7話「元ニートのおっさん、人の優しさに触れる」

 無事に今後の目標を定めた俺は完全に日が暮れる前に小さな村に寄ることができると、そこでは村の特産物をカークランドという街に運ぶ為に荷馬車の準備をしていたおっちゃんに運良く出会う事ができて、そのまま街まで乗せてくれと頼み込むと向こうはちょうど護衛役が欲しかったとのことで利害が一致。


 そして三週間ほど荷馬車に揺られて時折襲い来る野盗や魔物を追い払うと、瞬く間にカークランドと呼ばれるそこそこ規模の大きい街へと到着する事ができた。

 時刻は既に昼頃だろう。俺の腹が空いているから間違いない。


「ふぅ……これで護衛の仕事も終わりかぁ。ありがとうなおっちゃん!」


 関所みたいな所を通過して街の中へと入ると早々に荷台から降り、初めて足を踏み入れた街に妙な興奮を湧かせつつ、ここまで運んでくれたおっちゃんに対して感謝の言葉を送った。


「なんのなんの! こっちは無事に荷物を届けられたんだ。寧ろ感謝の言葉を言うのは俺の方だぜ! ありがとうな二刀流使いの兄ちゃん!」


 おっちゃんは感謝を満面の笑みを見せながら受け止めて返してくると、そのまま村の特産物を売りに行くらしく手綱を掴むと荷馬車はゆっくりと前へと進みだした。


「おう! 帰りの道も気を付けてなぁー!」


 荷馬車が目の前から消えていく光景を眺めながら別れを惜しむように手を振ると、おっちゃんは僅かに首を動かして振り返ると短く手を振り返りてくれる。


 今までニート生活をしていた俺からすれば人との関わりなんてクソ以下の行為だと考えていたが、この異世界に来て一年も経過すると人と関わること自体そこまで嫌なことではないと思える。

 ただし勇者一行、テメーはダメだ。


「さてっと……取り敢えず仲間を集めるにはギルドに行くべきなんだよな?」


 気を取り直して仲間を集める為にギルドと呼ばれる場所、所謂冒険者達が仕事を受けて報酬を貰う場所を探しているのだが……どうにもこの近くには無さそうな雰囲気である。


 周囲を見渡しても煉瓦造りの高級そうな建物が幾つも建てられていて、街を歩く通行人の女性は皆ドレス衣装のような物を着ているのだ。

 そこでもしかしたら、ここは富裕層の人間が暮らす場所なのではと一つの疑問が頭を過る。


「も、もしかして俺は来るべき所を間違えたか? いやでも……どこの街にもギルドは有るはずだ……。今まで旅をして寄った街に必ずあったし……ここにもきっとある筈だ!」


 高貴な衣服に身を包んだ女性や男性が目の前を通り過ぎていく光景を目で追いながら一部の望みを賭けて心を奮い立たせると、取り敢えず何かしらの情報が欲しいとして街の人に話し掛けることにした。


「あ、あのー! すみません!」

「あら? どうしました?」


 唐突に話し掛けられても女性は動じることなく反応すると視線を逸らすことな首を傾げている。


「実はギルドを探していまして……どこにあるか知りませんか?」

「ギルド……ああ、冒険者ギルドのことですね? でしたら向こうの橋を渡った先にありますよ」


 ギルドの場所を何処か尋ねると彼女は少し考え込むような仕草を見せたあと人差し指を左側へと向けてギルドの位置を教えてくれた。


「本当ですか!? 教えて頂きありがとうございますッ!」


 女性が指し示した場所へと顔を向けると、そこには確かに橋があるのが確認できる。

 その橋も当然煉瓦で作られていて日本では余り見られない建造物であろう。


 ……いや、もしかしたら日本でもあるかもしれない。

 単純に俺が長年ニート生活をしていたせいで知らないだけかも。

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