第二章
第17話 策士家ガール
朝。伊織は携帯の目覚ましを3回止めたところでようやく起きた。
リビングにいけば兄である修吾の「早く食べろ!」という声が……。
「……お兄ちゃん?」
一向に聞こえてこない。それどころか、キッチンに立っているはずの修吾の姿さえない。
伊織はテールの上に乗せられているものに気づく。市販の食パンとトースター機。これでパンを焼け
そして紙があった。
『今日は早く学校に行かないといけないから朝ごはんは自分で頼む! あと昼ごはんもお小遣いで!』
「修吾くんおはよう〜」
「おはよう片柳……」
学園からちょっとしたところにある公園。そこで片柳と待ち合わせしていた。集合時間に間に合うかギリギリだったので、走ってききたが……暑い!!
「はぁ……あちぃ……。というか、なんでこんな早い時間帯にしたんだ?」
「だって先に出れば家のことやらなくていいでしょ?」
「あ」
今日は朝ご飯と弁当を作る余裕がなかったので、食パンとトースター機は用意して、置き手紙を置いてきたのだ。
言われてみれば、先に出ればあとは伊織が全部やらなければいけなくなる。
「まぁこれが最初の反抗だよね〜」
片柳はにしし、と笑った。
それにしても……暑い。暑いっていうほど暑くなるだけだけど。
7月上旬。
夏到来まで後少し。扇風機とアイスの貯蔵が必須となり、初夏がちらほらと感じ始めた。そして夏服への衣替えが始まった。
うちの学校の夏服は県内でも特に可愛いと言われている。
実際身に纏っている片柳は、薄い生地からは下着のシルエットが薄っすらと見え、袖から覗く白く光る二の腕は男子の視線を釘付けにするだろう。
「修吾くん? どうしたの私のことをじっと見て」
顔をずいと寄せてくる片柳に対し、俺は気恥ずかしくなって視線を逸らした。
女の子の夏服いいなーとか思ってたなんて言えない!!!
誤魔化すべく、俺は話題を変えた。
「それより、学園に行くのはまだ早すぎないか?」
「だからここで時間を潰すんだよ」
「こんな暑い中で?」
朝とはいえ、すでにジリジリと日差しが強い。このままじゃせっかくの夏服も汗だくになり、登校することに……。
すると、片柳がバックから自慢げに取り出した。
「ちゃんとお供を持ってきたよ! ジャーン! アイス〜! コンビニ寄って買ってきたんだぁ〜」
「おお!」
普段なら朝からアイスと思うが暑い中ならアイスは無敵の存在。しかも、パ◯コとか神すぎだろう!!
俺にチョココーヒー味を渡し、ベンチに2人並んで座る。木陰になっていて少しは涼しい。
「んー、冷たくて美味しい〜」
「片柳ってほんと美味しそうに食べるよな」
「だって美味しいんだもん〜」
片柳はスイーツももちろん料理上手。おまけに食べるもの好き。そんなに食べて細いなんてどこに栄養がいっているのだろうか……。
「修吾くん?」
「なんでもありません。ごめんなさい」
「なんで謝罪?」
ついお胸の方を見つめてしまった。夏服……これがお前の誘惑かっっっ。
アイスのおかげで身体も涼んできたし、そろそろ本題に入りたいところだ。
俺は片柳と朝からアイスをためるために呼び出されなわけではない。
「……今日からだろ。伊織をギャフンと言わせるやつ」
片柳が特に驚くことなく2本目のアイスに手をかけた。
「何をするんだ?」
ギャフンと言われせるとしか聞いてない。作戦はすべて片柳に任せている。
片柳は依然、アイスを美味しそうに食べながら言う。
「ん、まずは伊織ちゃんと距離を置くことかな」
「……距離? 同じ家に住んでるんだから限界あるぞ?」
「一気にじゃなくて徐々にね。そして『最近、距離を置かれてない?』と疑問を持たせたところで本格的にスタートだね。多分夏休みぐらいになるんじゃないかな」
慎重にいくってことか。確かに急に距離を置いたら怪しまれて計画が台無しだ。
「ちなみに、夏休みも片柳が」
「もっちろん!」
「いいのか? もうすぐ夏ってことは、テストがあるってことだぞ」
片柳が分かりやすい反応をする。
なんかこれ、この前の小テストの時と似たような展開のような……。
小テストはテスト範囲でもある。ということは、赤点を取っていては危ないということ。赤点の補習でせっかくの夏休みが減ってしまう。
「ちゃんと勉強もやるよ?」
「信用ならんな」
「ひっどいよ! でも修吾くんが確かめるんだし、大丈夫だよ」
「え?」
俺が直接確かめる?
片柳がアイスのゴミをくしゃと握り潰し、俺に近づいてきた。
「テスト勉強。うちで2人っきりでしようよ」
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