
瞬間、体の奥から沸き上がる、何とも言えない熱。ビクンッ!と一瞬意識が飛んだ。
「はう……イっちゃった……かもぉ♡」
いつの間にか手が短パンの中に入っていて……その手も透明な糸を引いていた。
そして気づけば私は眠ってしまっていた。
「はぁ、修吾くん帰っちゃった〜。まあまた2人っきりなる機会を作ればいっか」
修吾くんがかけてくれたタオルケットに触れて呟く。
修吾くんはいつキスマークに気づくかな。そして王子様はどんな反応をするかな。
いつも学校で私を楽しませてくれる修吾くん。放課後は私が楽しませてあげるから。
放課後の私は、魔法にかかったように止まらない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます