第41話
格納庫西面二階、宿泊施設。中程の四畳半の畳部屋。
「ふーんふーん、ふーんふふーん、ふんふん・・・」
異星人のビルギ・ジャーダは仰向けに猫の如く寝転がって両脇腹に生える小さなカマキリのような手をわしゃわしゃと退屈そうに動かしていた。
「ふーんふーん、ふーんふーん、ふふんふ・・・」
しばらくカマキリのような手を動かしながら寝転がったまま周囲を見回し、布団の上に無造作に置かれた携帯ゲーム機をぼうっと見つめて、ふと何かを思い出したように起き上がると携帯ゲーム機を両手でそっと持ち上げて部屋の片隅に無造作に置かれた黒い装甲、胸に装備する外骨格を開くと中にゲーム機を入れて何やらゴソゴソと作業を始める。
「ふんーふんー、ふんーふふーん」
とても上機嫌に作業を続けていった。
訓練を終えて
柿崎が右手で髪を掻きむしる。
「マジで、何つーか、二五式ん時は射撃訓練もやってたのに四一式は移動だけとか普通に退屈なんだけど」
「トーマに言った通りだ。不服かカキザキ」
銀髪美女が筋肉質な柿崎を睨みつけると、その肉食獣じみた眼力に柿崎も後退る。
「い、いや、そういうんじゃないんスけど・・・」
「ヨイチは最新型だ。慣熟訓練も兼ねているのだから、不平不満があろうともこなせ」
「だけど・・・」
珍しく普段は訓練では大人しい優も少し暗い声でレイラ先生に抗議する。
「ぼくたちは戦えるようにならないと、意味がないと思うんです」
俺が怪我した時のことをまだ引きずってるのか。
そんな風に重く考えないで欲しいんだけど。
俺の方を不安げに見つめてくる優に、レイラ先生は当たり前のように言った。
「繰り返して訓練を積む事で、オクスタンを操縦するのが当たり前の動作になる。当たり前に出来て初めて次の段階に入っていけるんだ。ササナ」
「は、はい」
「お前にもトーマにも、あの時は重荷を背負わせてしまった。私も反省している。特にお前は、実戦に向けての下地が足りていないのに立たせてしまったと後悔もしている。だからこそ生き残るための訓練にしているんだ。急いては事をし損じるという。出来ることを確実にこなしていけば、自然と身につくようになるものだ。今は私のいう通りにしろ」
「でも、また、明日敵が来たら・・・」
「その時は、やはり出てもらうことになるだろう。だからと言って、順番を飛ばせば成長出来るものでもない。今は私の指示する通りにやれ」
一歩一歩確実に。
優は一分一秒でも早く戦えるようになりたいみたいだけど、レイラ先生の言う通り、まずは当たり前に操縦できるようになる事が必要なんだろうな。
それから俺たちは、四一式のコクピット周りの清掃と点検、シャットダウンを行って解散となった。
柿崎と本庄はさっさと特別クラスに戻り、大凪さんはレイラ先生と個別に教練の延長をすると地下格納庫に残り、俺はというと教練中は寮に残してきたビルギが勝手に出歩いてないか見るために部屋へと戻ることにした。
優も俺の部屋が見たいとついて来ている。
「でも格納庫で寝泊まりするって、大変だね」
「まぁでも、ギリギリまで寝てても学校に遅刻する事は無いから、便利っちゃあ便利だよ?」
「いつレイラ先生に呼び出されても大丈夫だね」
「ヤメテ洒落にならない」
「あはは」
鉄の階段を登り、パイプ手摺から格納庫内を見渡せる通路を進んで部屋に。
ポケットから鍵を取り出して開けると、中ではビルギが俺の携帯ゲーム機を両手で握りしめて胡座をかいていた。
「自由だな女王様は」
「おー、帰ってきたのナ!」
「人のゲーム機で遊んでるし」
「ゲーム機? この中途半端な大きさの機械のことか?」
ため息を吐いて上がると、優も靴を脱いで上がってくる。
「お邪魔しまーす。狭い部屋だねえ」
「そりゃあただ寝泊まりするだけの部屋だからねえ。で、女王様は俺のゲーム機で何を遊んでるのかな」
ビルギ・ジャーダ様はキョトンと俺を見上げて言った。
「害虫駆除しておるだけなのナ? 妾、こう見えて仕事熱心なのナ」
は?
害虫駆除?
ゲーム機で?
「ちなみに、どんな害虫を駆除していらっしゃるので?」
「妾の周辺を探り出した馬鹿者のな、小型偵察ロボットをジャミングして動作不具合を起こした奴をコレで、」ハエ叩きを自慢げに持って「叩き潰しておったのナ!」
「え、偵察ロボット?」
「蚊くらいの大きさのナ。まあジャミングすれば自然と機能停止するから。小型だしバッテリーは少ないしナ、あまり心配はないけどナ。でもここが格納庫と知られたら色々と厄介なので調べられる前に駆除してたのナ!」
あらなんて友好的。
むしろそんな偵察ロボットいるなんて、コイツここに泊めてちゃダメじゃね?
というか・・・。
「ねえ、ビルギ・ジャーダ」
「なんナ? とうま?」
「俺のゲーム機は? テレビ代わりのゲーム機は?」
「ふむ? コレか? ジャミング装置を作るのに使ってしまったのナ!!」
唯一の家電が!
がっくりと四肢を突き項垂れる俺。
優がそんな俺の肩を優しく抱いてくれました。
「テレビの映るプレイヤー持ってきてあげるから。元気だして?」
「うう、優はやさしいなあ・・・好きですグスン」
「安っぽくなるから軽々しく使わないでね」
悲しそうな顔で怒られました。
あんまり好きですって使わないように気をつけよう。
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