1-2
紫翠は山の中の小さな
誰も来ない祠。ここまで来るのもひたすら道なき道を通ってきた。
紫翠はその祠に封じられているものに用があった。
ここは彼の領域だろう。少しでも力を
巾着袋につけた鈴が紫翠の動きに合わせてりんりんと涼やかな音を立てる。あまり浄化しすぎて彼に害なすと困るが、これくらいなら大丈夫だろう。
それが済むと巾着袋から小さな袋を取り出した。
その小さな袋に入っているのは、結界石と呼ばれる石だ。浄化済みの白い石で結界を張る時の補助道具だ。
その石を祠を中に含めて正六角形になるように置く。
そしてその中心に立つと、印を組み、心の中で呪文を唱え、結界を張る。
これで結界から意識を離しても大丈夫だ。
結界石を使ったのはこのためだ。術者が術を解くか破られるかしなければ結界は維持される。
「よし」
ちょうどいい具合に月の光が木の間から差し込んでいて周囲は明るい。今日は満月だ。
ライトは万が一を考えて結界の外に巾着とともに置く。
準備は
自身の周りにも結界を張りつつ祠の前に立った。
改めて祠に貼られている札を見る。
よくよく見ればあの家のものだ。
しかし、それにしてはお粗末なものである。恐らくは弟子のものなのだろう。
直系の彼女の術や符の実力はそれはもう確かなものだったから。幼い頃からの積み重ねがしっかりと身についていた。
彼女のものであればあと何十年も、いや百年単位でももつかもしれない。
今目の前にある、あと二、三十年はもちそうにない札とは雲泥の差がある。
彼女が見れば激怒しそうではある。
しかし、そんなことはどうでもいい。
この札でもあと二、三十年はもちそうであることは許せない。
躊躇(ためらい)いもなくぺりっと札を剥がした。
剥がした札は祠の横に置く。
祠の扉を開けると、中にはもう一枚札があった。
手に取る。
祠の扉に貼られていた札とは筆跡が違う。
二人での二重封印。
紫翠は眉根を寄せる。
にしても、下手くそだ。
一人でできなかったから二人での二重封印なのか、二人いたから二人での二重封印なのか。
どちらでもいい。やることは変わらない。
紫翠は意識して一度呼吸をする。
他人の術を破る時は反発を受ける。相手の力量が上の場合はこちらの身のほうが危ない。
だが紫翠は躊躇うことなく札を破り捨てた。
***
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