第31話
午後の授業。
戦技科の生徒たちは二五式を大グラウンドに並べて、順番に走行訓練を行なっていた。
グラウンドを重厚な足音を響かせて二機ずつ並走して周回している。
そんな中、俺と優は納品されたばかりの新型、四式一型機甲兵与一、通称、
「運動性能は現行の主力機、三三式煌角より二割程度向上している。君たちが使用していた訓練機二五式と比べれば、およそ四割の向上だ。その分反応がシビアになるから、初めは戸惑うかもしれんが、慣れてもらわねば困る」
ゲーム内ではやられロボだったオクスタンの高性能っぷりを聞かされて、それらがザコ扱いになる敵との戦闘を想像すると胃が痛くなりそうだ。
「エンジン出力も当然だが、ようやく実用化に漕ぎ着けたレーザー砲を主兵装として搭載し、敵戦闘ポッドも球体の多腕、通称タコ相手なら一撃で装甲を撃ち抜ける」
光線で一撃って、どのくらいの出力だろうか。
「まぁレーザー砲は一秒以上照射しないと満足な効果が発揮されないから、いうほど優れた兵器ではない。基本兵装は従来通りの実弾兵器になるから、射撃訓練は怠るな?」
「「了解しました」」
俺と優は同時に返事をして、内部構造や関節部など整備に関する説明も受けるが、とてもではないが一度に覚えきれない。
前半の三十分みっちりと説明を受け、後半の二十分でコクピットに乗り込みコンソール関連の説明を受けて、授業は終了した。
「ふわあ〜、もう頭の中がぱんぱんっ」
ぱんぱんって表現が可愛い流石優。
などと感心している場合ではなく、俺たち特別クラスの生徒はオクスタンパイロットっとしてだけではなく、単身で応急処置までの整備もこなせる能力を要求されている。
クラス内で役割を分担してクラス内小隊を編成して訓練できる戦技科の生徒に比べると、高いスペックを要求され、それが功を制してか病院退院後は俺は格納庫の中の寄宿舎に寝泊まりするようになっていた。
格納庫の向かって左側、オクスタン教官のレイラ先生他、陽本軍の予備役軍人が教員として詰めているプレハブの教員棟からよく見える、壁に面した二階の四畳半の畳部屋は全部で十部屋あり、その中程に俺は家具は布団一式だけという生活環境にいるのだが、幼馴染の桃乃木杏香のアパートで暮らすより断然健全な生活と言えるだろう。
ちなみに、入学したその月から給与が発生しているので最低限の生活を送っていれば問題はない。
食事に関しては、レイラ先生他オクスタン教官の先生方は本校舎裏の、特別クラスとは別に敷地内の角に一軒家が設けられておりそこを寮として生活しており、その支援のために学食の職員が朝晩食事を作ってくれているので、そこに便乗させてもらうことでひとまずは解決している。
さて、話は戻って、優が格納庫内の隅に設置された今は俺と悠のためだけの机に突っ伏してグダっているのを微笑ましく俺が見つめていると、優が顔だけを起こして俺に不満を漏らした。
「とうまは余裕そうだね」
「そんなこたぁないぞ?」
「どうせぼくは物覚えが悪いですよーだ。ふん」
「俺もなんも頭に入ってないけど、優の可愛い姿を見て癒されています」
「ぜんぜん嬉しくない〜。うーん。新型って覚えるの多くて頭くちゃくちゃになっちゃうよお」
まぁ、確かに。
だけど、夏までに操縦技術は体に叩き込まないと、次の攻撃を凌げない。
こればっかりは日々取り組んで慣れていくしかないんだよなあ。
始業のチャイムが鳴る。
普通科の生徒は学校内清掃の時間だが、戦技科の生徒や俺たち特別クラスの生徒はここからが本番だった。
『轟沢候補生! 笹凪候補生! 次はシミュレーター訓練だ、地下格納庫へ移動しろ!』
遠くから教官の声がかけられて、俺たちは席を立つと与一の丸秘と書かれた分厚い資料を教科書がわりに左手に持ち、格納庫の奥にあるエレベーターに向かって歩き出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます