第10話 怪しさ◎(ニジュウマル)

「昨日は変だと思って少しは心配したが……」


「王子様今日もかっこよすぎ〜〜!」

「全部完璧っっ」

「昨日よりも今日がよりかっこいいですわ〜。おハーブですわ〜」


 最後のやつ、最近出たVtuberの口調が移ってないか?

 

 後からやってきた伊織が校門をくぐるなり、女の子たちにあっという間に囲まれる。相変わらず、伊織の周りだけ世界観が違うなぁ。


「おはようみんな。ボクも朝からみんなと会えて嬉しいよ」


 伊織が微笑めば、女子は皆、頬を赤らめうっとりとした表情。

 男女は悔しいというより、完敗……と今日も伊織のイケメンさに気後れしていた。


 うんうん。今日も兄妹の差を見せつけられる朝なことで。


「俺にもモテ期ってくんのかな〜」


 そんな悲しいことを呟きながら教室へ向かった。




「……これじゃあもうお兄ちゃんは慣れずきてなんの効果もないか」



◆◇


 教室に入り、クラスメイトに軽く挨拶して自分の席につく。


 さて、今日ある教科の教科書を机に入れて……と。


「おっはよーー!」


 そんな元気な声が響いた。

 片柳が元気な挨拶で登場。周りからパァと明るくなるのはいつものこと。すぐに友達に囲まれた。

 

 その後ろからそろり、と拓人が入ってくる。


「拓人もおはよう」

「おはようさん。全く、片柳と一緒に教室に入っちゃ俺というイケてる男が霞んじまうぜ」

「……」

「おい、頼むから何か反応してくれ。ジョークだけど、無言だとマジで傷つく」

「いや、反応しずらいんだよ」


 伊織といる俺もそんな感じだし。美女って強いよな。


 拓人の冗談は置いといて、


「昨日はお姉さん大丈夫だった?」

「え、あ、お、おう……」


 拓人の目がやけに泳ぐ。


「その反応……もしかして怒られたんだな。どんまいどんまい」

「いやー、まぁ……。つか、修吾はどうだったんだよ。片柳との進展はっ」

「進展? 片柳と?」


 拓人が何かを期待した眼差しで見てくる。

 昨日は拓人がいなくなって、勉強しようとしたらすぐに伊織がきたからなぁ………。


「別に何もなかったけど?」


 俺が答えると、拓人がポカーンと口を開いた。あまりに固まっているので、顔の前で手を振っていると、ようやく動き、


「いやいやいや!? 部屋に男女がいて何も起こらない方がおかしいだろ!」

「そう言われても……。お前は一体、何を期待してるんだ」


 例え伊織が来なかったとしても、小テストの勉強教えて普通に解散だったし。


 何やら拓人が頭をガシガシかいていると、片柳がこちらにきて。


「あー、あの後すぐに妹様がお迎えにきてそこで解散になっちゃったよ」

「なーんだ。そういうことか。……俺の協力返せや」

「あはは、ごめーん。今度ジュース奢るよ」


 2人だけの会話。

 また俺だけはぶかれた。なに? 俺だけわからない話をするのがブームなの?


「片柳。伊織が突然悪かったな」

「ううん。私も伊織ちゃんの立場だったらそうしてたもん。……それに伊織ちゃんが案外王子様じゃないってことも分かったし♪」


 ん? そりゃどういう意味で……。


 話しているうちに担任が入ってきた。


「あ、先生だ。じゃあね」

「俺も」


 片柳も拓人も自分の席についた。


「話の3割は全く分からなかったぜ」

 

 俺の知らないところで一体何が始まってるんだ。


 それから朝のホームルームをして、授業が始まった。



◆◇


「———今日はここまで」


 数学教師が時計を見ながら言うと、丁度よくチャイムが鳴る。


「はぁ、終わったぁぁ」


 数学の時間ってなんか他の教科より疲れがどっと増すの俺だけ? 科目によるが、図形と多項式の除は結構苦手だなー。


「なぁ、拓人。今日も俺は売店に……」


 拓人に声をかけようとしたが、席を見るといない状態。


 席の近いクラスの男子に聞く。

 

「拓人知らない?」

「チャイム鳴るなり走ってどっか行ったぞ?」

「そうか……」


 売店に行くにしてもいつも一声かけて行くんだけどな。


 とりあえず待ってみる。

 5分後、先程の男子が何やら慌ただしく俺の元へきた。


「聞いたか、修吾! 拓人のやつが女子に呼ばれたらしいぞ!」

「なんだと!?」


  拓人のヤツ、まさ事前にラブレターを貰っていてお昼に告白でも受けていたのかっ!


「拓人を呼び出した女子は誰なんだっ。あー、気になる〜」

 

 俺がそう言っている間に、人の恋愛には興味あるんだな、とか呆れるような声が聞こえてきたは気のせいだろう。


「おお拓人!」

 

 主役が帰ってきた。さて、根掘り葉掘り聞こうてではないか。


「拓人聞いたぞ〜。お前女子に呼び出されたんだってな」

「相変わらず噂広まるの早いなぁ……」

「当たり前だろ。この学校の女子はほとんど伊織に取られていると言っても過言ではないからな。女子に呼び出される男子なんてレア中のレアだぞ。もっと誇れっ。そして男子から恨まれろ、クソっ!」

「最後に本音が漏れてるぞー」


 それにしても拓人の落ち着度から告白ではないのは間違いない。もし告白ならもっとハイテンションだろう。なにせ、俺に女の子紹介してくれって言ってくるやつだからな。


「んじゃ飯行こうか。今日は屋上でいいか?」

「いいぞ」


 売店に寄り、俺たちは屋上にあるベンチに腰掛けた。


「さぁて拓人〜。さっき女子に呼び出されて何をしていたのかを根掘り教えて——」

「あのさ」


 俺が言い切る前に、拓人が遮っていた。


「な、なんだ?」

「昼飯を一緒に食べるの、今日で最後にしていいか?」


 拓人がやけに真剣な眼差しで訴えかけてくる。


「えっ? どうした急に?」

「いやさ、修吾もたまには他のやつと食べた方がいいのかなーと思って」

「拓人は、それでいいのか……?」

「いいよ。俺も久しぶりに違うやつと食べてみたいし」


 拓人がいきなりこんなことを言うなんて……。もしや俺、何か嫌われるのとをしたのか……?

 

「ばか、勘違いすんなよ。別に修吾が嫌いになったとかじゃねえから。ただ……な?」


 これ以上聞き出さないでくれとばかりにの苦笑。なら、俺もここまでだな。


「了解。じゃあ今日は拓人との最後の昼飯を堪能しますかぁ」

「俺がいなくなっても泣くなよ〜。あと、そろそろ自覚しないとありゃヤベェことになるぞ、無自覚王子様」

「ん? 王子様は伊織だろ」

「ははっ、まぁそうだな」


 

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