第32話

 太陽系外縁部では、地球連合艦隊と異星人の要塞艦隊が長く睨み合いを続けていた。

 散発的に異星人の艦艇が差し向けられるが、地球連合艦隊の的確な動きの前にことごとくが撃沈。特に特戦機スーパーロボット十二機の活躍が凄まじく、連合艦隊の穴を見つけては小規模な異星人艦隊が突撃してくるもののそこに現れては単騎で大損害を与えて撤退せしめる無双ぶり。

 異星人は特戦機スーパーロボットが増派されれば戦況が傾き、移動要塞も太陽系からの撤退を余儀なくされる事を警戒していた。

 そして、同時にそれに対抗しうる戦闘ロボットの開発に着手するも、通常兵器では地球軍より高性能な機体が存在するにも関わらずどういうわけか特戦機に勝る機体が生み出せず、数の暴力が役に立たないほどの存在感にある種の課程を立てるに至る。

 特戦機のパイロット。

 そもそも特戦機スーパーロボットがたったの十二機しかいない事。それらの動きに癖があることから特別な存在か特別な訓練を受けた超兵士ではないかという仮説を立て、その存在サンプル及び開発中の新型特戦機の奪取、あるいは撃破を目的とした小規模な揚陸艦隊を送り出す。

 揚陸艦隊は大規模な攻勢を囮に、戦線から遠く離れた警戒網の穴をすり抜けるように侵攻し、そのほぼ全てが撃破される中、一つの小型空母を含む揚陸艦隊が警戒網をすり抜けて地球圏に到達しようとしていた。

 最前線と違い、地球圏にはパトロール艦隊しか存在せず、ステルス性能に優れた揚陸艦隊は発見が難しく、地球衛星軌道に容易に取り憑かれてしまう。

 そして衛星軌道防衛網の中で、またも中欧宇宙軍艦隊のエリアが狙われて、案の定揚陸艦隊の目標が陽本と知れると最低限の抵抗しか行わず、艦隊地球降下こそ防ぐものの揚陸艇一隻の降下を許してしまうのだった。

 特戦機スーパーロボットの操縦適正が陽本人にしかない事への妬みのような物。


 陽本人を直接捕らえて研究するのは国際的な非難は免れないが、異星人に攫われたとなればそれらを撃破して掠めとればいい。対面的には奮闘虚しくパイロットは戦死したと発表すれば、秘密裏に研究対象を手に入れることが出来る。

 同じ事を考えている軍は少なからず存在し、中欧宇宙軍の動きは表立って避難されることは無く、そうして新たな脅威がアイングライツ戦技学校に迫っていた。





 プールだ。

 今、俺はどういうわけか市民プールに来ている。

 梅雨も終わり、四一式よいちの戦闘訓練にも慣れてきた日曜日。俺は優の強い希望でプールデートにやってきたのだ。

 見目麗しい水着姿の女性たちに目移りしそうになるのをぐっと堪えて、優が更衣室から出てくるのをパラソルの下のランチテーブルのプラスチック椅子に腰掛け、今か今かと待っている。


「ごめーん、お待たせ〜!」


 煌びやかな陽光に照らされて、真っ白な花の飾りが付いたピンク色のチューブトップにピンク色のひらひらスカートビキニを身に纏った優が大きなバスタオルを肩に羽織って胸元を気持ち隠して駆けてきた。

 普段はボブカットの美少年然とした髪型をポニーテールに纏めて左右に元気に揺れている。


 天使だ・・・。


 泣きそうになって腕で目元を拭っていると、やって来た優にちょっと引かれた。


「ちょ、とうま・・・。そんなに待たせちゃった?」


「ううん、違うんだ。違うんだよ優」


「ええー? なにー? ちょっと怖いよとうまぁ」


「違うよ? 優があんまり可愛くて素敵だからつい目から汗がこぼれそうになってしまったんだ」


「そういう気持ち悪い事言ってたら帰るからね?」


 おっと・・・割と本気で引かれてしまった。

 すぐに謝る。


「ごめんごめん。でも素敵だって思ったのは本当だよ?」


「もー、とうまのばかっ」


 そう言って優も隣に腰掛けて、前のめりに身体を傾けて顔を覗き込んで来た。


「ね、流れるプール行こうよ! 浮き輪もってさっ」


「まずは浮き輪を買う所から?」


「いいじゃん、あそこの無料で貸し出してる、ビート板みたいな浮き輪で」


 にこやかにはしゃいでいるが、あの何の飾り気もないただの発泡スチロールの塊はデートで使うには地味すぎやしないかね・・・。

 まぁ、優が楽しければいいか。


「じゃあ、あの街灯の下に投げ輪みたいに重ねられたのからひとつ借りて行こうか」


「投げ輪って・・・まあ、そう見えなくもないねっ。いこいこ!」


 アダルティなカップルや駆け回る子供たちの間を縫うように二人手を繋いで流れるプールを目指して歩いていく。

 思えばゲームやアニメに明け暮れていた前の世界では、ついぞ縁のなかったシチュエーション。

 やばい興奮しちゃいそう。俺の手を引いてはしゃぐ優が可愛すぎるタヒねる。

 爆発しそうなこの熱情。くっ、隠し通さねばティーンの優には嫌われかねん!

 早くプールで流されて情熱を冷やさなくては!

 幸せそうにプールサイドにやって来て、思いの外早い流れを二人で見下ろす。

 優の顔を見るとちょっと緊張して見えた。


「せーので飛び込む?」


「ひゃっ!? そ、そうね・・・そうよね」


 何がそうなんだろう。

 普段ボーイッシュなが唐突に女の子な発言するとギャップ萌えが凄くてくるしい。

 さっさと入ろう。多分怖がってるから、ハシゴでゆっくり水に浸かっていった方がいいよな。


「じゃあほら、こっち!」


「わっちょっ、まって?」


 優の手を引くと、若干腰を引きながらてててっとついてくる。

 優にハシゴの手摺を掴ませて、俺は先に流れるプールに身体を浸けていった。

 視界に優の御御足が入ってきて釘付けになる。


「ん? どうしたの?」


 うん、とても素敵な眺ー


「どこ見てるの!?」


「へぶう!?」


 顔面に、左頬に素敵な裸足キックが炸裂した。

 どぼーんと、背中からプールに落ちて俺は、すいーっと流されていくのだった。


「あああ! とうまあー!?」


 慌てながらも手摺を掴みっぱなしの優。

 可愛いから許すよ。そして凝視しちゃってごめんなさい。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る