第37話
一人で考えてても、結局堂々巡りで何も妙案は浮かばない。
畳に直接寝転んでぼうっとしていると、一台の車が敷地内に入ってくる音を聞いて急いで身を起こして窓を見ると、真っ白なセダンが教員駐車場に入っていくのが見えた。
白いセダンって、校長先生かな。アンナ先生に相談すべきかなやっぱり。
アイングライツ戦技学校は言うまでもなく陽本国の施設だ。ガメリカ軍のレイラ先生より、陽本人のアンナ先生に相談するのが筋ってものだろう。
相談するのにどっちを選んでも、自称女王様の安全を守るとは言えない。
かと言って、ずっと隠れてもらってるわけにもいかないし、まずはアンナ先生を、校長先生を頼ってみよう。
思い立ったら即行動が、俺の活動原理である。そうと決まれば、校長室に行ってみるだけだった。
アイングライツ戦技学校校長、星野アンナは白いセダンを降りるとこめかみを悩ましげに押さえる。
「全く・・・。今度は敵戦闘ポッドを搭載した小型艇が陽本区域に侵入するとは・・・。そもそも陽本宇宙軍のパトロール艦隊は何をしているのかしらね」
一緒に出かけていたレイラが苦笑しながら助手席から降りて空を仰ぐ。
「ガメリカ宇宙軍も同様だ。やれやれ、敵の目標にアイングライツ戦技学校が入っていると知って、どの軍も本気で敵の降下部隊を撃墜する気が失せたようだ」
「ガメリカまで、何故、同盟国である陽本に降下する敵を止めないの?」
「言わなくてもわかるだろ。外宇宙からもたらされたオーバーテクノロジーで建造されたスーパーロボットが、どういうわけか陽本人にしか適性がない。ガメリカでは既存の技術で同様の兵器の、タイタンの建造を急いでいるが、性能が同等でも操縦系統が複雑化して陽本のスーパーロボットに追いつくのにOSの開発にあと十年はかかるといわれているんだ」
「だったら、陽本人の、特戦機に適性のある者が攫われるのを待って横取りしようというの? 研究のためだけに?」
「私だって耳を疑った。ガメリカ海軍からやって来たメッセンジャーが私にいうには、その時は見て見ぬふりをしろというんだ。そもそも私が派遣されているのも陽本人の秘密を調べるためだしな」
「私だってそうよ。特戦機に乗れる適性にはパターンがあるはずだから、生徒を実験台にして調べろって」
「フン。お互い救い難いな」
「お茶でもしていく? 今日は日曜日だし、校長室には上質な赤いお茶があるの」
「まぁ、今日くらいはいいか」
アンナとレイラは、疲れた笑みを浮かべて笑い合うと、並んで本校舎に向かって歩いていった。
はい、ということで校長室です。
どういうわけかレイラ先生もいます。
二人で応接テーブルに向かい合って、ソファに深々と座ってお茶なんかしています。
ほんのりアルコールの匂いがするのは気のせいでしょう。
で、件の異星人の自称女王様のことを相談して開口一番叱られております・・・。
「何故通報しなかったの轟沢くん。この案件は学生の領分を遥かに逸脱しているわ」
激おこ美女怖え・・・。
レイラ先生を見ると、くぃっと俯いて銀髪の影から獲物を見るような鋭い視線を俺に向けています。
激おこ美女怖え・・・・・・。
そして何の権限もなく二人を頼ろうとしたことに何も言い返せず、えーと、と無様な返事しかできない俺情けねー。
レイラ先生が深くため息を吐いて立ち上がった。
「まぁ、もういいだろうアンナ。いや、校長先生?」
「よくありません。可愛い教え子が危ない橋を渡ろうとしていたなんて、情けないやら悲しいやら」
「渡りたいというんだ。渡らせてやろう」
おや・・・。
なんだか不穏な方向に話が流れ出したぞ・・・。
レイラ先生、カエルを見る蛇みたいなもう目がまっきんきんに輝いてるような睨みを効かせて俺の前に歩み寄って来て見下ろしてくれてます。
怖い怖い怖い・・・。
「なあ? トーマくん」
「あ、はい・・・」
「カワイイお嬢さんなのかなその自称女王様とやらは・・・」
怖すぎてふいっと目を逸らす。
「いえ、別に・・・。異星人ですから? 人間離れしてるのでそういうのとはちょっと・・・」
アンナ先生、ソファに座って脚を組んだまま膝の上で両手の指を組んで微笑んでいます。
「そう。カワイラシイのね・・・。そう・・・」
やだこの激おこ美女たちなんか企んでるみたいなんですけど・・・。
レイラ先生がアンナ先生に振り返って、二人何を思ったか頷き合って、レイラ先生はドアの前に陣取るように立って片脚安めの姿勢でスマホを取り出してどこかに電話し出した。
アンナ先生はすっと立ち上がるとデスクに向かい、デスクの四角くカットされた所に触れると何やらモニターがパカッと出現して手元の赤いボタンを押している。
まるでスパイ映画の世界だな!
