第15話 始まり恥まり

 まさか片柳からお昼のお誘いとは。拓人とは昼飯は食えないことになってるし、俺はというと、この前は他の友達と食べていた。


「だめ?」

「片柳はいつも食べてる友達とは大丈夫なのか?」

「事前に断っとかないとこうやってお誘いしないよ〜」


 そりゃそうか。


「俺はいいぞ」

「やった! じゃあ早く食べに行こう!」

「待て待て! 教室に弁当取りに行かないと」


 さっきまで体育館にいた俺が弁当を持っていないなど当たり前だ。


「それなら問題ないよっ。——はい!」

「おおっ!」

 

 軽く投げられたのは俺の弁当袋。机の横に掛けていたのをわざわざ持ってきてくれたのか。


「って、投げるなよ!」

「だってお弁当箱じゃないでしょ?」

「え」


 今日は寝不足だったのでのサンドイッチにしたから崩れる心配はないが。


「持った時軽かったからそうかなーって」

「よく観察してるなぁ……」


 弁当袋を投げたことは例にはならないが、こうやって周りを見て行動できるもの片柳の魅力なのかもしれない。


「どこで食べるんだ?」

「図書室の2つ手前の教室。この時間帯は誰も来ないから」

「何故に誰もいないところで?」

「そりゃ2人っきりじゃないとできない話があるからだよ〜」



◆◇


 片柳の言う通り、教室には誰も居なかった。俺が適当な席に座ると、片柳も俺の隣に座ってきた。え、近くないですか?


「さぁ食べようー食べよー!」


こりゃ何を言っても聞かなそうだな。


「いつも思ってたけど、お弁当って修吾くんが作ってるんだよね?」

「ああ。料理は俺担当なもので」


 昔からお手伝いやらしていた影響で、もう息をするくらい当たり前の作業になっている。……そういや、昔は伊織も一緒にキッチンに立って料理してだっけ。


「ん?」


 考え事をしていると、片柳の視線が俺のサンドイッチに向いていることに気づく。


「……食べたいのか?」

「え、いいの!」

「そんなにガン見されてるのに渡さないのは可哀想だろ」


 ラップに集まれたサンドイッチを受け取ると、片柳はいそいそとラップを剥がし一口。


「ん! 美味しい〜!」


 幸せそうに頬張った。

 自分が作ったものを美味しいと言ってもらえるのは嬉しいものだ。


「あ、私のも食べる?」

「いいのか?」

「うんっ。私のはお母さん特性だけどね」


 片柳の弁当を見ると、彩豊かなおかず。どれも手作りで美味しそうだ。


 と、俺はサンドイッチだがら箸がないな……。


「あーんしちゃいます?」

「この爪楊枝に刺したベーコンで巻いたウィンナーを貰うから大丈夫だ」

「えー!」


 うん、美味い。ウィンナーとベーコンって最高のコンビだよな。合わないわけがない。


 文句ありげな片柳は無視して、サンドイッチの方を食べ終わる。


「それで、2人っきりで話すこととは?」「あー、妹様の件だよ」

「……伊織の? ああ、あのギャフンと言わせるってやつか?」


 そうそう、と相槌を打ちながら片柳は弁当箱をしまう。


「前も言ったけど、お兄ちゃんだからって優しくするないんだよ? 仮に、私にあんな弟いたら多分ぶん殴っていたもん」

「ぶん殴るって……」


 片柳からそんな男らしいワードが出るとは意外だ。


「その件なんだけどさ……一旦保留にできない?」


 伊織のお金を使わない件がどうも気になる。


 片柳の顔が一瞬、真顔になった。俺は見たことない彼女の姿にビビるも、すぐに笑顔になり……。


「いいよ」

「すまない、迷惑かけ——」

「って私が言うと思う?」

「へ? ダメなの? って!?」


 突然、片柳がシャツのボタンを外し始めた。2つ目を外し終えると、黒色のブラジャーがチラチラと見える。胸はブラジャーに拘束されているようで苦しそうである。俺は胸に釘付けになっていた。……って、釘付けになってる場合かっ!


「片柳……っ、おお、お落ち落ち着けっ!」

「私は落ち着いてるよ」

「落ち着いたら服を脱ぐの!?」

「修吾くんの方こそ落ち着いて考えて。今までそうやって考えるっていって伊織ちゃんを甘やかしたからこんなにワガママ王子様になったんだよ?」

「ゔっ……」


 図星すぎて反論できない……。


「大事な妹だからどこか信じてあげたい気持ちはわかるよ」

「で、でもなぁ……う、ぐっ……!?」


 反論を遮るように突如、下半身へ重みがきた。たまらず視線を下ろすと……片柳が馬乗りしていた。


 片柳は今でにない、艶かしい笑顔を向けてくる。


「もし、決行しないっていうなら……私、修吾くんを襲っちゃうから」

「は、はい……?」


 わけわからん!! ほんとわけわからん!! 


 しかし、状況から見てどうやっても俺の不利。制服をはだけさせ、馬乗りしている片柳だが、叫ばれたらたまったものじゃない。絶対俺が襲ったと思われるに違いない、、


 俺に残された選択なんてひとつしかなかった。


「……分かった決行する! 伊織をギャフンと言わせてみせるからどいてくれ!」

「んふふ、ありがとう〜」


 意外とあっさりとどいてくれた。

 ヒヤヒヤした……。でも覚悟が決まったかも。


「ありがとうって、優柔不断な俺のためにわざわざここまでしてくれたんだろ? お礼を言うのはこっちだよ」


 昼休みも終わりかけだし、先に教室を出る。片柳が何か意味深はことを呟いているとも知らず。


「……ふふ、お礼を言うのは私の方かな」



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