第36話
自称女王様のビルギ・ジャーダ様。
どうやら亡命?が目的らしく、それとなく高位な人物を探していたという。
今は黒い胸部外骨格、服? を着てマットの上に正座して俺を見つめている。
俺はというと、プレハブ小屋の床に体育座りして大変困っていた。
「つまり、戦争を終わらせるために来られたと?」
「そうなのナ! 妾、母星が危機的環境で出生率も低下した事から
まるで校長先生のように長い説明が始まる。
ここに至るまで、幾つかの移民先を見つけて惑星に順応するように自分達の身体を調整してきたのナ。
始めは良かったのだけれど、そのうち妾以外の女王種が台頭し始めて、妾の他に移民要塞を建造し出して内戦になってしまったのナ。
妾、頑張って増やした子らに逆らわれて、同族のホーネリアン同士で戦いたくなくて再び旅に出たのナ。
そうして長い旅の末、この地球を見つけたのナ!
地球にはなんと、妾達ホーネリアンとは異なる進化を遂げた、お前たち人間が存在したのナ。
出生率もかなり落ちた妾たちだが、異種族交配すれば出生率が回復するはずなのナ?
それで移民要塞ごと地球に降りようとしたら、お前たち地球人の戦艦がたくさん出てきて、妾の進路を邪魔するから、妾の子たちがぶっ放してしまったのナ・・・。
戦争をしに来たわけじゃないのに、戦争になってしまって。
妾、戦うのやめて話し合いたいから偉い奴連れてこいって言ったら、必ずやあの星を女王様のために陥落せしめてみせますと、どんどん戦争は激化していってしまったのナ。
「偉い奴連れて来いって、全然話し合う気無かったじゃないですか」
「ち、違うのナ!! そんなつもりじゃなかったのナ!?」
「でも、偉い人連れて来いって、拉致して来いとかぶっ潰して連行して来いとかにしか聞こえないよ?」
「そんな!?」
え、わかっていらっしゃらなかった・・・?
流石、女王様。我儘っぷりがカオスです。
しかし、なんだってその、異星人のボス的存在の女王様が一人で地球で迷子みたいになってるんだろう?
「ところで、なんでビルギ様は単身地球で絶賛迷子中なんですか?」
「迷子ちがうのナ! 妾、ちょっと降りる場所わからなかっただけなのナ!?」
「それを迷子というのですが・・・。そもそも、ビルギ様が女王様だというなら、なんで護衛の一人いないの?」
「そ、それは・・・!」
真っ当な事言ってやったら困り出した。
とりあえず、レイラ先生が戻ってきたら突き出そう。
とか考えてると、自称女王様のビルギ・ジャーダ様は体育座りして俯いて語り出した。
「最初は護衛の、頼りになる
「それって・・・?」
「妾、子供たちがそんなにも戦いを楽しんでたなんて知らなかったのナ。ホーネリアンは、滅ぶべき運命にさしかかっていたのナきっと。月の裏側に艦を隠してひっそりと隠れてたら、そしたら、地球に小規模な攻撃隊を密かに送り込んでるのに気付いて、小型艇で地球に降りようと思いついたのナ」
「子供たちを見捨てるために?」
「事情を話して、停戦出来ないか相談するためなのナ!」
それは難しい・・・。
話を聞いている限り、地球連合軍は戦線を冥王星から木星まで防衛ラインを押されていて、
ゲームの終盤、三年目には
「女王様がここにいるなら、子供は新たに産まれないんでは? それなら、自然と戦力は低下していくんじゃ?」
「妾、実は・・・、子宮をコピーされてしまったのナ」
は?
クローン技術ってことか? 卵子じゃなくて子宮をコピー?
「コピーした子宮で産まれる卵子を使えば、子供はいくらでも量産出来るのナ。でもそんな試験管ベビーばかりじゃあどんどん精神は劣化して、野蛮な事しか考えられなくなっていくのナ。妾のような女王はほとんど産まれなくて、もう移民要塞は戦闘狂ばかりになってしまったのナ」
「え、じゃあ、ビルギ様の他にも女王はいるって事じゃあ?」
「普通の女はいるけれどナ。普通の女は卵は産めるけど子供はなかなか産めないのナ。卵から孵る子は、ホーネリアンには育たず半分ほどの身体にしか成長できん。半端なホーネリアンはロウネリアンと呼ばれておってナ。戦闘ポッドのコアとして使い潰されておるのナ。妾、もう戦争なんかやめたいのナ。でももう誰も聞いてくれなくなってしまったのナ」
話を聞く限り、クーデターのような事が起きてこのビルギ様は追い出されたって感じか。
亡命させてあげたいけど、それで戦争が終わることはないだろうなあ。
「なあ雄よ!」
「雄って言い方なんかやだなあ」
「偉い人に合わせてくれまいかナ!?」
「でも、会ったところで戦争終わらせらんないでしょう?」
「うむ・・・もう無理なのナ。だから、移民要塞のデータを渡すのナ。あとは妾、ひっそりと地球の片隅で生涯を終えられればそれでいいのナ。偉い人には会えまいかナ!?」
「無理だと思うし、あなたは最悪処刑されますよ」
「ななナ!?」
「地球人も色々失ってるっぽいし。戦争って一度始まってしまうとそう簡単には終わらないですよ」
「どうにかならないのかナ!?」
「ビルギ様のデータで移民要塞?落とせても、最後には責任を負う人が必要って、ビルギ様、処刑されるかも知れませんね」
「やっぱりそうなのナ」
ビルギ・ジャーダは体育座りした膝に顔を埋めて両脇の中程に生えた小さなカマキリの手をわしゃわしゃと不安げに動かしている。
ちょっと可哀想だけど。というか、全部の話しを鵜呑みにも出来ないし。
「相談はしてみるけど、期待はしないでね。あと、多分俺じゃああなたを守れないから、それも許してほしい」
「やっぱりダメなのナ。ビルギ・ジャーダはどこかその辺の木の上で隠れてるから、変化があったら教えてほしいのナ」
そう言って、異星人の自称女王様はプレハブを後にして学校敷地内の木のどれかに登って隠れることにしたようだ。
俺はひとまず、自室に戻って考えて見ることにした。
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