第2話 魔王爆誕?いやいや、殺されるくね?

「転職候補に魔王出てるじゃん?!俺もしかして殺される?お命ちょうだいされちゃう?

 それにアーティファクト魔王城…魔王城って勇者の聖剣と同じでアーティファクトだったのかよ!」


『ええ、そうですね』


「うぉ!誰?!」


 突然マリウスの後ろから声が聞こえたので、剣に手を掛け、飛び下がりながら振り返る。


 そこには、裸の碧眼碧髪の美少女が立っていた。


『初めまして、アーティファクトの意思兼核です』


 少女がお辞儀をする。


「え?えと、ボロボロだけどとりあえずこれ着てアーティファクトの意思兼核さん?」


 マリウスは、ボロボロの外套を少女に渡す。


『ご主人様ありがとうございます』


 少女は外套に身を包む。


『ご主人様』


「そ、そのご主人様って呼び方辞めてくれない?なんかむず痒くて」


『ではマリウス様、私の名前を変更致しますか?それともアーティファクトの意思兼核のままになさいますか?』


「え、えとそれは俺が決めちゃっていいの?」


 マリウスがそう聞くと、少女は頷く。


「んと、じゃあマリアなんてどう?君の眼の色と髪の色がマリア石にそっくりだから」


 マリウスはあまり迷わずにそう言った。


 マリア石とは、エルフの森でしか取れない希少な鉱石で、これを粉末にするとエリクサーの材料になるという。


『マリア…初めて名前を頂きました』


 少女いや、マリアは嬉しそうに名前を連呼する。


「え、今までの魔王は名前を付けなかったの?」


『はい、今までの魔王様は所詮道具としか思っていなかった様なので』


「えぇ、それはちょっと酷くないか?」


『えぇ、ですので勇者が攻めてきた時に魔王城全てのトラップを解除致しました』


「え、えぇ…」


 もしかして勇者達が魔王を討てたのはマリアのおかげなのでは?とマリウスが思う。

 それと同時に、絶対に怒らせない事を誓うのだった。


「ところでマリア」


『はい』


「ここから出る道知らない?出たいんだけど」


 マリウスがそう聞くと、マリアは腕を振る。

 すると天井が音を立てて割れた。


『わかりました。では出ましょうか』


 マリウス達の目の前の平らに敷かれていたレンガが形を変え、階段になる。


「おぉ、すげぇ!」


 マリウス達が階段を上ると、魔王城の門の前に出た。

 外はもう夜であった。


「はぁ、何とか無事地上に出れた」


『ところでマリウス様、この門…』


「え?」


 マリウスが門の方を見ると、門が倒れて、今にもマリウスが落ちた穴に落ちそうになっていた。


『もしかして…押して開けましたか?』


「え?そうだけど」


『…残念ながらこの門押すのではなくて引くタイプの門です。ほらここに引くための取っ手が』


 マリアが門の1部を押すと、引くための取っ手が出てくる。


「え、じゃあ俺は意味の無い頑張りをしたって事?」


『そういう事です。マリウス様が地下に落ちたのもこれが原因かと』


 マリウスはその場に倒れ込んだ。そして大きくため息をつく。


「はぁぁ、やってらんねー」


『どんまいです』


「まぁおかげでマリアに会えたからいっか。さて、腹も減ったし飯にするか」


 マリウスは腰に剣と共にぶら下げていた小さな袋から、到底その袋には入るとは思わないフライパンと肉が出てきた。


『その肉は』


 マリアが何かに気づいたのか、肉を見て驚く。


「お、気づいたか。これは古龍の肉だ」


 古龍とは、龍族の中でも特に長く生き、その力は神に達する者も居るという。


『どうしてそんな物を持っているんですか?それにマジックバックまで』


「いや不思議な縁があってさ、邪龍にった古龍を討伐させられたんだよね。マジックバックはそのついでで貰った」


 マリウスが火魔法で火を起こし、フライパンを温めながらサラッと言う。


『させられた…ですか』


「そそ、そういえば聞いてなかったんだけどマリアって飯食うよな?」


 マリウスは勇者の魔王討伐よりも凄い話をサラッと話してサラッと流した。


『はい、必ず必要という訳では無いのですか一応食べることは出来ます』


「了解っと、それじゃあ投入!」


 マリウスが古龍の肉をステーキ用に切り、熱々のフライパンに投入する。

