第46話
地球最終防衛ライン。
最前線から最も離れたそのラインに、本来ならば敵艦が現れるはずがなかった。
どこかの国の艦隊が防衛網に穴を開けない限りは。
中欧民国宇宙軍パトロール艦隊、巡洋艦モウカク。ブリッジ。
「レーダーに感あり! 敵艦です!!」
「どこから湧いて現れた・・・。いつもの戦線をすり抜けて来た戦闘ポッドではないのか!?」
「大きすぎます! 全長、およそ200メートル!!」
「異星人との戦争に政治を持ち込むからこういう事になる・・・! 主砲起動! 僚艦の動きは!?」
「ありません! 敵艦、突っ込んできます、降下ポイント予測、陽本です!」
「またか・・・。中欧宇宙軍に二度は無い! 全砲照準合わせ! 本艦搭載のオクスタンも全機発艦させろ、敵に先手を撃たせるな!!」
艦長、エン・ザオマは、先の陽本に降下させてしまった戦闘ポッドによって陽本軍に少なくない被害が出た事に憤りを感じていた。
くだらない政治で、友好国とは言えないまでも隣国の本土が戦禍に見舞われたのを見ているしかなかった。
軍人であることを誇りに思うからこそ、無用な被害を良しとする政治家たちやライバル国の国力低下を笑う事しか出来ない上官に苛立ちばかりが募る。
(今度こそ・・・。誇りある中欧軍人として今度こそ敵の降下を阻止する!)
「旗艦コリオウより入電!」
「・・・モニターに出せ・・・」
メインモニターに表示されるのは、いかにも悪巧みが好きそうな将校。艦隊司令のギ少将が不敵に笑いながら言った。
『エン中佐・・・。また貴官は勝手に戦闘態勢に入っておるのか』
「ギ少将。今回の敵は今までとは違う。戦艦クラスが迫っているのです! 直ちに迎撃することを進言する!」
『上官命令に逆らうのかね? エン・ザオマ中佐。敵の目的地は陽本なのだぞ?』
「陽本が非友好国だからですか・・・? それとも特戦機のパイロットが陽本人だけだからですか」
『エン中佐。そろそろ君も政治というものを理解した方がいい。長生き出来んぞ?』
エン・ザオマはキッとモニター越しに睨み据えてキッパリと言い切った。
「本艦は単独でも迎撃に当たる! 戦闘ポッド一機で戦闘機が八機も落とされたのです。それが艦船クラスともなれば被害は容易にわかるというもの! アレは行かせてはならない敵だ!!」
『残念だ』
右脇に立っていた副官が、エン・ザオマの顳顬に銃口を向ける。
驚愕の表情で副官を横目に見るエン。
「リー大尉・・・、貴様・・・」
「陽本のサルに同情などするからです。艦長」
「同じ地球人なのだぞ・・・!」
「いいえ。地球の支配者たるは我ら中欧人。他の民族など取るに足らぬ存在です」
「リー・ファン! 貴様!!」
銃声が鳴り響く。
地球を守る、その一点に心血を注いだ誇り高き軍人、エン・ザオマは、志半ばで誤った政治欲に毒された同胞によって粛正されてしまったのである。
モニターの中でギ少将が拍手を送って笑う。
『よくやったリー大尉。いや、リー少佐。これからは君がモウカクの指揮を取りたまえ。期待しているよリー艦長』
「ありがとうございます、ギ少将。政治家になられた暁には、」
『無論、君の登用も考えておこう』
「はっ! ありがとうございます!!」
「敵艦! 戦闘ポッド射出!」
オペレーターから報告が上がり、ドキリとして窓の外を見据えるリー。
「なに? どういう事だ。敵の向かう先は陽本ではなかったのか!」
「敵艦の進路変わらず・・・! ただし、敵は本艦隊に向けて戦闘ポッドを射出した模様! その数、十!!」
「じゅっきだと!?」
指示を仰ごうとつい艦長席を見てしまうが、自らが粛正してしまい頼りになった艦長の亡き柄が床に横たわるだけだ。
モニターから声がした。
『リー艦長、旗艦コリオウは後方へ下がる』
「はっ!?」
『貴官らは全力を持って敵の接近を阻止せよ』
「ま、待ってください! 空母である旗艦コリオウに下がられては彼我の戦力差が!?」
『期待しているよ』
通信が切れ、窓の外には禍々しい触手を生やした物体が迫る。
慌ててリーは命令を飛ばした。
「ぜ、全艦対空防御! オクスタン緊急発進!!」
各砲塔が回る。
艦両舷の隔壁が開き、オクスタン戦龍が発艦態勢に入るが、すでに敵戦闘ポッドを至近距離まで接敵を許してしまっていた。
対空砲火を生物のように掻い潜って触手の先端からビームが無数に撃ち込まれる。
僚艦の戦艦が爆散した。
そして左弦を航行していた巡洋艦も火を噴いて地球の重力に引かれ大気圏へと落ちていく。
「こんな・・・馬鹿な・・・!」
オクスタンは発艦した直後に狙い撃ちされて背面のスラスターに引火し次々と炎に包まれる。
ブリッジの正面に、敵戦闘ポッドが飛来して、毒花のように触手を開花させ・・・、
「こんな・・・、こんなはずでは・・・!」
十条のビームにブリッジが焼かれる。
クルーを含め、リーは高熱に焼かれて灰と宇宙に消えた。
巡洋艦モウカクは、艦体各所にビームの波状攻撃を受けて炎に包まれながら大気圏へと落ちていく。
真っ赤に、摩擦熱に焼かれてモウカクは、やがて爆散して消滅していった。
そして敵戦闘群は、後方へ退避中の空母コリオウにも追撃を開始し、対応の遅れたコリオウもまた、轟沈の運命からはついに逃げる事は叶わなかった。
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