第43話
橋詰恭太郎。ゲーム本編では攻略対象のヒロインたちをレイプまがいに毒牙にかけて物理的に籠絡していく屑主人公。
正直、攻略本を流し見した知識しかない俺は優の導入フラグを途中で折った経緯から油断していたが、あの屑、見事にレイプしようとしやがった。
なのでブン殴ってやったわけだが、阻止できたとはいえ優を危険に晒してしまって実はかなり落ち込んでる現状でございます。
ビルギに
気丈に振る舞ってるけど、不安だったはずだ。
荷物の移動終わったら、家の近くまで送って行こうかな。
誰か車貸してくれないかな・・・。
正直、私物って実は何も持ってないに均しい俺。一通りダンボールに入れ終わって布団を押し入れに入れようと畳んでいると、優が声をかけてきた。
「ねえ、とうま?」
おやちょっと不機嫌。
そりゃそうだよね。俺、危なく優を、
「これってなんの本?」
ほわあ!?
ちょ! まっ! 押入れそういえばアノ本を隠してあったんだった!?
優さんグラビア雑誌(仮を開いてハイライトの消えた目で真顔で見つめてくれていますご褒美ありがとう!
なんて言ってる場合じゃない。
「いやっ!? えー? なんでせうねっ!?」
「なーに? これ?」
うん。
美人な女性のハダカが載ってますね・・・。
「えー、いやー・・・」
ダメだ。始めからそこにあったとか最悪な言い訳だ。
くっ・・・、忘れていた・・・。こんな事で俺の青春(二度目にして春)は詰んでしまったというのか・・・。
「ゴメンナサイ・・・」
片言になってしまったが素直に謝る俺氏。情けない・・・。
「まぁ・・・。男の子って、こういうの読むとは聞いてたしっ? まぁ、別に・・・だけど・・・。女の子が来るってわかってたら隠しておいた方がいいよ」
超怒ってる。
心臓ばくばく俺氏涙目。布団セットを抱えたまま固まってると、優は表情を和らげて言った。
「あ、隠してたつもりだったのか。ごめんね?」
「イヤ、コチラコソ・・・」
穴があったら入りたい。
優がととっと駆け寄って来て正面から一緒に布団セットを抱えてくれる。
「ほらっ、早く布団も仕舞って荷物運ぼっ」
やや強引に引っ張られて前のめりに倒れそうになるが踏ん張って俺は耐えた。
優を下敷きに倒れるなんてカッコ悪すぎるからな。俺って偉い。
「わ、わるい! すぐ片すからっ」
おや??
何故膨れて・・・?
「ぷー。とうまのどんかんカメムシ!」
俺ってくさいの!?
いや、鈍感て・・・。
あれ? 俺、転ばないように気を使ったのになんで怒られたんだろう?
ともかく布団セットを押入れにしまっている間、見えない背後で優が困ったような恥ずかしいような微妙な顔で頬を赤らめて微笑んでいたことに、当然俺は気付かなかった。
押入れを閉めてダンボールを持ち上げると、優はグラビア雑誌(仮を持って付いてくる。
途中、学校敷地の裏手側を抜けて教員駐車場に行く中程で焼却炉に通りかかると、優は俺に見えるようにグラビア雑誌(仮を焼却炉に放り込まれました。合掌。
意味深な顔で振り向かれます。
「だってぼくが居るから要らないよね?」ッッニコッ!!
ああ、その満面の笑み怖いです。はいグラビア雑誌(仮なんて要りません。
だって優が居てくれるからっ!グスン。
「ほんとに、男の子ってしょうがないっ」
ソウデスネ・・・。
ともかくキャンピングカーに着くと荷物を下ろして、ぐるっと一周して観察してみる。
え、ナニコレ。
アンメリカンドラマに出てくるようなすげー立派なキャンピングカーなんですけど。
優が感動してる。
「うわー! ナニコレ!? バスみたーいっ!」
楽しそうに振り向いて両手を広げくるっと回転する。
「すごいねえ! こんな所で生活したら噂になっちゃうね!」
「ああ、うん・・・。キャンプ場のホテルみたいだね凄いね」
「ガメリカのホームドラマで見るやつだね! すごーい!」
感動してはしゃぐ優かわいいなあ。ほっこり。
徐に優が側面の扉の取手を引っ張って、
「まだ開いてないでしょ。鍵まだ持ってきてないと思、」
「あ、開くよ!」
がちゃん。
てってってっと、優が乗り込んでいく。
マジか、電気ついてないけどもう誰か来てるのかな。
嘆息を吐いて荷物を運び込み、左右を見る。
右はキッチンがあって、奥に進むと居間みたいになってるのか。
左は、トイレとバスっぽい。さらに奥に行くと寝室。
バスって風呂の方ね。サイズ的にはシャワーしか無さそうだけど。
荷物を居間に運んでテーブルに下ろすと、優の姿が見当たらない。
「あれ? 優?」
『んー?なーにー?』
寝室かよ。
のこのこ行ってみると、ベッドに仰向けに寝っ転がって床に脚を投げ出し両手を開いてくつろいでいた。
何故か制服の前を開いてワイシャツの第二ボタンまで外してるけど・・・?
