異世界タイムリミット

たこすけ

第1話 前世のタイムリミット

人生にはタイムリミットがあらかじめ存在し、その時は突然やってくるのだ。


なぜそう思うかって?簡単な話、今自分の姿がそれを証明しているからだ。


ほんの数分前まではピンピンしていた体も、今となっては子供を庇って自動車に跳ねられ、もうその面影すらない。


手と足は完全に骨が折れており、自由に動かすこともできず、意識が朦朧とする中、自身の生暖かい血液が視界に映っていた。

最初こそは、気持ち悪いと思ったものの、自分の死を察してから、もはやそんな感情すら失われ許容するまでになってしまった。


「あんたもうすぐ救急車が来るぞ!」


周りから何か聞こえた気がしたが、聴覚が失われ、何を言っているのかまるで分からない。

そして、その数秒後、瞼を閉じると同時に意識が暗闇に消えていった。


「──て、────、きて。」


どこからか、声が聞こえる。

暗闇の中、どこからかこちらを呼ぶ声がする。


「起きて」


先程とは異なったハッキリとした声で俺は瞼を開けた。

目の前には、真っ白に広がる世界ともう一つ。うっすらとしか見えないが長い銀髪の少女?が立っていた。


「君は誰だ」そう言葉を発しようとしたが声は出なかった。そして、自身の体の違和感に気づいた。

視界は確かに広がっているのに、自分の体はどこにもなかったのだ。

だが、さっきのを思い出すあたりどういう仕組みかは知らないが視覚と聴覚だけは作用されているようだ。

現に俺は、目の前の少女の声を聞くことができている。

そして、もう一つの疑問点……


「思考は、まとまった……?」


俺が一人現状を整理している中、少女は、静かに口を開いた。

やはり、俺を完璧に認識しているらしい。

だが、明らかに実体ないのに、どうやって……


「だって、あなたは私が呼んだから」


何も話していないのに、少女は俺の疑問の答えになっていないような事を答えた。


その時だった。

ピシッ。

ガラスのような何かが割れる音がした。


「もうこの世界も長くはないわね」


一瞬離した視線をまた少女の方に戻す。


「手短に話すわ。聞いて。」


少女が一歩、一歩と距離を詰めて視界の目の前までやってきた。


「あなたがこれから転生する世界を救って」


俺には少女が何を言っているのか分からなかった。いや、これはおそらく誰でも同じだろう。

だが、少女の目は真剣でどこまでも澄んでいた。


ピシッ。ピシッ。

またさっきのようにガラスが割れる音が今度は近く、多く聞こえた。


少女から視線を離すと、真っ白な世界のところどころにヒビが入っており、一部ではその世界だったものが破壊されていた。


── 逃げないのか?


「逃げないわ」


念じた言葉に少女は即答した。

そして、さきほどの疑問点は、彼女との不自然な会話が繋がった事で、確信を得た。

やはり、彼女は俺の心が読めるらしい。

最初に「思考」なんて言葉を使って会話を始めたのも俺の考えを読み取ったからだろう。


「正解。次会うのはいつだろうね」


── ……それって


少女の意味深な発言を言及しようとしたが、


「残念。タイムリミット」


その言葉とともに、世界が崩れ去っていくのを体感した。

視界にはあの真っ白な世界はもう存在しない。あるのはひび割れ、崩れる世界のみ。


── くそっ、頭が……


それと同時に自身の頭が痛みだし、また視界が閉じていくのを感じた。

少女は自分の視界の端に飛び出し、


「任せたよ。西条傑さいじょうすぐる。」


俺の名前をたしかに読んだのだった。












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