第40話
大グラウンドでは相変わらず二五式の走行訓練が行われていた。
俺たち特別クラスの生徒は格納庫内でオクスタン四式壱型、通称、
起動シークエンス、各部の可動域、運動性能、応急的修理に関する出来ること出来ないこと。
ホワイトボードの前でパイプ椅子に座って一通りの説明を受けたら、地下二階に降りて実機のコクピットに乗り込みシミュレーター訓練。
ちなみに、地下一階が二五式の格納庫に使われており、地下二階が四一式とレイラ先生のローグキャットの格納庫。地下三階は今は予備パーツなどの格納庫になっており、
二五式の時はシミュレーター専用のコクピットポッドがあったが、新型の四一式では実機のコクピットに入って実際の操縦桿を握ってシミュレーターを使う。
量産体制が整ったばかりで、稼働しているのは先行生産型しかないから、専用のシミュレーターポッドが無いからだ。
俺と柿崎は右手に重マシンガン、左手にスクトゥムを装備したアサルト仕様。
優と本庄は両手持ちの無反動キャノンと両肩には六連装ミサイルポッド。
全機の共通兵装として、バックパックの左右に戦車砲にも似た固定兵装、レーザーキャノンを搭載している。
俺と柿崎は肩を並べて先行して市街地を進み、優は中程を、本庄は最後尾を警戒しつつ前進していく。
シミュレーション内容は、大気圏を抜けて降下してくる敵戦闘ポッドの撃墜だ。
松本城が見える広い田園の中を敵降下予測ポイントまで移動する。
アイングライツ戦技学校を出て最初のナビゲーションポイントを通過した。
「こちら一号機。第一目標地点通過。第二目標地点まで移動開始」
『指揮戦闘車、了解。引き続き警戒せよ』
大凪さんの声だけがヘルメットのスピーカーを通じて聞こえる。
隊の唯一の整備専用担当員である彼女は作戦指揮を代行するオペレーターでもあるのだ。
今頃は格納庫内でオクスタン与一を固定するハンガーを眺めながら仮に指揮戦闘車両を想定して設置した机の上にノートパソコンにディスプレイを増設して各機のコンディションや作戦域のマップ、そしてレーダーを見ていることだろう。
俺たちはオペレーターの大凪さんからの情報とメインカメラに映る映像を頼りに作戦に当たる。
皆、真剣そのもので、無駄口を叩く奴はいない。
俺は先日の実戦を思い出して背中に嫌な汗が滲むのを感じてひとつ深呼吸した。
すぐに大凪さんが声をかけてくれる。
『心拍数が上がっているわ。轟沢くん、落ち着いて周りに気を配ってね』
「了解。すみません」
『謝る必要もないわ。集中して』
冷静な大凪さんの声を聞いていると、不思議と落ち着く。これも彼女の才能の一つなんだろうな。
市街地の中、避難地区に設定されている公園が次のナビゲーションポイントだ。
ポイント到達と同時に、松本城上空に向かって火の玉が高空から飛来してくるのが見えた。
大凪さんから通信が入る。
『各機へ、敵降下部隊飛来を確認。至急松本城周辺市街へ急行せよ』
「轟沢了解」
『笹凪、了解』
『柿崎、了解』
『本庄、了解』
シミュレーターで俺たちは四一式を走らせる。
四一式の速度は最高時速80キロ。二五式に比べて35キロも足が速くなっているが、それでも現在地から松本城までとなると直線距離で十分はかかる。
(非効率な訓練だな・・・。集中力が・・・)
持たない。
即戦場で、即戦闘、その方が技術的な訓練になるんじゃないだろうか。
レイラ先生から通信が入った。
『非効率な訓練だと思った奴がいるな』
エスパーかよ。
『トーマ・ドロウギサワー』
エスパーかよ!?
てか、
「先生、俺の名前・・・」
『発音しにくいからお前はドロウギサワーだ』
「とうまでいいです・・・」
『まぁいいだろう。トーマ。貴様は非効率と思っただろうが、実戦でも時間が鍵になる。じっと待つのも、根気よく追跡するのも、等しく時間との戦いだ。弾を当てるのももちろん必須だが、同時に長い戦闘時間に耐える胆力も鍛えなくてはならん。高等部の三年間は操縦技術と胆力を鍛える期間だ。戦う技術は高等部卒業後の士官学部で学べばいい。そこまで即戦力になれなどと、我々も期待していない』
「り、了解です・・・」
『トーマ。私は前に出るだけの兵士を育てるつもりはない。生き残れる兵士に育って欲しいのだ』
「・・・わかります。すみません」
『はやる気持ちは分かるが、お前に戦わせてしまった私を許して欲しい』
「いえ、そのような事は。大変貴重な体験でした」
『生き残れたからこそ言える言葉だな。無茶をする必要はない。堅実なパイロットを目指せ』
「了解しました」
参った。超心配してくれてる。
確かにあの初陣はやばかったもんな。今思えば、よく俺はあの時戦えたよな。生き残れたのもそうだけど、あの時一人も死者が出なかったのは奇跡だ。
生き残れるパイロットか。
はやる気持ちを抑えて任務に、訓練に集中できるようにならないと。それはわかるけど。やっぱ厳しいよ。
はぁ、それにしても。ここが異世界と呼べるのかパラレルワールドなのか知らないけど、転移?転生? 転移になるのかな。したんだから何かしらチート能力があってもいいんじゃ無いかと思うんだが、俺には何も無いんだよなあ・・・。
『ドロウギサワーくん、思考レベルが低下してるわよ。集中して』
大凪さんに怒られた。
「りょうか・・・いや、大凪さん、俺、轟沢です」
『あらごめんなさい。絶妙に呼びやすかったのでつい』
笑ってるよ・・・。
マジで人の名前間違えないで欲しいな。
結局、今回の訓練ではナビゲーションポイント間の移動と敵降下ポイントまでの移動の繰り返しで、砲戦シミュレーションは行われなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます