第3話 軍備増強
年が明けて1938年、通常五年に一度行われる国防決議をリンドホルムは、世界大戦の可能性が高まりつつあるとして見直すことを決定した。
1936年時の国防決議によりスウェーデンが持つ戦車大隊は二つとなっていたが、今回の国防決議において、年内に新たに三個戦車大隊の配備が決定した。
そして既存の戦車大隊が装備するランツヴェルクL-60 は、マドセン20mm機関砲から37mm対戦車砲へと更新されることとなった。
欲を言えば、57mm以上の砲を載せたいのだがランツヴェルクの砲塔や車体では不可能という技術面の問題があり、関係各社に75mm対戦車砲の搭載が可能な中戦車、及び駆逐戦車の開発を急ぐよう下令するのだった。
◆❖解説❖◆
・区分 軽戦車
・製造業者 ランツヴェルク社
・派生型 L-60 L-60 Ö L-60 S トルディ
・重量 8.5 t
・全長 4.8 m (15 ft 9 in)
・全幅 2.075 m (6 ft 9.7 in)
・全高 2.05 m (6 ft 9 in)
・要員数 3
・装甲 5–15 mm
・主兵装
マドセン20mm機関砲
40mm対戦車砲へと更新予定
他、ボフォース37mm搭載車両あり。
・副兵装 7.92mmマドセン機関銃
・行動距離 270 km (170 mi)
・速度 45 km/h (28 mph)
・備考 本車よりトーションバーサスペンションか用いられる。
◆❖◇◇❖◆
加えて、航空機は英国製戦闘機であるハリケーンのライセンス権を取得し(購入してもイギリスに生産余力がなかったため)、自国製戦闘機の研究を急ぎつつも当場を凌ぐこととなった。
さらに海軍においては新たに、軽巡洋艦四隻と駆逐艦十六隻を発注するに至り、近年で類を見ない金額の軍事予算となった。
しかしながら、足音が聞こえるまでに近づいた戦争の影に怯える政治家達は、もちろん大規模な予算となった国防決議に反対する者はいなかった。
◆❖◇◇❖◆
「壮観だな」
ストックホルム郊外の演習場では、朝から砲声が鳴り響いていた。
ソーダーマンランド連隊に所属する第一戦車大隊四十両が演習を行っているのだ。
「雪煙をあげて、心強いですね」
ロングコートの襟を立てたリンドホルムとハンソンの二人は、軍関係者に囲まれながら、演習の様子を視察しに来ていたのだ。
最新鋭戦車であるランツヴェルクL-60が最高速度である時速45キロで爆走し、停車。
演習場の内の的を目掛けて発砲する。
豆が弾けるような機関砲の音が周囲に響く。
「随分と可愛い音だが、これがまもなく猛々しい音へと変わる。その日が楽しみだ」
軍部の人間は、リンドホルムの言葉に、
「予算の配慮、痛み入ります」
そう言って頭を下げた。
「いや、君たち軍隊にはドイツを相手取るくらいに力をつけて貰いたい。これからますます予算を増やしていくつもりだ」
本気かどうかも分からないドイツを相手取るという言葉に将校は目を丸くした。
「ドイツを……ですか?」
「あくまでもそれくらいの意志で、という意味だ。このスカンディナヴィア民族を守るためには、戦争も辞さないがこちらから戦争をふっかけるような真似はしないさ」
そう言ってリンドホルムは、雪でかき消されたストックホルム群島の向こうにあるであろうドイツの方角を見るのだった。
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