第13話 王子様はお金を使わない

「アメリカンコーヒーと、この季節限定タルトをひとつ」


 俺はハラハラしながらカウンター席にいる伊織を見た。対応をしてくれているのはマスターである。


「ドリンクは食後がいいかしら?」

「いえ、同じでお願いします」


 当たり前だが、普通に注文しているだけで特に怪しい点はない。


 ふと、伊織はキョロキョロと見渡した。


 ま、まさか俺を探しているとかじゃないよな………!!


「お客様?」

「……やっぱり気のせいか」


 え、今なに呟いたの? そのため息はなに?


「いえ、なんでもありません。素敵な内装なので、見渡したくなりました。もちろんマスターも素敵ですよ」

「あらやだ〜。おまけでアイスも付けちゃうわ〜」


 マスターはすっかり伊織イケメンワールドに取り込まれてしまった。


 それからも特に怪しい様子はない。

 ただ優雅なブレイクタイム。ドラマの一部分みたいにキラキラしたイケメンのお茶タイム。


 皆、伊織に見惚れている。


「ほんと素敵だわ〜〜」


 店長、背中に乗らないでくださいよ……お、重たいっす……。


 そして食べ終わり、伊織はレジの方へ。


「また来ますね」

「こちらこそ待ってるわ〜」


 お会計だし、もう何もないか。


 ……そういえば、外での伊織ってあんまり見たことなかったな。外では意外と静かなんだな。女の子はべらせて遊んでいると思っていた。


 時間をずらして俺も帰ろと、エプロンを脱いでいる時だった。

 

「この一万は使っちゃダメだった」


 そんな声が聞こえたので、再び覗く。


 伊織は取り出し一万円を財布の中にしまった。

 ……もしやあれは、俺から奪った一万円なのでは?


「どうして使っちゃいけないの?」

「……」


 店長のナイスすぎる投げかけ。

 伊織が一瞬だけ真顔になった気がしたが、すぐにいつもの笑顔になり。


「これは使っちゃいけない大切なお金なので」

「大切なお金?」

「はい。使わないけど……うーん、お守りみたいですね。これ以上は秘密ですよ」


 唇に人差し指を持っていき、しーっとはにかめば、店長はさらにメロメロ。


 特に何もなく、伊織は店を出た。


「シュウちゃん、いい妹さんじゃない。イケメンで優しいし♪」

「そーすね……」


 他のバイトにも上機嫌に話す店長を見ながら俺は考える。


 ……俺から奪ったお金は使わない? お守りだと? じゃあなんのために取り上げて……。


 謎が増えるばかりであった。





————————

原因不明の発熱にうなされてました。

(現在回復。白米がめちゃくちゃ美味いです)

皆さんもお気をつけて〜

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