第33話

 ぷかぷか流される。

 黄色い浮き輪につかまって、優と向かい合って。

 くるくるくるくる流される。


「あはは、なんだかこそばゆいね」


 優が笑った。

 笑顔も眩しいなあ。


「なんかありがとね!」


「なに? 改まって」


「こうやって、クラスメイトと外で遊んだことってほとんどなくて。ぼくってさ、男の子で通してたでしょ」


 そういえば、お家の事情で男児を通してたんだった。

 戸籍上も学校の届け関係も性別はちゃんと女の子なのだが、イメージとして男子を演じている。

 しかし、そんな事でパイロットに選ばれやすくなるとか。あるんだろうか。


「楽しんでもらえて何よりだよっ。俺も優とデートが出来て楽しい」


「へへへー」


 満面の笑みを浮かべて照れる優。

 よそ様の家の事情には口出しできないけれど、個人的には優が男子でいてくれた方がいいとも思ってしまう。

 こんなに可愛らしい優が学校に行ったら、絶対モテるもんな。

 だが!

 真実を知るのが俺だけとなればライバルは皆無!

 ふ、この笑顔を独り占め。


「もー、とうまー? また変な笑い方してるー」


「え、そう?」


「そう〜」


 ニッコリしている優。

 ああ、このまま永遠に流されていたい。

 と、流れるプールで流されていると、フルーツ柄の浮き輪で流されている別のカップルにぶつかってしまった。


「あ、すみませんっ」


「おっと、こちらこそ・・・?」


 ん?

 おあ?

 なんですと!?


「がっ、かっ、柿崎! と!大凪さん・・・?」


「げっ、轟沢!」

「あらぁ、あらあら・・・」


 なんで鉢合わせるかな・・・。

 ていうか、二人付き合ってたのか!?


「ちっ、よりにもよって轟沢と鉢合わせるとはな」


「それはこっちのセリフだ柿崎。ていうか、お前、大凪さんと付き合ってたのね」


「べ、べつにそんなんじゃねえよ!」


「照れるな照れるな健全男子」


 しかし、年上好みだったとはな。

 大凪さん、戦技学校に入ったのは中途で俺より先輩だけど、学年で言えば高校二年なんだよな。学年的には柿崎と同級生・・・。

 特別クラスって色々と特別すぎるだろ。

 キュッと左腕が軽くつねられた。


「ぷー」


 優が膨れてる。

 おっといかん。つい大凪さんの豊かな膨らみに目が行ってしまっていた。

 ごめんっ、と優に顔で謝ると、柿崎が俺の頭を小突きやがる。


「いてえなおい」


「いてえなじゃねえよ、人の彼女の胸見てんじゃねえよ!」


「見てねえし・・・」


 見てたけど。見てたなんて言ったら優を怒らせてしまいそうだし。


「そういうお前の彼女はお胸がちっちゃいな!」


 ばしゃあ!


「ぐわあ!?」


 思い切り奴の顔面に水をぶっかけてやった。

 俺の優を悪く言いやがって許さん。


 ばしゃあ!


 俺の顔面にも思いっきり水がぶっかけられる。


「もう!とうま!? とうまもぼくがちっちゃいって思ってたの!?」


「いてて、鼻に入った! そういう事を女の子が口にするんじゃありません!」


「どうなのさ!?」


「優は可愛いから良いんだよ?」


「ちっちゃいっておもってるじゃん!!」


 バシャバシャと水をぶっかけられる。

 まってまって呼吸が出来ない。


「あらあら・・・仲良しさんなのね」


 大凪さんはそんな俺と優を見て微笑ましそうにしていた。


「ざまあみろ轟沢!いで!!」


 俺をバカにした柿崎はというと、肌が赤くなるほど本気で腕をつねられていた。


「宗佑? 轟沢くんをいじめちゃだめよ?」


「いてて! 痛えよ乙葉! いじめてるわけじゃねえって!」


「ごめんね轟沢くん。でも良かった、ちゃんと彼女が出来て。お姉ちゃんちょっと心配してたから」


 いや、あなたは俺のお姉ちゃんではないが・・・。

 ああ、そういう風に見えてたのね俺のこと。


「そ、そりゃあいますよ! 可愛いでしょわはは!」


「可愛いわねえ、ちょっと妬いちゃう!」


「ちょ、乙葉?」


 慌てる柿崎ざまあ。


「本当に良かったわ。男性趣味じゃないかって・・・心配してたから」


 大凪さんの笑みがなんか、悪意は無さそうだがよくわからないが怖かった。

 そうか、学校じゃあ優と仲良くしてるから、優(也)とそういう関係だと思ってたのか。

 そういう関係なんだけど。


「それじゃあ、私たちは行くわね。宗佑、行くわよ」


「お、おう・・・。じゃあな轟沢!と彼女!」


「お、おう」

「ま、またね・・・」


 すいーっと離れていく大凪さんと柿崎。

 優がキョトンとして離れていくカップルを見つめて言った。


「大凪さんってちょっと怖いよね」


「同感だ」


 俺も激しく同意する。


「なんか見透かされてるみたいで、ちょっと怖いよな」


「だよねだよね。は! もしかして、ぼくのこと気付いたかな!?」


「どうだろう・・・。そんな事は無いんじゃないかな?」


 言いながら俺は、無意識に優の胸元を見てしまい、再びばしゃあと水をぶっかけられてしまった。


「ひでぶ!?」


「とうまは自重するといいよ!!」


 ちょうど昇降手摺に近付いた所で、優は浮き輪を離れて上がってしまう。


「わ、ちょ、優まって!?」


 いかんちょっと怒ってるかも。

 俺も泳いで縁に捕まると、浮き輪を上げて両手を突っ張り急いで上がって優の後を追うのだった。




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