第1話 上下関係のある兄妹(?)

「ごちそー様でした」

「お粗末様。皿つけとけよー」

「はぁ? なんでボクが」


 兄妹のいつもの朝食風景。

 妹の伊織いおりはいつだって俺に冷たい。


 俺特製の朝食を綺麗に平らげると、用事は終わったとばかりに先に家を出る。


「まったく。片付けくらい手伝ってくれても……」


 洗い物も戸締まりも、色々終わらせてからこっちは家を出ないといけないっつーの。


 俺と伊織の二人暮らし。

 親父は今年度から単身赴任で隣の県にいる。母さんはイチャつきに――もとい、面倒を見に行ったのであろう。


 我が家の両親は仲がすこぶる良い。流石にないとは思うけど、弟か妹が出来たとか言われてもおかしくないくらいに仲が良い。


 なのに兄妹仲だけ悪いのはどうしてだろうな。いや、元々はこうではなかった。


『お兄ちゃーん! ぎゅーして!!』


 昔は甘えん坊で可愛かったなぁ。

 今はというと、反抗期や思春期なのか冷たいけど。


「ふぅー。終わった終わったー」


 制服に着替えて、玄関を開けた時だった。


「遅っ」

「うぉ!?」


 開けた瞬間、伊織の姿が目に飛び込んできた。


「学校行ったんじゃなかったのかよ……」

「ちょっと用があって。……はい」


 伊織がこちらに手を差し出してきた。


 もしや、お兄ちゃんと一緒に登校したいと……


「何アホ顔晒してんの。ほら、寄越せ」

「え、なにを?」

「お金」

「……」


 いつからお金をたかるような子になったのだ。お兄ちゃんそんな子に育てた覚えないぞ。


 黙る俺など気にすることなく、伊織は続ける。


「ボク、モテるからさぁ今日の放課後も土日も女の子たちとデートなんだよね」

「……そうか」

「だーかーらー。非リアでモテないお兄ちゃんのお金もとい小遣い、頂戴よ。どーせ使う事ないでしょ」


 酷いななぁ! 俺だってオタ活に使ったりムフフな本に使ったりするんだよ!!

 

 と、その前に言うことがあるな。


「あのなぁ。お小遣いなら仕送りで貰ってるだろ」


 そう。両親から仕送りで十分すぎるお金を貰っているのだ。


「使ったからお兄ちゃんに貰おうとしてるんじゃん」

「使うの早っ! もう少し大事に使えよ。つか、だからって俺にたかるなよ!」

「何度も言わせないでよ。ボクは女の子たちのために使ってるの。お兄ちゃん、毎月のお小遣い余るくせに」

「う、うるさいなぁ! 俺のお小遣いは俺のだからやらんぞ。兄妹平等に振り込まれてるんだからな。これに懲りたらちゃんと計画立てて使うんだな」

「平等? ボクの方が2万くらい上乗せされてるの知らないの?」

「……」


 そーいや、うちの親父は特に伊織のことを溺愛してたな。


 伊織はここで俺のお小遣いを取るつもりだ。


 このまま無視して学校に……いや、絶対逃がさないとばかりに目の前に立ってるし。全力で逃げればワンチャン逃げ切れるかも……。

 

 などと考えていると、俺の顎に手を添えられた。驚く暇もなく、そのままクイっと……顎クイをしてきた。


「お兄ちゃん。人と会話する時にはちゃんと相手の顔を見るって……習わなかった?」

「っ……」


 たとえ血の繋がった妹、整った顔に至近距離でじっと見つめられると、その完璧な容姿に吸い込まれてしまいそうな気分になる。


 そのまま玄関の扉に追い詰められ、


「ねぇお兄ちゃん。可愛い妹とダメだと思ってさ……お小遣い頂戴?」


 キリッとした目つきで見上げてくる。


 イケボで囁かれた。

 悔しいが……めちゃくちゃカッコいい。


 俺は観念し、しぶしぶ財布から諭吉を1枚渡す。

 受け取ると、伊織はあっさり、俺から離れ、


「ん、どーも。最初からこうすればいいのに。だから好感度マイナス15の兄なんよ」

「それとこれとは関係ないだろ! つか、なんだよその好感度マイナス15の兄って! おーい! 行くなよーーっ!」

 

 俺の話に耳を貸すことなく、伊織はスタスタと行ってしまった。


 家では何かと上から目線の妹。だが、学校での伊織は、またひと味違う。

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