1-8

家に辿り着いた時には紫翠は疲労困憊ひろうこんぱいだった。

使役の術は大きな術だ。ましてや相手は鬼。相当消耗することは覚悟していたが、その上をいった。

諸々もろもろすべて終わらせておいてよかった。


正直今すぐ布団に入って寝てしまいたい。


ふるふると頭を振るが眠気は散ってはくれない。

とりあえず鍵を開けて彼を招き入れる。

本当は最低限の話はしなければならないのだろうが、眠気に勝てそうにない。


諸々明日でいいだろうか。


見知らぬ人間、それも真名を使って騙し討ちのように使役した人間だ。いい感情は持っていないだろう。

少しでも安心させるためには最低限の話はするべきなのだろう。


しかし眠い。


ちらりと無言で後をついてくる彼を見る。

警戒しているような、物問いたそうな様子で、だが無言でついてくる。


ああー、駄目だ、眠くて頭が回らない。


立ち止まり、振り向く。

ちょうど自室前だ。


「疲れた。もう無理。寝る。鬼さんはそっちの部屋を使って。布団は端に畳んであるから自分で敷いてね」

「は? ちょっと待て」

「ごめん、眠い。話は明日でいい? 諸々説明とかも明日ちゃんとするから」


とにかく眠くて頭が回らない。

それからいくつか言葉を交わし、


「おやすみ」


就寝の挨拶だけはきちんとして自室に入る。

呼び止めるような声が聞こえた気がしたが眠気には勝てなかった。

何とか口紅だけは化粧落とし用のシートで拭い、ストールだけ脱ぎ落として、あと着替えもせずに布団に入った。

なんとか掛け布団を掛けたところで力尽き、そのまま眠りに落ちた。


***

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る