 その瞬間、肉から大きな火が上がる。


「ひゃ〜これこれ」


『それは大丈夫なのですか?』


「大丈夫大丈夫、火の古龍だったから火が大きくなりやすいだけで、焦げたりしないから安心して食べていいぞ」


『…その言い方だとその古龍の肉を私も頂く様ですけれど』


「何言ってんだ?マリアも食うんだよ」


 マリウスがそう言うと、マリアは困惑する。


 それもそうだ。マリアは今まで道具としてしか使われてこなかったのだ。


『い、いえ、そのような貴重な物を頂くわけには─』


「バーカ、マリアと会えた、こんなめでたい日にこの肉を食わなくてどうする。

 ここで使わなきゃ使う日なんてそうそうないぞ」


『バ、バカ…初めて言われました。…それではお言葉に甘えて頂かせて貰います』


「そう来なくっちゃ。お、火が消えたな。ほれ、1枚目焼けたから先食っていいぞ」


 マリウスは肉をマジックバックから取り出した皿に盛り付けマリアに渡す。


『い、いえマリウス様より先に頂く訳には』


「だぁぁ、良いんだよ。いいか、これは命令だ。俺より先に食え」


『うっ、…わかりました』


 マリアは命令に逆らえず、受け取った肉を口にする。


「どうだ?美味いだろ」


『は、はふ、はいとても。ほれはもう』


 マリアは熱かったのか、口をはふはふさせながら答える。


「それじゃあ俺も。いただきまーす」


 マリウスが肉を頬張る。

 口の中に肉汁が溢れ、調味料無しでもとても美味しい。


「んん!やっぱ美味いな!調味料無しでこれとか最強だろ」


 ふと、マリウスがマリアの方を見ると、マリアが肉を1切れ残して眺めていた。


「ん?食わないのか?」


 マリウスがそう聞くと、マリアは慌てて


『い、いえこれで終わってしまうとなると名残惜しくて』


「なんだそんなことか、なら焼けばいいだけだ」


『そ、それはさすがに』


 マリアが遠慮しようとすると、マリウスはマジックバックから巨大な肉塊を取り出す。


「まだまだこんなにあるんだ。沢山食おうぜ」


 マリウスはそう言って再び肉を切りフライパンに投入する。


 2人は調味料を加えて味を変えたりと、楽しみながら沢山肉を食べた。


「はぁ〜、こんなに食ったのはいつぶりだろうか」


『ありがとうございました。大変美味しかったです』


「そういえば魔物が匂いに釣られて来なかったな」


『あぁ、それは勇者含む魔王討伐部隊の影響ですよ』


「え?どういうことだ?」


『ここらに生息する魔物が部隊の食料を奪おうとした時に、人間達が鬼の様な悪魔の様な顔で追いかけ回された事が魔物の中で広まりトラウマになっている様です』


「はは、分かるわ。楽しみにしていた飯が奪われた時の怒りと絶望感は半端ないからな。

 まぁ、その何とか部隊のおかげで無駄な戦闘をしなくて助かったわ」


 マリウスは何かを思い出すように目を瞑りながらそう言う。


「さて、寝るか」


『すいません、マリウス様。1度最初に私が居た所へ行っても良いでしょうか』


「ん?いいぞー気をつけてな」


『すいません。失礼します』


 そう言ってマリアは再び床を裂き、地下へと戻って行った。


「さて、寝るか」


 マリウスはそう言い、マジックバックから2人分の寝袋を出し、簡易結界を張る。


「これで魔物は大丈夫!世界よお休み!」


 マリウスは、腹が膨れていたのもあってか、あっという間に眠りに就いた。


 マリウスが寝た瞬間、3人の人の形をした何かがマリウスに近寄る。


「コイツか」


「えぇ、そうみたいね」


「ニンゲン、コロス?」


 2つの男の声と1つ女の声が入っている。


「やめろ、もしコイツが人間の間で有名だったらまた人間が冷めてくるぞ」


 1人の男が制止をかける。


「こいつを捉えて今の人間界の情報を聞きましょう?もし魔王様を倒して浮かれている様なら攻めるチャンスよ」


「あぁ、そうだな」


「オデ、ヤルキ、イッパイ」


 3人はそう言うと、音も立てずに結界を破り、マリウスを担いで何処かへ消えていった。


『マリウス様?』



 〜〜〜〜〜〜

 マリウスのピンチ?

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