第42話

 ジャミングが必要な状況だったのも驚きだが、益々ビルギの立場は悪い状況になったのは言うまでもない。

 レイラ先生に報告せざるをえず、結果、ビルギ・ジャーダの事はスパイと疑って監視するよう言い含められた俺だったが、彼女のいうジャミング装置が本当に役に立つのか、逆に敵を飛び込む信号にならないのか問われ、授業の終了した今現在ビルギ・ジャーダを連れて校長室を訪れている。

 校長のアンナ先生にレイラ先生、それに情報局とやらの大尉を名乗る軍人を前にビルギが説明をしている所だった。


「こんなゲーム機を改造した程度で、本当にジャミングを?」


 俺の元ゲーム機BSPを両手で持ってデスクに座るアンナ先生がゲーム機をひっくり返したりしながら確認している。

 ビルギは残念そうに言った。


「どうやら妾、追い出された上に監視までされていたようなのナ。もちろんジャミングすれば妾が気付いたと知らせるような物。ひょっとすれば攻撃目標の信号にされるかもしれないのナ」


「まぁ、時間の問題って言えばそうなんだろうが」


 レイラ先生は一定の評価をしつつビルギを疑う目は緩めない。


「貴様を敵以外の何と認識すればいいのだろうなあ?」


「最もなのナ。何処へなりとも監禁すればいいのナ。妾、これ以上とうまに迷惑はかけられないのナ」


「時に」


 これまで静観していた大尉さんが口を開く。


「このゲーム機のジャミングで、どこまでの効果があるのですか? 実際になんらかの電波は出ているようですが、この機械で出せる出力は非常に限定的だ」


 もう俺、完全に突っ立ってるだけの空気です。

 ビルギの監視員という立場が無くてもここにいていい人間じないと思うんだが、何故俺はここにいるのだろう。

 ビルギがチラッと俺を見て微笑んだ気がした。

 彼女の説明が続く。


「それは妾の周囲をジャミングするのに作っただけなのナ。周囲20メートルくらいなのナ。本当は格納庫全てをジャミングしたいけど、流石にそんな機械まで作れるほどの技術は妾には無いのナ」


「なるほど。では別の質問だが、その小型偵察ロボットというのはどの程度飛んでいるか分かりますか?」


「今は多くないのナ。妾を監視するためだけだったみたいだからナ。でも妾の居場所が格納庫と知れたら、増えるはずなのナ。そうなる前に、あそこは隠した方がいいのナ」


「それについては、アンナ校長先生」


「何でしょう、大尉さん」


「彼、監視役の轟沢くんの住む寮は格納庫から移動させるべきだと考えますが」


「現状ではすぐに用意できるものでもありませんし、ビルギ・ジャーダさんを敷地の外に出すわけにもいきませんので格納庫から離れた教員駐車場にキャンピングカーを用意しました。当面はそこで生活してもらう形になります」


「了解しました。学校周辺にも監視の兵を配置しますので、くれぐれも問題の無きよう」


「承知していますわ。轟沢くん」


「あ、はい」


「鍵は後で渡すから、先に格納庫に行って荷物を整理しておきなさいな。ビルギさんとはもう少しお話ししてから駐車場に行かせます」


 なんとも、今度は四畳半どころか車中泊ですか・・・。

 軍属の学生にプライバシーはないのでせう?





