第3話 3番目の女、最強説

「ねぇねぇ何話してたの! 私にも教えてよ〜〜!」

 

 そう言いながら、片柳は俺の肩を容赦なく叩いてくる。


 なんでコイツは俺の時だけこんなに暴力的になるんだ……。


「痛い痛い! 分かったから、話すから叩くな!」

「だって修吾くんが私の名前出したから悪口言ってるのかなーって」

「誰がお前の悪口なんて言うか!」


 言ったらただの最低なやつだし、片柳ファンに殺されるわ!!


「にしし、だよねー」


 片柳はまたはにかんだ。


 片柳せつ

 通称3番目に可愛い美少女。

 

 チャームポイントのポニーテールに、人懐っこいニコニコとした笑顔。明るく活発な性格こそ、彼女の人気だ。

 しかし、フレンドリーな分スキンシップも激しい。時にそれは、男女にあるべき境界線すらも軽々飛び越えてしまうことも……。


 要するに勘違いする男子が多発するってことだな。


 現に今も、俺に身体を寄せているせいで、肩に柔らかいものが当たってしまっている。

  

 けれど俺と片柳は友達以内。

 それ以上もそれ以下もない。


「で、なに話してたの?」

「今日行くはずだったカラオケの代金が無くなって俺が行けなくなったって話」

「え!? 行けないの!? そんな〜〜」

「伊織にお金取られて金欠なんだよ……」

「そんなの、私が立て替えるよ?」

「返せなくなる可能性の方が高いから借りるのは遠慮。まぁ明日なら大丈夫だが……3番目の美少女さんはどうせ補習だろ。今日数学の小テストあるし」

「え、嘘!?」


 やっぱり知らなかったか。

 数学は片柳の大の苦手教科。毎回赤点だし、一限から小テストの時点で今回も赤点確定だな。


「じゃあ明日は、俺と拓人で男2人のカラオケで決定だな。3番の美少女さんは留守番ってことで」

「ワンチャン三島くんも補修の可能性もあるし! てか3番目3番目うるさいぃ!」

「これで俺がマイナス15の人だと言われる気持ちが分かるだろ」

「好感度マイナス15お兄ちゃんの気持ちなんて分からないもんっ」


 片柳がぷいっとそっぽを向く。そして、身体を離した。


 ふぅやっと離れた……周りの男たちの視線で危うく死ぬところだったぜ……。


「おいおい、このいちゃつきぶりで友達って無理があるだろ……」


 拓人が何か言っている気がしたが気のせいだろう。


「あっ!」

「なんだよ急に大声出して……」


 耳がキーンとしたぞ。


「お金を使わない遊びがあるじゃん!」

「お金を使わない遊び? 謎々か?」

「違う違う!」


 片柳がペカーと、にっこりした笑顔で言う。


「今日の放課後、私の家に遊びに来てよっ」



(伊織side)


 "好感度マイナス15の兄"


 どうしてそう呼ぶの? と聞かれ、『文字通りの意味』と答えれば、マイナスなイメージ、ボクがあたかもお兄ちゃんを毛嫌いしていると思うだろう。


 誰も知らない。

 誰にも教えない。

 ボクが狙いがあってお兄ちゃんのあだ名を広めているのかを。


「伊織さんっ」


 おっと、クラスの女の子が話しかけてきた。王子様を振る舞わないと。


「なんだい?」

「今日の放課後……私たちと遊びませんかっ」


 緊張したような声色で言ってくれた。

 勇気を出して誘ってくれたのは悪いけど……。


「ごめんね。ボク、放課後は1人派なんだ」

「そ、そうですよね……。いきなりすいませんでしたっ」


 女の子はぺこぺこと平謝りをして、友達の元へ戻っていった。


「やっぱりダメだったでしょ。伊織さんはこの学校の生徒とんだから」

「うぅ……」

「普段私たちの事を丁寧に対応してくださっているんだから、ひとりの時間は欲しいのよ」

「そ、そうだよね」


 彼女たちの間で上手く解釈されているようだ。


 お兄ちゃんから取り上げたお金は、ボクがこの子たちに使うのではない。 


 お兄ちゃんが間違っても他の女に使わないように、一円残らず貢がせるのだ。お金はちゃんと今後のために大切に取ってある。


 加えて、『好感度マイナス15の兄』などというあだ名が広まっている以上、他の女は好んでお兄ちゃんに寄り付かないだろう。


 ふぅ。やっとここまで落ち着いたな。


 入学当初は、いくらボクの情報をお兄ちゃんに聞こうとしていたとはいえ、お兄ちゃんがボク以外の女に親切にしているところなんて見たくなった。


 ボクがお兄ちゃんを『好感度マイナス15の兄』と広める理由。


 それはお兄ちゃんが……堪らないからだ。




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