第18話 くっつけばお似合い。むしろ+115
「きょ、今日の王子様、なんだが……怖くない?」
「……きっとたまたまご機嫌が悪いのよ」
「そうそうっ。これはこれで険悪な王子も……あり? なのよ。凄くお怖いけど……!」
伊織が校門をくぐれば彼女のファンがたくさん出迎え、駆け寄ってくる。黄色い歓声が飛び交う。
そんな見慣れた光景が——今日はなかった。
誰も伊織に近づこうとせず、ただ遠くで伊織の顔を恐る恐る伺うだけ。姿だけで彼女たちに気を遣わせるほど伊織は機嫌が悪かった。
(毎日美味しいご飯を作ってくれるお兄ちゃんが今日は作らなかった? しかもお弁当も……。おかしい……おかしい。お兄ちゃんは真面目だからこういうことはちゃんと続けるはず。急なことが入って作れない時は、事前に知らせるはず。なのに……)
ひとりでブツブツと呟く姿がさらに周囲の不安を煽る。結局、4時限目までこの調子であった。
昼。伊織は気晴らしに自動販売機で飲み物を買う。
「はぁ……暇。昼はお兄ちゃんのお弁当以外食べたくないんだけどなぁ……」
今日の彼女は兄のお手製を味わう時間などない。
そして考えるのは、修吾のことばかり。今回の行為がたまたまなのか。それとも何かの予兆なのか……
「修吾くん早く早くっ!」
「待てって片柳っ。お弁当は逃げないから!」
「お兄……ちゃん?」
伊織は修吾の声にすぐさま反応した。
奥に視線を向けると、修吾とせつが何やら小走りで校舎の陰に消えていった。
「……は? なんで……」
すぐに追いかけようとした伊織だったが、すれ違う女子生徒2人の会話を耳にする。
「またあの2人一緒にいたっ。最近、2年のじゅうご先輩とせつ先輩ってよく一緒にいるよね〜。もしかしてそういうこと?」
「え、ありえないでしょ。だってじゅうご先輩、好感度マイナス15とか言われてるし、どう考えてもせつ先輩とは……」
「でも、じゅうご先輩悪そうな人には見えないなぁ。それってただの噂でしょ」
「えー、でも……」
「アンタもこの前お似合いかもって言ってたじゃん。そう思うってことは、少なくともじゅうご先輩は悪い人ではないってことじゃないの?」
「んー、まぁ。……この前、ゴミ拾いしてたの見たし、確かに悪い人では……」
「むしろせつ先輩と付き合ってるなら+115でしょ!」
「それ結局、せつ先輩が株上げてるだけじゃん!」
会話がだんだん聞こえなくなってきた。割と最後まで聞いてしまった。これじゃあ修吾とせつがどこにいったか、今更追ってもわからない。
「……っ……っ」
伊織は紛らわすように、指を噛む。
片柳せつの影響で噂の効果も弱くなりつつある。このままでは……
伊織はさらに焦った。だから放課後にとある生徒を呼び出し……問いただす。
「……一体どういこと? なんで片柳せつがますますお兄ちゃんと仲良くなってんの?」
「俺に聞かれてもなぁ……」
「先輩がお兄ちゃんの一番の親友なんでしょ?」
問いただされている男はため息をつく。伊織が不機嫌なのは呼び出された瞬間にすでに察していた。
「つか、俺と昼飯を取らせないってのが失敗だったんじゃね? それで片柳が攻め入る隙ができたんだし、今や昼は片柳との——」
「なに? 僕の作戦に間違いがあったと?」
「なんでもございません。はぁ……めんどくせぇ……」
「ん?」
「……なんでもございませんよ! 王子様!」
伊織にひと睨みされ、ビビったように裏返った声を出すのは修吾の親友の——拓人であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます