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「……通り名を"織部"、真名を"ーー"、」
余裕綽々(しゃくしゃく)だった彼の目が大きく見開かれる。
抵抗しようとしたようだがもう遅い。
「その真名において我が
その言葉とともに術は収束し、彼を捕らえることに成功した。
だいぶ卑怯な手ではあったが。
だが真っ向から立ち向かえば歯が立たなかった。
真名を知っていたからこそできた無謀な賭けだった。
本来鬼を使役する場合、鬼自身が望む場合を除いては、鬼を弱らせるか、酒などで前後不覚にして臨む。それでも使役できるかは五分五分といっていい。
例外として、鬼より強い者は通常でも鬼を倒せるので、使役するのは容易であるが、そもそも鬼より強い者というのは、もはやその者自身が化け物のようなものなので、一般的な術者にはまず真似ができない。
そして、もう一つの例外が真名を使うというものだ。
真名というのは言ってみれば魂そのものなのだ。それを把握するということはその相手のすべてを掌中にすることと等しい。
卑怯だと、騙したと怒るだろうか?
憎まれる、だろうか?
怒られるならまだ耐えられるが、憎まれるのはーー嫌だ。
使役されるとは思っていなかったのだろう。
だからこそ試すのを許したということにも気づいていた。
普通真名を知られているとは思わない。
だが紫翠は通り名だけではなく彼の真名を知っていた。
気づいただろうか?
気づいてくれただろうか?
いや、やっぱり気づかれたくはない。
でも気づいたかもしれない。
ぐるぐると思考は回る。
呆然としているからか、彼からは怒りも憎しみも感じられない。
ふっと彼の瞳に力が戻る。
だがそこには変わらず怒りも憎しみもなかった。
それに密かに安堵した紫翠だったが、彼が口にした言葉に固まった。
***
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