 夕方。

 陽も落ちてくる頃合い。

 とうまが戻ってくるのを教室で待ってたけど、全然帰ってこない。

 そんなに怒られてるのかな・・・。

 あんまり遅くなっても家に心配かけちゃうから、そろそろ帰ろうかな。

 ため息を吐いて席を立つ。

 鞄を手に特別クラスの教室を出ると、昼間のとうまが悪態ついてた男子が渡り廊下の屋根の鉄骨柱に寄りかかってこっちを見てた。

 なんか嫌な雰囲気。

 無視して行こうにも、下駄箱に行くにはそこを通るしかなくて仕方なく男子の方に歩いて行く。

 なるべく遠く離れて行こ。関わりたくないし。


「よっ」


 うわ、声かけてきたよコイツ。

 しかもぼくの道塞ぐように身を乗り出してくるとか、最悪なんだけど。


「どいて、邪魔だよ」


「そうツンケンすんなって! お前さ、俺の事わかるだろ!?」


「わかんない。なに?」


「俺さ! ザーシュゲインに乗って戦ったんだぜ!」


 知ってるよ、そのせいでとうまが大怪我負ったんだからな。ぼくは許さないぞ。


「俺ってさ、優秀なわけ。特別クラスん中じゃあお前が一番マシに見えたからさ、誘いに来てやったんだよ!」


「はぁ、迷惑・・・。ぼくはパートナー決まってるから。じゃあね」


 うざい。なんかすごく嫌なやつ。

 避けて行こうとすると、しつこく前に出て道を塞いできた。なんなのコイツ!


「そーやってっ、ツンケンすんなって!」


「きゃああ!?」


 ぎゃーなにこいつ!!

 いきなりぼくの胸に掴みかかってきたんだけど!?


「やっぱりなー」


「や、やっぱりって何さ!」


「お前、女、だろ?」


 はあ!?

 まさか、そういう目当てで!?


「お、男だよ! お前は変態さんか!?」


「手を握れば肌の感触でわかるんだよなあ。俺、そういうの敏感だから」


 く、こいつ!

 両手首を掴まれちゃった!?

 力つよ・・・引き離せない!


「ほらやっぱり女ー。な、どうして男の格好してんだよ。お前フツーに可愛いのに。勿体ねえだろう?」


「関係ないだろ離せよ!?」


「怒った顔もカワイー!」


 身の危険を感じる!

 やだ、コイツ! 気持ち悪い!?

 もがいても力じゃ勝てそうもない、けど・・・。

 右脚をコイツの股に差し込んで、思い切り膝を叩き込んでやった。


「ぐわっ!? て、てめえ・・・」


 くの字に倒れかかった所に顔面に前蹴りを叩き込む。


「ぐわ!?」


 大転倒した。

 そのままぼくは全力で逃げる。

 後ろを見ると、思い切り股間を蹴り飛ばしてやったのに追いかけてきてる!

 どんだけ執念深いんだよ!?


「ま、待てって! 後悔するぞ!?」


「冗談じゃないよ! 追っかけてくんな!」


 ぼくの女の子の本能が語ってる。

 アイツはダメなやつだ。

 追いつかれたら襲われる!

 懸命に走って下駄箱に通りかかるけど、通り過ぎてその先に校長室があるのを思い出して走る。

 とうまが帰ってきてないって事は、まだ校長室にいるはずだから!


「おい、この! 待てって言ってるだろうが!?」


 嫌だ、追いつかれる!

 なんなのコイツ!?


『失礼しましたー』


 校長室だ!

 とうまの声が聞こえる!?

 やった、まだいてくれた!!

 のんびりと扉を開けて出てきたとうまの胸に飛び込んだ。





「それでは、また後でなのナ!」


「まぁまぁそれはいいけど、お前のせいで俺はプライバシーがないって事は反省してほしい」


「こんな可愛い異星人と暮らせるのだから感謝してほしいのナ」


「はいはい・・・」


 全く。まあキャンピングカー生活って一度してみたかったからいいけど。

 悪びれもないビルギに手を振って校長室を後にしようと扉を開けた。


「それでは、失礼しましたー」


「ん、後で鍵を持っていくから、キャンピングカーの所に荷物を持ってきておけよ」


 レイラ先生に念を押されて校長室を出ると、徐に右からタックルをくらって転びそうになった。


「うお!?」

「とうま! 良かった!!」


 え、優?