わはは、カッコいい!!
なんて言っている場合じゃない!?
「レイラです。司令官閣下」
『珍しいな。キミがプライベートな端末で専用回線に連絡を寄越すとは』
「はい、閣下。面白いサンプルを見つけましたので報告を」
『ほう? いい陽本人の素材でも手に入ったかね?』
「いえ、手に入れたわけではありませんが、とても珍しいサンプルです。監視対象として手元に置いておきたく存じます」
『許そう。良いデータが送られる事を期待している。資料は送ってくれるのだろうね』
「近日中に」
『そうか。やはりキミに任せておけば間違いはないな。表立った成果は必要ない。我々が必要としているのは情報だからな』
「はい、閣下。ご期待に添えるよう頑張ります」
『うむ』
不穏すぎる会話内容!!
チラッとアンナ先生を見る。
「急なお呼び立てをしてしまい、申し訳ありません
『構わんよ。他ならぬキミの報告を聞けるのは楽しみな事だからね』
「政治に絡む案件かも知れませんが」
『ふむ。・・・聞こう』
「本校の生徒が、とても珍しいサンプルに遭遇しております」
『現在進行形か。それで?』
「外部に漏らすのは危ういと判断し、本校で軟禁しておきたいのですが」
手元の、キーボード?を叩いている。
ぽんとエンターキーを押すと、画面の向こうの渋い声がたのしげに聞こえた。
『ほう、コレは面白い。事実なのかね』
「これから調べますので、まだなんとも」
『ガメリカはなんと言っている』
アンナ先生がレイラ先生を見ると、レイラ先生は不敵な笑みを浮かべてコクリ。
アンナ先生が満面の笑みを浮かべた。
「静観しております。情報の共有が出来れば、文句はないと」
『ならばいつものように処理したまえ。よい追加報告を待っている』
「了解しました」
『それで? 監視はどうするつもりかね』
「良い学生がいますので。問題はありません」
『わかった。では、早い報告を期待しているよ』
通信が終わって、デスクのモニターが閉じられて、アンナ先生が満面の笑みを俺に向け、背後からレイラ先生に両肩を掴まれて、そして命じられてしまった。
「「自称女王様はアナタ(貴様)に預けます(る)。自室に軟禁し、監視する事。もちろん教室でも、ね(な)?」」
「え・・・それは、どういう意味でせう?」
「懐かれたんだったら仕方が無いよなあ?」
「いや別に懐かれたわけじゃあ、」
「逃げも通報もせずに薄暗い個室に連れ込んだのだものねえ?」
「や、その辺は、あの誤解があるようですが・・・」
「安心しろ。責任は取らせてやる」
「男の子だものねえ。逃げてはダメよねえ」
「ナ、ナニから・・・?」
いかんビビりすぎて声が裏返った。
アンナ先生が鬼のようなハイライトを失った目で笑みをお浮かべになられます。
「でもこれからは、ちゃんと避妊するのよ?」
「何にもしてないんですけれども!?」
自称女王様。
俺の手を離れるどころか俺の手の中に転がり込んできました・・・。
ど、どうすんだ。人情なんか出さずに通報しとけば良かった。
優・・・怒るよな・・・。
人生いきなり詰んだみたいです・・・。
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