第2話 スカンディナヴィア軍事同盟構想
結論からいえば二カ国との交渉が順調に進んでいたとは言い難かった。
「ある程度予想していたことではあったが……」
リンドホルムは顔を曇らせながら言った。
彼が顔を曇らせた原因は外交官を送った先であるノルウェーにあった。
「やはり独立保障が効いているのか?」
「それだけではありません。ワレンバーグによれば国民連合の猛反発にあったとか」
ハンソンの言葉にリンドホルムは眉根を寄せた。
「あのチョビ髭のないヒトラーが邪魔だてしてるのか」
チョビ髭のないヒトラーというのは、ノルウェー・ナチスに与するヴィドクン・クヴィスリングのことだった。
「我が国が石油輸出をイギリスに代われるのなら話が違うのだが他国の面倒を見れるほど潤沢な石油があるわけでもなし、ノルウェーのことは一旦置いておこうか」
イギリスに資源的に依存しているノルウェーやエストニアといった国々はイギリスによる独立保障の下にあった。
「いえ諦める必要はありません。首相閣下の掲げるスカンディナヴィア軍事同盟構想にノルウェーを加えることは可能です」
「それは興味深い。忌憚ない君の意見を聞かせてくれ」
書類に目を通し署名する作業を一旦中断するとその耳目をハンソンへと傾けた。
「あくまでも私の私見なのですが昨今、話題のチェンバレンによるドイツへの宥和政策、チェンバレンの思惑を閣下は考えたことはあるでしょうか?」
「惰弱だとは思ったが深く考えたことはないな」
「私は、ドイツを使ってソ連の力を削ぐ、或いはソ連に対しての防波堤としてドイツを使うというチェンバレンの思惑があったのだと思うのです」
「確かに、五カ年計画以降ソ連の国力の成長ぶりには目を見張るばかりだ」
「首相閣下の掲げたスカンディナヴィア軍事同盟構想を持ってイギリスに行き我々を英国におけるソ連、対ナチスドイツへの政策の最前線拠点にしてしまえば良いのだと私は考えます」
「イギリスのためという部分に若干抵抗を感じるが、さりとて国防の観点から言えばノルウェーが我が国の同盟国として西にあるのとないのでは大きく変わってくる。だが同時にドイツとの外交も進めておかねばならないな」
「そこはワレンバーグやウンデーンの腕の見せ所でしょう」
ハンソンの意見を受けてリンドホルムの中で一つの構想が纏まりつつあった。
イギリスに対して「あなたのために防波堤になりましょう」という外交をするのならドイツに対しても同じ外交をすればいいのだと。
幸いにして北欧諸国は、ドイツ人と同じゲルマン民族が多い地域であるから、よほどイギリスやアメリカに肩入れするようなことがなければ、ドイツに槍玉にあげられることもないだろうとも考えた。
そしてスウェーデン、フィンランド、ノルウェーの三カ国による北方の安寧を図る以外にもう一つの目的があった。
「そうだな。うまく行けばノルウェーのように英国製の戦闘機を、そしてドイツの兵器も輸入又はライセンス生産ができるかもしれないな」
そう、その目的というのは軍拡にあった。
リンドホルムが就任後、真っ先に手をつけたのが軍備増強だった。
スウェーデンにはボフォースといったような火器において優秀な軍需企業はあっても戦闘機や戦車においては他国に大きな遅れをとっていた。
「流石に複葉機で列強の最新鋭戦闘機と戦わせるわけには行きませんからね」
ハンソンの言葉にリンドホルムは思わず苦笑いを浮かべた。
「ライセンス生産するだけの技術はあるが、完全自国製に切り替えるのはまだ先のことになりそうだな」
下地は整っているのだから出来ないはずは無い、リンドホルムはそう考えていたのだった。
「英独の力を借りての軍拡については、最悪事後承認でも構わない。なるべく急がせてくれよ」
「今は福祉ではなく軍備増強が優先ですからね」
過去の自分の政策を冗談に変えてハンソンは笑った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます