第30話

 昼飯ってさ。

 学生生活のオアシスですよね。

 全校集会で晒し者にされた俺たちだが、堂々と学食でメシを喰う。

 カッコいいだろう・・・?

 まぁ、ぶっちゃけなんらかのトラブルはあるだろうなとは覚悟していたけど。優(女の子)と一緒にランチなんて素敵なシチュエーションじゃあないか?

 若干二名、荷物がついて来ているが、人数が多い方がトラブルは軽減できるし男子制服を着て胸の膨らみを隠している笹凪優(也)が女の子だと言うことを知っているのは俺だけだ。

 つまりその他二名は居ないも同然。

 じっくり、まったりと学食ランチデートを楽しませていただくとしよう。

 どうせ何処かでその他ヒロインとちちくりあっているであろう主人公の橋詰恭太郎よ。隠れヒロインだけは貴様にやらん!

 何故なら俺氏、メインヒロインよりモブっ子や隠れヒロイン推しですから!

 学食の暖簾をくぐって、広々とした事務的なデパートの最上階でも今日日見ない無機質な食堂に入ると、呑気に昼食に興じていた全生徒が一斉にこっちを見て、喧騒がピタリと止んだ。


「・・・ねぇ、とうま・・・。これぇ、さすがにぃ・・・」

「そうだね。僕も笹凪くんと同意見だよ」

「奇遇だな。俺もだぜ。なあ? 轟沢」


 優も本庄も柿崎でさえドン引きしている。

 クソ教頭の企てた、笹凪優(也)ヒーロ(イン)ー化計画のお陰で全校生徒の注目を集めてしまった俺たちだが、まさかここまでとは思わなかった。

 生徒会長にもクレーム入れた方がいいな。

 明らかにガラの悪そうな男子生徒が十人ほど席を立ってメンチを切りながら向かってくる。戦技科の生徒は戦闘体術を叩き込まれる事から私闘を厳しく禁じられており、服装や立ち居振る舞いも普通科の生徒と比べると締め付けがきつかった。ゆえに不良然とした生徒は非常に少なく、徒党を組むのは十中八九普通科の生徒だ。

 そして、戦技科に劣等感を抱く彼らにとって、全校集会で晒し者とはいえ目立った俺や優は不満をぶつけるべき敵とされてもおかしくはない。

 俺は警戒して仁王立ちして両手の拳を握りしめ、本庄も両手は下ろしたままだが半身構えて臨戦体制を取り、柿崎が一番歳下の優の前に立ちはだかるように相手に凄んで見せた。


「オイ。俺たちに何の用だ」


 くっ、柿崎テメー!

 優の前だからってカッコつけようと俺がそのセリフ言いたかったのにしかも似合ってるじゃねえかふざけんなテメー!

 悔しいことにカッコイイ。

 ギロジロリッと再度メンチ切った男子十人ほどは、ズカズカズカッと俺を半包囲するように前に出てくる。

 コイツら。かかって来たら一番最初に前に出たやつのぶん殴って鼻をへし折ってやろうと息巻いた所に、


 一斉に俺に脚を肩幅に開いて90度の深々としたお辞儀をして声高らかに怒鳴り散らして来た。


「「「「「シャース!! 轟さん!! シャース!!」」」」」


 え?

 は?

 何事?

 優を守る柿崎の顔を振り返る。

 柿崎が首を小刻みに左右に振ってキョトンとしていた。

 恐る恐る不良の方を顧みる。

 先頭の男が一歩前に出て言った。


「轟さん! 俺! カンドーしました!!」


「轟沢な・・・。え、何を?」


「轟さん!、」

「轟沢な?」

「女子を守るために盾になるなんて! 漢っす!!」


「いや、ちょっと落ち着こうね声でけえよ」


「女子を守るために! 死ぬかも知れねえのに前に出るって!!」

「さすがっす!!」


「いや・・・ちょっと・・・」


 正直、本当に死んでもおかしくない状況だった。

 そんな事褒め称えられても虚しくなるだけだからヤメテ、抉らないで・・・。


「轟さん!!」

「轟沢な・・・」(涙目)

「アニキって呼ばせてください!!」

「アニキ!!」

「番長!!」

「おい、ちょっとヤメロ・・・」

「「轟番長!!」」

「「「轟番長!!!」」」

「「俺たち! 一生ついて行きます!!」」

「「「番長!」」

「「「「「番長!!!!」」」」」


 俺、超涙目。

 なんだこれ、コレなら普通に喧嘩になった方がなんぼマシな事か。


「に、逃げよう!」


 優が咄嗟に前に出て俺の左手を掴んだ。

 柿崎と本庄がカバーに入って食堂に背を向ける。

 出入り口には十数名の女子の壁が出来ていた。


「「「「なにごとお!?」」」」


 驚愕の叫び声を上げる俺たちの前で、女子の壁がぐわっと迫ってきてあっという間に優を掻っ攫ってしまった。


「ひゃああ!? と、とうまー!?」


「「キャー、ゆうくん!!」」

「一緒にご飯食べましょう!?」

「「「ゆうくん私とパートナーくんで!!」」」

「私よ!?」

「何よ私よ!?」

「ちょっと邪魔しないで!!」


「ちょ、ちょ、ぼ、ぼく友達とランチする約束がっ」


「「「「「キャー、ランチだってカワイー!!」」」」

「「「「「あっちに行きましょう!」」」」」

「「「「「私も私も!」」」」」

「「「キャーゆーくーーーーーん!!」」」


「キャーとうまたすけてえ!?」


 どどどっと、目にも止まらぬ速さで連れ去られて行く優。


「アニキ! テーブル開けてあります!!」

「ご友人の方も!! どうぞご一緒に!!」


 や、ちょっと・・・まって・・・。

 問答無用で俺たちもむさ苦しい、いつの間にか三十人に膨れ上がった不良に囲まれて中央のテーブルに連行されてしまった。

 食事を取っていた戦技科の生徒たちに不良たちがメンチを切る。


「おい、ドケゴラ! アニキ達が飯食うんじゃ! どかんかワレ!!」


 流石の人数に、眉根を寄せながらも席を譲る戦技科の男子生徒たち。

 今、俺たちは戦技科の生徒全てを敵に回しちゃいないだろうか・・・。


「アニキ方! 席が空きました! どうぞ!!」


 くっ・・・、どこの勘違い不良マンガの世界だここは・・・!

 優との幸せ学食ランチデートが・・・。

 ランチデートが・・・!!


 こうして蜃気楼の彼方へと消えていった。


 ふ・・・幻想とはかくも儚いものよ・・・。


 キラリと俺の目尻に涙が輝いた。




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