4話「ニートのおっさん、女神にお願いされる」
だがその話を聞いて全てを鵜呑みにすることはできないが、少なくとも死んでいるという部分に関しては納得していた。
何故なら血まみれの服を着ている状態でしかも、あんな凄惨な光景が永遠と頭の中で何度も再生されるのだから。寧ろ死んでいると言われた方がまだ信憑性が高くて安心できる。
「……あっ、すみません。魔法を掛けていたら喋れませんよね。いま解除します」
モニカは態とらしく左手を口元に添えてから言うと、再び人差し指で一の字を書くように今度は逆の手順でそれを行う。
すると俺の口は瞬時に豆腐のように柔らかく軽くなり自由に開閉ができるよになった。
「はぁ……やっと自由に喋られるようになった。ったく……今のは何なんだよ本当に」
自身の口周りをぺたぺたを指先で触れて俺は口が自らの意思で開くことに安心感を覚える。
「ふふっ、私女神なので何でもできちゃうのです。それよりも魔王討伐の手助けをお願いできないでしょうか?」
なんとも小悪魔のように片目を閉じながら笑みを見せてくるモニカだが、どうしてだろう不思議と声だけは良いから何を言おうとも可愛く見える。
そして両手を組みながら少し潤んだ瞳を向けてくるあたり、とてもあざといと言えるだろう。
「あー……それを仮に俺が受けたとして何かメリットはあるのか?」
自慢ではないが俺はこういうあざとい系の女性に弱い傾向にある。
故にこうして見え見えの誘い方に応じてしまうことも多々あるのだ。
経験談としては学生時代に同級生の女子から同じように頼まれて変な壺を買った経験がある。
値段は二万ぐらいだと記憶しているが……恐らくあの時の俺は正気ではなかったのだろう。
もし仮にあの頃の二万が手元に戻ることがあれば、今なら迷わず競馬に注ぎ込んで増やす方法を取るだろうしな。
「はい! 勿論ありますよ! それはもう沢山ですっ! まずですね、無事に目的を達成された暁には何でも願いを一つだけ叶えてあげちゃいますっ!」
……とそんな事を考えているとモニカは張り付いたような満面の笑みで利点について教えてくれた。恐らくあれが俗に言う営業スマイルというものだろうが、それはそれとして彼女が口にした言葉が本当ならば話に乗るのも中々に有りかも知れないと思える。
――いや、寧ろ何でも願いが叶うなら迷わず受けるべきではないだろうか。
「ほう、何でも願いが叶うと……。よろしい、ならば受けよう。で? 俺の戦場はどこだ?」
顎に手を当てながら深く考えるような仕草をしてみるが特に深いことは何も考えていない。
強いて言うならば既に願い事の方を思案しているぐらいだ。
「えっ!? い、いいんですか? そんな即決しちゃって……自分で言っておいてアレですけども……」
モニカは俺の有無を言わせない判断に度肝を抜かれているのか目を丸くさせて反応しているが、そんな呆気に取られた彼女の姿もまた可愛いと言えるだろう。
やはり声が全てである。萌え声万歳!
「構わん。どうせ一度死んだ身。ならば面白そうな話に乗っかってみるのも一興だと思ってな」
そう返事をすると自身の中で一番格好良いと思われる仕草を思い出して、両腕を組みながら微笑み掛けるように笑み作りながら返す。
「そ、そうですか……。ではさっそく詳しい内容をお話致しますね! 取り敢えず貴方には特典と呼ばれるギフトを一つ選んで貰います! それは最強の武器であったり、魔法の才能であったりと様々です!」
モニカは俺の渾身の笑みを軽く受け流したのか、はたまた見てない振りをしているのか、少しだけ冷たい視線を向けたあと詳しい内容とやらの説明を始めた。
「ギフト……ふむ、なるほど理解した」
しかし彼女のそんな生ゴミを見るような瞳を見て少しだけ中学の頃の暗い記憶が蘇ると、心の奥で何かに亀裂が入るような不透明な音が響き聞こえた気がした。
「そして次に一番重要なことなのですが、貴方はくれぐれも目立たないように勇者一行の手助けをして下さい。あくまでも魔王は勇者に倒されないといけないので! これは神々の法則で決まり事なのです」
またもや得意気な顔を見せてモニカは話を続けていくと、どうやら魔王を倒す勇者のサポートをしなければならないらしい。その神々の法則とやらがいまいち理解不能だが、詰まるところ俺自身は選ばれし勇者的な存在ではないのだろう。
「目立たないようにか……まあそれなら得意中の得意だな。任せておけ」
だがそれは寧ろ好都合なことであり別に嫌でもなんでもない。何故なら俺は長年ニートをしていたおかげで、表舞台から姿を消す技術には長けている自身があるからだ。
ゆえに日陰者になれと言うのであれば一向に構わないである。
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