第47話

 陽本直上、陽本宇宙軍パトロール艦隊。

 護衛艦蒼龍と飛衛が宇宙用三三式煌角を合計二十機展開して中欧パトロール艦隊を破った敵の襲来に備えていた。

 蒼龍ブリッジ。


「里中艦長」


 副官の吉岡少佐が酒の注がれた杯を差し出す。

 ブリッジクルーの全員に酒は行き渡った。

 里中艦長が重々しく口を開く。


「知っての通り、中欧軍のパトロール艦隊は本艦隊の倍の戦力を有していた。それを全滅せしめた敵が、我が陽本本土目指して進軍してきている」


 ざわつき、唾を飲み込むクルーたちを見渡し、里中艦長は言った。


「非常に厳しい戦いである。我が陽本宇宙軍はその大多数を外宇宙防衛ラインに送り、今ある戦力のみで対抗しなくてはならない。皆に死ねと命じねばならぬ私を許してほしい」


 再度見渡すが、誰一人として気弱な目をした者はいなかった。

 それぞれが覚悟を決めて、艦長の次の言葉を待つ。


「皆の奮闘に、期待する。陽本の未来に」


 未来に、の掛け声で里中艦長は杯を胸の高さに掲げ、クルーはそれに倣い、そして薄く注がれた酒を一斉に飲み干して短い黙祷を捧げた。

 下士官が盆を手にクルー達から杯を回収して回る。

 そして、里中艦長の杯が戻されて、改めて艦長は声を発した。


「全艦第一級戦闘体制。全砲門開け。レーダー観測、敵の位置はどうか」


「敵、レーダー反応なし。ただし、光学カメラにて接近する艦影を確認。接敵まで、三分」


「速いな。吉岡くん」


「はい、艦長」


「地球に降りた戦闘ポッドの迎撃に当たった生徒はなんと言ったかな」


「轟沢斗真訓練生です。今は准尉の階級を与えられていますね」


「一度、会ってみたかったな」


 ブリッジの窓からも敵と思しき発光が確認される。


「レーダーに感! 接敵まで三十秒!」


「主砲照準」


「主砲照準! 合わせ! よし!」


「撃ち方、始め」


「うちぃーかたぁー! 始めえ!」


 護衛艦艦首の主砲が断続的に火線を打ち上げる。

 僚艦の飛衛からも火線が上がった。

 同時に火線を大きく迂回するように宇宙用三三式煌角がスラスター光を輝かせて飛び去っていく。

 陽本直上艦隊の決死の戦闘の火蓋が、切って落とされた。




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