第5話 可燃材
「体育は楽しかったけど、また赤点だよ〜!」
片付けをしてから教室に戻ると、片柳のそんな声が開口一番に聞こえた。
彼女の友達はそれを見て微笑ましそうに笑っている。
「やっぱり赤点だったんだな」
「あ、修吾くんたちおかえりー。今回の数学難しすぎだよー」
「勉強してない片柳が悪いんだろ」
「いやいや! なんで丸バツ問題じゃないのさ!」
「それじゃあ意味ないからだろ……」
途中式とかも点数分配分に入ってたし、赤点取るってことは根本的なところから分かってないってことだな。
「まぁまぁせつちゃん。とりあえずご飯食べよう」
「そうだよ。私たちが勉強教えれからさ」
「う〜〜! ありがとうみんな〜〜!」
片柳が女友達2人に抱きつく。
相変わらず誰からも好かれてるなぁ。
「俺たちも飯食おうぜ、拓人」
「おうよ」
席をくっつけて……と。
「あ!」
「またなんだよ……」
片柳が突然、大きな声を発したので、耳がまたキーンとなった。
「はい、修吾くん。これどうぞ」
何やら自分の席の机の横に掛けてあった紙袋を渡してきた。
「なにこれ?」
「私特製のスイートポテト」
「もしかしてまた試食か?」
「ピンポーン!」
片柳は将来パティシエになりたいらしく、時々こうやって試作品を俺にくれる。いつもは放課後にこっそり渡してくれるんだが……。
「大丈夫だよ。王子様はいないから」
困り顔でもしていたのか、片柳が俺にだけ聞こえる小声で言う。
「べ、別に伊織に見つかったら怖いとかび、ビビってないですけどもっ」
「ふふ、だよね〜。容器は今日遊びに来る時に返してくれればいいから。それじゃあ味わって食べてね〜」
片柳が手を振り教室を出る。その際、女友達たちに、「なになに? どういう関係〜!」と質問攻めされていた。
放課後にもらったお菓子は、帰り道にある公園でこっそりと食べるんだが……今回は、昼に食べさせてもらうか。
俺がお菓子を家に持ち帰らない理由。それは伊織がまだ中学生の去年のバレンタインの時、
『お兄ちゃんなにこれ』
『ん? ああ、今日ってバレンタインだろ。クラスの女子が男子全員にチョコ配ってだんだよ。すげぇよな』
『ふーん。こっちは? 安っぽくないみたいだけど』
『これは……ああ。同じクラスの片柳からだな〜って、おいぃぃ!?』
俺が話している途中で、伊織は乱暴にラッピングを剥がし、ガトーショコラを食べた。
『チッ、美味しいし……』
『おい伊織! 何勝手に食べてんだよ! お前のチョコならそこに山ほどあるだろ!!』
段ボールいっぱいのチョコがよぉ! 今年も凄いな!!
『……うるさい。いいお兄ちゃん? 二度とボクの前に他の女から貰ったモノを見せないで』
『はぁ? なんで——』
『いいね?』
その圧に押され、俺は首を縦にふぅてしまったのだ。何故かあの日の伊織はすこぶる機嫌が悪かった。
弁当を食べる前に気になって紙袋の中を取り出す。中身はスイートポテトだ。
「んー! うまいっ」
サツマイモの形をしていて、なめらなか口触り。生クリームを混ぜていて、サツマイモの甘さとマッチして美味しい。店に出してもおかしくない。
今年は模擬店を出せるからスイート担当は片柳で決まりだな。
「お前、ほんとにこれで片柳のことを友達って言い切れるのか?」
「友達だろ?」
試食を頼むくらい友達だろ。
俺が首を傾げていると、拓人は大きなため息をついていた。
◇◆
放課後になり、片柳に急かされるまま、教材をバッグに入れ。
「よーし! 行こう!」
「俺、行かなきゃダメ?」
「何言ってんだよ、拓人。カラオケは元々この3人で行くつもりだったんだからお前が来ないと意味ないだろ」
「いや、そうじゃないんだよ。……お前らのいちゃつきに挟まれる俺の気持ちにもなってみろよ」
「?」
「え、三島くんなんか言った?」
「お前らこういう時だけ難聴系主人公発動させんなよっ!」
騒がしい3人が教室を出た後、せつの女友達がふと呟く。
「そういえば、せつちゃんとは遊んだことあるけど……家には呼ばれたことないよね〜」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます