2-1

紫翠は目を開けた。しばらくぼんやりと天井を見ていたが、昨夜ゆうべのことを思い出して飛び起きた。


時計を見る。十時を過ぎている。完全に寝過ごした。


彼はきっと紫翠が起きるのを今か今かと待っていることだろう。


とりあえず脱ぎ落としていたストールを片し、布団を畳んだ。

それから着替えようと自分の格好を見下ろしーーうん、やっぱ無理。箪笥から替えの服一式を出し、それを抱え部屋を出た。

物音を聞きつけたのだろう、彼が部屋から出てくる。


「ええと、鬼さん、ごめん。そっちに居間があるからそこで待ってて。シャワーだけ浴びてくる!」


居間の位置を指し示し、そのまま彼の前を駆け抜けた。

後ろで呼び止める声が聞こえたが無視する。心の中だけでごめんと謝る。

そのまま洗面所に駆け込んだ。


***


目の前を駆け抜けていった、主たる女性に思わずため息が出る。


「本当に警戒心の足りない」


本人は警戒心は人よりあると言っていたが、そうは思えない。お互いに何も知らない、それも人外の異性と二人きりの状況で風呂に入りに行くなど、警戒心やら思考が足らぬ者の所業ではないのか。


彼は歩き出す。

もちろん洗面所ーーではなく、居間に向かってだ。

主たる女性に言われたからには居間で待っているべきだろう。


言われた通りの部屋に入り、そのまま窓際に寄った。

窓を開けるくらいは許されるだろう。

そう思い、彼は主たる女性が来るまで窓を開けて風を感じていた。


***

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