「え、優、くつろぎすぎじゃね?」
思った事を正直に言ったのだが、すごく不機嫌になってベッドに座るとワイシャツのボタンを止めて制服を着直す。
「とうまは今、今世紀最大のチャンスを逃したと思う」
え、何の?
パッとベッドから飛び起きて優が俺の胸に飛び込んできた。
「ね、とうま。立派なキャンピングカーだね!」
「そうねー。こんな所で生活とかマジで緊張するわ」
「上見て上見て! 屋根裏もあるっぽいよ!?」
本当だ、紐を引っ張ると階段が降りてくる仕組みになってる。
覗いてみると、上にもマットが引かれて簡易的な寝室になっているようだった。
並んで階段から覗いてると優と密着するほど距離が近くなる。
優が俺を見上げて言った。
「じゃあ、ビルギさんは勝手に出歩かないように上で寝てもらうんだね。ぼくととうまは下ね?」
ん?
今なんと?
「ゴメン優、今とても不穏な事を言われた気がするのだが?」
「ぼくととうまは下ね?」
聞き間違いじゃなかった。
「あー、ね。冗談キツイよね。あはは」
どかっ、と、鳩尾に肘鉄が入りました。
「・・・な・・・ぜ・・・?」
「ほんとうにとうまはヘタレっぴだよね!」
「い、いや・・・健全な交際デスヨネ・・・?」
さすが英才教育児。攻撃ポイントが的確です。苦しくて身体も折れ曲がります。
トントンと扉がノックされました。
「あ、はーい!」
優が平然と駆けて行きます。
勝手知ったる
お腹を押さえてのろのろと階段を降りると、
『優、本当にここに住むのか?』
『うん。だって、相手が見つかったら女の子に戻っていいんでしょ?』
『相手による。相応しいかどうかは私が決める』
・・・ん?
・・・・・・なあに? 不穏なおっさんの声が聞こえる・・・?
え・・・?
勲章やら階級章の盛られた青い制服の紳士が後ろ手に手を組んで入ってくるなり俺を睨みつけてきました・・・。
「貴様が轟沢斗真か」
「はっ? ハイッ!?」
超声が裏返る俺氏。
つま先から頭のてっぺんまで睨まれて、紳士が言いました。
「そうか。
「い、イエッ、まだっ? 慣熟訓練中ですのでッ!?」
「どのくらいで乗りこなせそうかね」
「ソッそれは・・・」
ビビりまくってると、紳士の背後で優が指を三つ立ててドヤ顔で押してくる。
え、何の三? 三日? 三ヶ月!?
「さ・・・」いやいや待て待て冷静に考えろ「三ヶ月、と、言いたい所ですが・・・ええ・・・なるべく早く乗りこなせるように善処しま・・・」
「そうか、三ヶ月か。ならば三週間で物にして見せろ」
「ひえ!?」
「それだけの力量が無ければ、娘はやれん」
はああ!?
ちょっ!
「学徒兵の分際で、結婚を前提にお付き合いなどと。寝言を言うくらいなのだからな。やって見せろよ?轟沢斗真」
えーーーーー!!
けっ、けっこんーーーーー!?
優がちょっと申し訳なさそうに両手を合わせてテヘペロってしてる。
そうだった・・・。デレた後の優は超絶前のめりに行動派になるんだった・・・。
とある意味で俺氏詰みました!!
詰みました?
ぶーしっと。新型の一人前どころかエースパイロット目指すとか無理ゲーなんですが。優とは付き合っていたいけど・・・。
サーセン、かなり無理ゲーっす・・・。
お父様、絶対逃げんじゃねえぞと超睨んで来ておられました・・・。
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