第13話
ちよこ6
放課後、安吾君の事をいつもテストメガネ呼ばわりしていた尚美が、足をバタバタさせて興奮しながら私と佳緒に話しかけてきた。
「ちょっとヤバイよねテストメガネの奴、何あれ格好良すぎでしょ!ちよこライバル増えちゃうんじゃないの!」
尚美の言葉に、佳緒が頷きながら話しを続ける。
「確かにあれはキュンときちゃうよね。安吾君みたいな子と付き合えたら幸せにしてもらえそうだよね」
佳緒のその言葉に私は、胸が締め付けられそうな気持ちになりながらも、不安に思った事を二人に話す。
「でも安吾君、アキラにあんな態度とって明日からクラスでいじめられたりしないかな」
私の質問に尚美が顔の目の前で、大袈裟に手を左右に振りながら答える。
「私も気になって男子達にそれとなく安吾君の事、聞いてたら女子は本当に分かってないなあって言われちゃった、何か男子は困った時、安吾君に助けられた子がたくさんいるたいで、アキラより断然みんなの信頼厚いんだってさ」
ホッとした私の表情に気づいた尚美が、最近いつも見ている占いの携帯アプリを見ながら言った。
「平成○年7月7日生まれのちよこの運勢ちょっと凄いよ!今日好きな人に告白出来て両想いになれれば、その相手と生涯結ばれるって書いてある」
佳緒の名前と存在を知ってから、私はずっと勝手にコンプレックスを持ち続けていた。佳緒に敵うものなんか私には一つもないと思って思いるのに、それでも譲れないこの気持ちに、強い感情に尚美が気づかせてくれた。
「ありがと尚美行ってくる!」
尚美と佳緒の声援を背中に受けて私は走り出す。
夕焼け空の下、猫背気味で下校する安吾君の背中を発見し私は叫んだ。
「安吾君待って!」
声をかけただけで、すでに震えるほど緊張してしまい、心臓の止まりそうになっている自分を尚美の言葉を思い出し奮い立たせる。
「今日、本当に凄かったよね、テレビに出てくる名探偵みたいだったもん、でも先生が立ち入り禁止の場所に答え用意するのはまずいよね、それでも調べたのは、安吾君も美紀先生の事好きだからなの?」
こんな事聞くつもりじゃなかったのに、一番気になっていた事が、思わず口から出てしまう。
「あの建物には入ってないし、ハンカチになんて書いてあったかも知らないよ」
「だって安吾君ハンカチにあなた達は大切な私の初めての生徒ですって書いてあったって…つまり僕達は付き合う対象ではないって言ってたよね」
そう聞き返す私に安吾君は少しだけ困った顔をした後、話し始めた。
「ある線を中心にして図形が重なる事を線対称って言うよね。美紀先生が好きだって言ってた作家さんの小説の中に、東西南北を漢字で書くと、重なり合いそうで4文字全てが跳ねや払いで微妙に重ならないって話しが出てくるんだ。それでハンカチに何て書いてあったか分かりませんじゃみんな納得しないかなと思って僕達は付き合う【対象(対称)】ではないって言ったんだ。美紀先生がどこまで計算づくか分からないけど、ニュースを良く見るようにとか、一回転すると両想いになれるって噂があるのに、絶対動かない風見鶏がクイズの答えとか、考えれば考える程、付き合える訳がないって気づくように出来てたクイズだと思うんだ。もしかしたらハンカチなんか最初から結んでないんじゃないかなあ」
私は安吾君の頭の回転の速さに、ただただ感動してしまう。
「安吾君は美紀先生と付き合いたかった訳じゃないんだよね、じゃあ何で私の事かばってくれたの?」
「西岡さん困ってたから」
それをまるで当たり前の事のように言う安吾君。
私が特別な訳ではないと、再認識しながらも想いは加速していく。尚美の教えてくれた根拠のない占いを唯一の心の寄り処に私は安吾に想いを伝える。
「良く当たる占いサイトに載ってたんだけど、平成○年7月7日生まれの人が今日両想いになれたら、一生幸せになれるんだって、だから安吾私と付き合って貰えませんか!」
一生とか温度差ありすぎる事を口走ってしまい耳まで熱くなっている私を見て、驚いた顔をした後で、安吾君が微笑む。
「それ凄い殺し文句だ。西岡さんの誕生日7月7日で僕と一緒なんだね」
そう話す安吾君の顔も私につられたのか赤くなっている。
「前から気になってたんだけど【佳緒】さんが【ちよこ】って呼ばれてるのは、僕が千秋さんに【テストメガネ】って呼ばれてるのと同じような理由なのかな」
安吾君にそう聞かれて、私は正直に自分の気持ちを話す。そんなに良くある名前じゃないのに、漢字まで一緒の名前がクラスに二人もいると紛らわしいし、佳緒って名前聞くと、みんな綺麗な方の佳緒を思い浮かべるから、部活とか委員会でもみんな佳緒って名前を先に聞いていて、私だって分かると露骨にがっかりするし、ちよこってあだ名は、尚美が安吾君を【サトウアンゴ】だから、真ん中4文字とって答案だからテストメガネって呼び出したみたいに【ニシオカカオ】カカオだからチョコでちよこだって言って、あっ!佐藤とちよこってなんだか砂糖とチョコみたいで相性良さそうだよね」
私が緊張のあまり自分でも何言ってるのか判らなくなっていると、安吾君がお腹を抱えて笑い出す。
「そっか砂糖とチョコレートか、気づかなかった。僕は佳緒って名前を聞くと、どうしても西岡さんの事が思い浮かぶから、今度から西岡さんの事、佳緒さんって呼んでもいいかなあ?」
安吾君がそう言ってくれた瞬間から、嫌いだった自分の名前を、名前だけじゃない自分自身を、私は何だか好きになれる気がしたんだ。
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