5話「ニートのおっさん、転生する」
「おお! それは良かったです! じゃあ早速この紙の中から特典を選んで下さいね! ……あ、あと特典を選んでからの変更は不可能ですので予めご了承ください」
両手を合わせて感謝の言葉を口にしたあとモニカは次に指を鳴らして、何もない空中から大量の絵が書かれた紙の束を降らせて特典とやらを選ぶように指示してきた。
「お、おう。わかった。じゃあざっと一通り見てみるか」
まるで手品でも見ているような錯覚に陥るが今は言われた通りに特典を選ぶべく、床に散らばる紙を一枚一枚手にして念入りに中身を見つつ他の物とも比べて慎重に選ぶ事にする。
……それから特典を選ぶべく悩みに悩むと時間は瞬く間に進んでいき、
「ねーねー、決まりましたぁ? もう三十分も経過しちゃいましたけど」
モニカは既に飽きているのか椅子に座りながら両足をぷらぷらと揺らしていた。
「ま、待ってくれ! どれも良いものばかりで悩むぜ……これは!」
顔を前に向けて彼女にもう暫く待つように声を掛けると俺の両手には二つの紙が握られていて、その二つの特典を端から端まで見比べて最後の決断を下そうとしていたのだが……
「――なっ!? こ、これは二刀流最強セット一式だと!」
両手で握り締めていた二つの特典を一旦床に置こうとして視線を下に向けると、そこには男子諸君が一度は夢見る憧れの特典内容が書かれている紙が堂々と鎮座していたのだ。
「ああ、それなら私もオススメしますよー」
気怠そうにモニカが反応を示してくる。
「よし、特典はこれにしよう! それであとは何かやるべきことはあるのか?」
ついに長きに終える戦いに終焉を迎える事が出来ると気分は向上していく一方であり、理由は説明しなくとも分かることだろう。なんせ異世界で俺が二刀流を匠に扱い無双していく訳だからだ。
……まあ目立たないようにという前提条件はあるが。
それでも今までの腐敗し尽くした人生を爽快にやり直せるのではないかという、そういう僅かばかりの期待を心の中で膨らませていくと珍しく何かに対して前向きになることが出来た。
「いえ、それで終わりです。あとは後ろの転移の魔法陣に立って待機していて下さい。異世界に飛ばす云々は私の仕事ですので」
しかしそんな俺の明るい心とは対照的にモニカは冷たい声色で事務的な言葉を吐いてくる。
もう少しこう……なんか気を遣う様な言葉があるのではないかと思うが、
「お、おう! 了解したぜ!」
今の俺は流されるままに親指をぐっと上げて言われた通りに従うのみである。
「うーん……にしてもそのやせ細った肉体ではどうも異世界では生きていけない雰囲気がしますねぇ」
床に書かれた陣の上へと立つとモニカは円を描くように右手を動かしつつ左手を自身の顎に当てながら、いきなり異世界では生きていけないと言う死亡フラグのような言葉を浴びせてきた。
その余りにも突然な死の宣告に呆気に取られて言葉が出ない。
「……あっ、そうだ。ちょうど昨日向こうの世界で死んだ若い男性の遺体がありますのでサービスとして、そちらの遺体に貴方の魂を移しときますね」
彼女は何を思案したのか死を冒涜するネクロマンサーのような言葉を言い始めると、本当にモニカは女神なのかどうか考えてしまい一気に怪しさが満点となる。
「えーっと、つまりはどういう意味?」
「まっ、あとの事は向こうの世界で自分で確認してください。きっと後悔はしませんから。……そう、今までの生活に比べたらねっ!」
モニカは俺の不安をそよ風の如く受け流すと左手でも円を描き始めて、やがて陣が緑色の鈍い光を放ち始めると確かに見た目だけは異世界に転生できそうな雰囲気がある。
「は、はぁ……って! お前俺の今まのでニート生活知って――」
「ぐっどら~っく二龍隆史くん! また会う時を楽しみにしてるよ~!」
彼女は俺の声に被せるようにして別れのような言葉を口にすると、満面の笑みを浮かべて両手を左右に揺らしていたが、そこで陣が一段と眩い光を放ち始めると俺は堪らず目を閉じるのであった。
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