「どした、こんな時間まで・・・」


 と、視線を優の奥に向けると、屑主人公が息を切らして壁に左手をついていた。

 なんだ、この状況。嫌な感じがする。


「チッ・・・。よう、おとこんな。今日は終いにしといてやる」


「ふざけんな! 絶対許さないからな!!」


 ああ。

 そうか。

 コイツ・・・。

 察して俺は、屑主人公にツカツカと歩み寄って、


「あ? なんだよテメーは?」


 思い切り左頬にグーパンを叩き込んだ。


「ぐわ! てめえ!!」


 何キレてんだコイツ。キレてんのは俺なんだよな。


「おい屑野郎」


「テメー、俺はザーシュゲインのパイロットなんだぜ!?」


「知るか屑。二度と優に近付くんじゃねえ、ぶちのめすぞ」


「はっ、ザコメカ風情が、!」


 喧嘩最高潮の所で、ビルギが突然間に割って入ってきた。


「ほむほむ、なるほどナ? お前がザーシュゲインが一度載せた奴なのナ」


「あ!? なんだよ異星人! 文句あんのか?」


「大ありなのナ。ザーシュゲインはお前の事なんか認めて無いナ。そしてあの娘に手を出そうとしたのナ?」


 屑主人公、恭太郎がビルギの胸元を掴もうとしてきたから咄嗟に抱き抱えて後ろに庇う。

 代わりに俺の胸倉を掴んできて、俺も掴み返そうとしたら、ビルギがひょいと前に出て脇腹のカマキリみたいな手で恭太郎の右腕をざっくりと挟み込んだ。


「痛え!! なんだなんか刺さったぞ!!」


「喚くな小童? ちょっとナノマシンを注入してやっただけナ?」


「ナノマシンだと!?」


 え、なにそれ怖い。

 そのサブアーム的な手って生物的に見えて機械で出来てるの?

 ビルギは小さくため息を吐いて言った。


「お前みたいな自己中に地球の未来は託せないのナ。お前の搭乗資格を奪ってやったのナ」


「な、に?」


「そもそもアレらは妾が地球人に自己防衛出来る力を与えるために子供たちの目を盗んで送った物なのナ。地球を守る気概のない奴に乗せてやるつもりはないのナ」


 なんか、おかしな事口走り出したぞ・・・?

 え、ザーシュゲインって、敵から漏れた情報で作られたの?

 そして、同じように俺の腕をざっくりと挟みおった。


「いってえ!? なに!? なにすんの!?」


「んー? とうまに適性が出るようナノマシンを注入したのナ!」


「迷惑! なんで!?」


「とうまが適任だからナ!」


 とにこやかに笑って優の腕までざくり。


「きゃあ痛い!? なんで!?」


「お前も適性が高いからなのナー! いやあ二人も適性が高いの見つかってよかったナ!!」


「よくありません!!」


 アンナ先生が激おこで廊下に出てきて言った。


「ビルギ・ジャーダ! 適性者はもっと慎重に選ぶ計画ではありませんでしたか!?」


「だってザーシュゲインが緊急措置的に勝手に選んだパイロットがいい気になってるのが許せなかったのナ。それにこの二人は最初から名簿にあったのナ?」


「ですが、まだ訓練を始めたばかりで・・・!」


「もー選んでしまったのナー」


 あっけらかんと言う自称女王様のビルギ。

 あれ?

 これ、え?

 俺がザーシュゲインに乗らないといけなくなったっぽい??

 屑主人公の恭太郎を見ると、激昂して襲い掛かってくると思いきや白目を剥いて失神していた。

 ビルギが奴を蹴飛ばした。


「エロガキだっただけで何も成長しなかったのナ。そういう力は確かに求めたナけど、コイツは残念ながらただのエロいだけの屑だったのナ。必要なのは愛なのナ!」


 おっと・・・まさか、ビルギの亡命って初めから決まってた?

 その上で学校に潜り込むのに俺を隠れ蓑にしたってこと?

 なんか、色々とわからなくなってきちゃいましたが・・・。

 とりあえず俺、特戦機スーパーロボットには・・・ザーシュゲインには乗りたくないんですけど・・・。




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